【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.07.05】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23TT0032
利用課題名 / Title
無機・金属結晶表面を用いた構造作製と走査プローブ顕微鏡による観察
利用した実施機関 / Support Institute
豊田工業大学 / Toyota Tech.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials
キーワード / Keywords
走査プローブ顕微鏡/ Scanning probe microscope
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
岡田 有史
所属名 / Affiliation
京都工芸繊維大学材料化学系
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
吉村雅満
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),共同研究/Joint Research
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
β-Ga2O3(-201)はパワー半導体として優れた性質を持ちながらp型にならないという欠点を有しているため、p型になる物質を用いたヘテロ構造作製はβ-Ga2O3を用いたパワーデバイスの実現に向けて重要なプロセスとなる。本研究ではその初期過程として、(1)超高真空でのNi蒸着および酸素曝露、そして(2)ゾルゲル法を用いたNiO薄膜の作製を行い、両者のモルフォロジーの比較を行うと共に、ゾルゲル法による薄膜においては電子状態を測定した。超高真空の実験では、β-Ga2O3(-201)表面にNi蒸着を行い、次いで酸素曝露を行い、走査トンネル顕微鏡および非接触原子間力顕微鏡観察を行った。ゾルゲル法の実験では、β-Ga2O3(-201)表面に合成プロセスと熱処理を繰り返し、NiO薄膜を合成した。得られた薄膜は原子間力顕微鏡で表面の観察を行い、X線光電子分光で電子状態の測定を行った。
実験 / Experimental
Snドープで[102]方向に傾斜0.7°をもつβ-Ga2O3(-201)基板を超高真空チャンバに導入し、脱ガス後900℃で30分の熱処理を行った。熱処理後の表面は走査トンネル顕微鏡(STM)でステップ-テラス構造が生成していることを確認した。この表面にNiを電子ビーム蒸着した。蒸着レートは0.1 ML/s、蒸着量はサブモノレイヤーから数モノレイヤーの間とした。この表面に酸素を1200~1900 L曝露した。Ni蒸着後および酸素曝露後の表面は走査トンネル顕微鏡と非接触原子間力顕微鏡で観察(NCAFM)した。走査トンネル顕微鏡観察では、微分コンダクタンスの測定も行った。微分コンダクタンスは、ファンクションジェネレータを用いてバイアス電圧に2 kV,peak-to-peak 15 mVのモジュレーションを加え、アナログロックインアンプを用いて測定した。非接触原子間力顕微鏡では、easy-PLL発振装置を自励モードで用いてカンチレバーを安定に発振させた。ゾルゲル法の実験では、酢酸ニッケルとモノエタノールアミンを原料とし、2-メトキシエタノールを溶媒として0.2~0.4 Mの溶液とし、基板にスピンコートして乾燥、熱処理を行ってNi-Oゲルの合成および結晶化を行った。得られた薄膜は大気中で原子間力顕微鏡(AFM)で観察し、光透過スペクトルとX線光電子分光(XPS)を用いて接合構造のエネルギーダイアグラムを描画した。
結果と考察 / Results and Discussion
超高真空の実験では、Niを蒸着すると直径1~2nmのクラスターが生成し、蒸着量を増加させてもサイズは変化しなかった。クラスターは600℃以上の熱処理や酸素暴露でサイズが増大し、クラスター同士が融合することがわかった。クラスターが試料表面全域を被覆した場合と酸素暴露を行った場合の両方でSTMのトンネル電流が著しく不安定となり、像の取得が困難となったため、凹凸像はNCAFMでのみ取得した。熱処理後の例をFig.1に示す。STM像の取得は困難となったが、電流-電圧特性を測定することはでき、負電圧側-1 V以下の電圧で電流が急増する現象が見られた。この物性変化は、熱処理の場合は蒸着したNiが表面全域に密着することでSchottky接合を形成するためと考えられた。酸素暴露によって見られた類似の物性変化は、NiO/β-Ga2O3のpn接合が生成し、STM観察時に像が得られた空準位に電子を注入する方向の電流が逆バイアス時の電流に相当するためと推測された。STMで得られた微分コンダクタンスは、理論上表面の状態密度に比例するが、本研究では負電圧側の電荷キャリアである正孔の有効質量が著しく大きくなるため、負側のシグナルが小さくなった。しかしながら、Ni蒸着時に負電圧側に新たなシグナルの増大が見られ、Ni由来の電子状態が生成したと解釈された。試料はいずれも帯電しやすく、微分コンダクタンス測定の直前に正負どちらのバイアス電圧が印加されていたかで全体的なシグナルの強度に有意の差が見られ、試料を負バイアスでしばらく置いておくと微分コンダクタンスのシグナルが著しく弱まることがわかった。ゾルゲル法で作られたNiO/β-Ga2O3薄膜では、透過スペクトルとXPSのデータからpn接合に類似したエネルギーダイアグラムが得られた(Fig.2)。しかし試料によってpn間のバンドのエネルギー障壁の高さが異なり、モルフォロジー(一例をFig.3に示す)と電子構造に密接な関係があることがわかった。今後は成長条件の最適化を行う必要があると考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig.1 β-Ga2O3(-201)表面上にNi蒸着を1min行い、720℃で80min加熱した表面のNCAFM像。カンチレバーの発振はeasy-PLLを用いて行った。
Fig.2 ゾルゲル法で作製したNiO/β-Ga2O3(-201)の電子構造の一例。
Fig.3 ゾルゲル法で作製したNiO/β-Ga2O3(-201)のAFM像の一例。右側のグラフは像中の直線ABに沿った高さプロファイル。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- Gyoungho Lee, Arifumi Okada, "Measurement of Local Density of State on Ni / β-Ga2O3(-201) Surface", 31st International Colloquium on Scanning Probe Microscopy (Tokyo, Japan), S4-42, 7th Dec., 2023 (Poster).
- 山脇 聡真,岡田 有史,“溶液を用いたβ-Ga2O3(-201)上へのNiO薄膜作製における合成条件の影響",第71回応用物理学会春季学術講演会(東京),24p-P16-11(2024年3月24日).
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件