利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.05】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23JI0016

利用課題名 / Title

近赤外光を自在活用できる新材料の開発とその評価

利用した実施機関 / Support Institute

北陸先端科学技術大学院大学 / JAIST

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

近赤外光材料,太陽電池/ Solar cell,質量分析/ Mass spectrometry


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

古山 渓行

所属名 / Affiliation

国立大学法人金沢大学ナノマテリアル研究所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

宮里 朗夫

利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

JI-019:フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

700 nmを超える波長の近赤外光は自然界のほとんどの物質と相互作用しないため、透過性が非常に高く、医療材料・光電変換材料への応用が期待される。我々は過去に、従来にない三次元構造を有する金属錯体「ボール型金属錯体」を開発し、これらが近赤外光と強く相互作用すること、入手容易な前駆体から様々な誘導体を一段階で合成できることを明らかとしている。本研究では、ボール型金属錯体を基盤とした高い近赤外光捕集能を持つ新材料として、ボール型金属錯体オリゴマーの合成を検討した。

実験 / Experimental

オリゴマー化の手法として、末端アルキンの二量化を選択した。本手法により合成できるダイマー・トリマーはそれぞれデヒドロ[12]アヌレンまたはデヒドロ[18]アヌレン骨格を連結部位に持つ。それぞれ、反芳香族または芳香族性を持つ骨格であることから、集積化効果だけでなくこれらとの相互作用も期待できる。モノマーユニットはアルキンユニットを持つ前駆体を用いた混合縮合法により得た。これに対し種々条件検討を行った結果、適切な銅塩と溶媒系を用いることで、ダイマー・トリマーを選択的に合成することに成功した。これらの化合物の構造決定ははじめに1H NMRを用いたが、ダイマー・トリマーの完全な同定は困難である。そこでBruker Daltonics Inc. FT-ICR-MS scimaXを用いた高分解能質量分析(イオン化法:MALDI)を用いて解析したところ、構造を完全に決定することができた。

結果と考察 / Results and Discussion

モノマーおよび各オリゴマーの1H NMRスペクトルを詳細に解析したところ、錯体配位子のアルキン部位のオルト位プロトンにおいて、ダイマーでは高磁場シフト、トリマーでは低磁場シフトが観測され、連結部位の反芳香族・芳香族性が明確に反映されていることが分かった。各々の紫外可視近赤外吸収スペクトルにおいて、近赤外領域におけるモル吸光係数はオリゴマー化を反映し約2倍・3倍となり、特にトリマーにおいては近赤外領域において10万 (M–1 cm–1)を超える高い光捕集能を持つことが明らかとなった(図1)。一方、吸収のピークトップはダイマー・トリマーともにモノマーより長波長化が見られたものの、ダイマーの方がより長波長側に観測され、ユニット数とピーク位置には相関がないことも分かった。この原因について、分子軌道計算による解析を行ったところ、特にダイマーにおいてはデヒドロ[12]アヌレン由来の狭いエネルギーギャップを反映し、錯体由来の軌道からデヒドロ[12]アヌレン由来の軌道への遷移が支配的となり、結果大きな長波長シフトが起きることが明らかとなった。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 ボール型金属錯体オリゴマーの構造(左)およびそれらのクロロホルム溶液中における紫外可視近赤外吸収スペクトル(右)


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

質量分析の条件設定・解析において北陸先端科学技術大学院大学の宮里朗夫博士の支援を受けました。この場を借りて感謝申し上げます。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Sari Ishikawa, Dehydro[12]‐ and [18]annulene‐Fused Ball‐Shaped Ruthenium Complex Oligomers: Synthesis, Aromatic/Antiaromatic Effect, and Symmetry for Near‐Infrared Optical Properties, Chemistry – A European Journal, 30, (2024).
    DOI: 10.1002/chem.202400407
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. Taniyuki Furuyama, "Organic Reactions Using Near-infrared Light Mediated Controlled Photocatalysts" 18th International Workshop on Supramolecular Nanoscience of Chemically Programmed Pigments (SNCPP23) (Shiga, Japan), 2023年6月10日
  2. Taniyuki Furuyama, "Design of Controlled Near-infrared Light-responsive Photocatalysts" 2023 Taiwan-Japan Symposium on Reaction Control (TJSReC) (Hsinchu, Taiwan), 2023年7月29日
  3. 古山渓行 "近赤外光反応制御が拓く有機合成化学" 神戸大学大学院工学系研究科講演会, 2023年9月15日
  4. 古山渓行 "近赤外NIR-II領域を活用できる新材料" JST戦略的創造研究推進事業① 〜さきがけ研究領域「反応制御」〜 新技術説明会, 2023年10月20日
  5. 古山渓行 "光反応制御を目指した近赤外色素合成化学" 九州大学大学院総合理工学研究院・理学研究院特別講演会, 2023年10月30, 31日
  6. 古山渓行 "近赤外光を活用できる有機材料の合成と機能開発" 第1回金沢大学ナノマテリアル研究所シンポジウム, 2023年12月7日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:1件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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