利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.03.31】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23KT1287

利用課題名 / Title

澱粉の簡易計測に向けたイモ類のラマン分光測定

利用した実施機関 / Support Institute

京都大学 / Kyoto Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

澱粉,ラマン分光,結晶構造,澱粉,農産物,イモ類,X線回折/ X-ray diffraction


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

中島 周作

所属名 / Affiliation

理化学研究所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

KT-310:X線回折装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

我々の研究グループでは、農産物に含まれる澱粉の簡易計測法の開発に取り組んでいる。近年、結晶構造に敏感な低波数ラマン分光を用いることで、精製や抽出などの前処理なしに果実から澱粉の情報だけを選択的に得られることを発見した[1]。この成果により、従来法で数日間を要していた澱粉定量がわずか数十秒に短縮された。そこで今後の応用を見据えると、他の農産物でも同様な測定をできるか明らかにする必要がある。本研究では、澱粉を多く含むイモ類を用いて先行研究と同様なラマン分光測定を実施した。まず基礎的な知見を得るためイモ類から精製した澱粉の結晶構造とラマン分光スペクトルとの関係性を調べた上で、実際の農産物を測定した。

実験 / Experimental

サンプルには、ジャガイモ、サトイモ、サツマイモの3種類を用いた。ジャガイモとサツマイモの澱粉粉末は富士フィルム和光純薬社製の試薬を用いた(Cat. No. 196-13185および193-03945)。また先行研究[2]に従い、サトイモの澱粉粉末は農産物から精製し、3種類のXRDパターンとラマン分光スペクトルを測定した。XRD測定では、X線回折装置(SmartLab, リガク)を用いて、回折角2θ=4–40ºを分解能0.05ºで測定した。ラマン分光測定では、785 nmのレーザーとCCD検出器を搭載したラマン分光器(zRaman-N-785-A1S, Enwave Optronics)を用いた。測定帯域を100-2000 cm-1、分解能を1 cm-1とした。次に、3種類のイモの切断面をラマン分光装置で測定した。その際、測定部位の差を調べるため、中心と外側の2点を測定箇所とした。測定条件は上記と同様である。

結果と考察 / Results and Discussion

澱粉粉末のXRDパターンとラマン分光スペクトルを図1に示す。3種類の回折パターンは異なり、サトイモはA型、ジャガイモはB型、サツマイモはC型の結晶構造を示した(図1A)。ラマン分光測定では、ジャガイモとサトイモは250 cm-1から1500 cm-1の間に複数の分子間および分子内振動が確認され、文献[3]と類似したスペクトルとなった。一方で、サツマイモでもピークを確認できたが、1100 cm-1を中心にベースラインが上昇した(図1B)。結晶構造が崩れたアモルファスを測定するとベースラインが変動する場合もあるが、サツマイモ澱粉が結晶性を持つことからアモルファスの影響とは言えない。ラマン分光スペクトルのベースライン変動の主たる要因として蛍光が知られており、今回もサツマイモ澱粉に結合した物質の蛍光である可能性が高い。しかし、785 nm励起、1100 cm-1(880 nm相当)付近での蛍光分布について議論が少ないことから、蛍光だけでなく他の化学的、物理的要因が寄与した可能性も否定できない。
次に、イモのラマン分光スペクトルを図2に示す。ジャガイモとサトイモでは部位による差は見られず、さらに1000 cm-1以下において澱粉粉末と極めて類似したスペクトルとなった(サトイモの結果は略)。ジャガイモやサトイモには様々な夾雑物が含まれているにも関わらず、果実を測定した先行研究[1]と同様に1000 cm-1以下で澱粉のピークを選択的に得られることが明らかになった。一方で、サツマイモの外側では、粉末と同様にベースラインの上昇が確認された。
以上の結果から、ラマン分光スペクトルの低波数域に注目することでジャガイモとサトイモから澱粉の情報を得られることが明らかになった。一方で、サツマイモのように測定部位によってベースラインが大きく変動するサンプルもあることを確認できた。今後、ベースライン上昇の要因を詳細に調べ、そのようなサンプルからも澱粉の情報を得られる手法を検討していく。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. 澱粉粉末の測定結果:(A) XRDパターン、(B) ラマン分光スペクトル



図2.イモ類のラマン分光スペクトル:(A) ジャガイモ、(B) サツマイモ (n=3).


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

【参考文献】
[1] Nakajima S. et al. (2023) Food Chem. 401, 134166.
[2] Bello-Pérez L. A. et al. (1999) J. Agric. Food Chem. 47, 854-857.
[3] Kizil R. et al. (2002) J. Agric. Food Chem. 50, 3912-3918.


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 伊葉俊輔,伊藤博通,黒木信一郎,中島周作.デンプンのモニタリングに向けた芋類のラマン分光測定.関西農業食料工学会第151回例会.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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