利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.07.04】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23TT0011

利用課題名 / Title

スピン軌道トルク増幅層の導入によるトルク効率の向上に関する研究

利用した実施機関 / Support Institute

豊田工業大学 / Toyota Tech.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions

キーワード / Keywords

スピントロニクスデバイス/ Spintronics device,スパッタリング/ Sputtering,電子線リソグラフィ/ EB lithography,ワイヤーボンディング/ Wire Bonding,スピントロニクス/ Spintronics


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

田中 雅章

所属名 / Affiliation

名古屋工業大学大学院 工学研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

粟野博之

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub),機器利用/Equipment Utilization


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

TT-002:多機能薄膜作製装置
TT-014:電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)(電子ビーム描画機能付属)
TT-019:ナノ物性測定用プローブ顕微鏡システム
TT-021:偏光顕微鏡(青色レーザー照射可能)
TT-022:磁気光学効果測定装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 細線形状の強磁性薄膜に生成した磁壁は細線に電流を流すと移動する。この現象は磁壁の電流駆動現象と呼ばれ、磁壁をデジタルデータに見立てる不揮発メモリーへの利用が研究されている。「強磁性層/重金属層」からなる2層構造の細線では、細線に電流を流すと重金属層のスピンホール効果により重金属層の表面付近にスピン蓄積が生じ、強磁性層との接合界面では蓄積されたスピンがスピン流として強磁性層に流れる。強磁性層に流れたスピン流は磁気モーメントにスピン軌道トルク(SOT)を与えて、磁気モーメントが回転をする。強磁性層が垂直磁化を持ち、また磁壁構造がネール磁壁の場合、磁壁周辺の磁気モーメントにSOTが与えられると磁気モーメントの回転により磁壁の位置が移動するため、ネール磁壁が安定であれば高速での磁壁駆動が可能になる。 
 本研究ではSOTによる磁壁の高速駆動が可能な試料構造の探索を目的に、強磁性体の{Tb/Co}n薄膜と重金属のPt薄膜が接する{Tb/Co}n /Pt構造の接合界面のCo層の膜厚の変化が磁壁駆動速度に与える影響を評価した。

実験 / Experimental

 酸化被膜を有するシリコン基板上にレジスト膜を形成した後、電界放出形走査電子顕微鏡(TT-014)の電子ビーム描画機能を用いて電極パッドを両端にもつ線幅10μm、線長80μmの細線形状のパターンを露光した。現像後に多機能薄膜作製装置(TT-002)を用いて{Tb/Co}n/Ptを成膜した。{Tb/Co}n層は、Tb膜厚0.54 nmとCo膜厚0.78 nmをそれぞれ5回積み重ねた積層構造であり、Pt(3 nm)と接するCo層の膜厚tを0.27, 0.53, 0.80, 1.06, 1.33 nmと変化させた。薄膜の磁気特性は、偏光顕微鏡(TT-021)を用いて評価した。細線の膜厚評価にはナノ物性測定用プローブ顕微鏡システム(TT-019)を用いた。細線を磁気光学効果測定装置(TT-022)に取り付け、レーザー加熱を使って磁壁を生成した後にパルス電流を印加して電流印加前後の磁壁の位置から磁壁速度を計測した。

結果と考察 / Results and Discussion

磁気特性の評価から作製した試料の強磁性層はすべて垂直磁化を示すことがわかった。また、それぞれの細線では電流による磁壁駆動の速度は電流密度の増加とともに増加することがわかった。電流密度を4.2×1011 A/m2として、Pt層と接するCo層の膜厚tを変えた場合、0.27 nmから1.06 nmまではtの増加により増加し、t =1.06 nmの細線では磁壁速度は20 m/sになることがわかった。また、t をさらに増加させたt=1.33 nmの細線では磁壁速度は18 m/sと低下することがわかった。 接合界面付近のCo膜厚の増加による磁壁速度の変化は、CoがTbよりも効率的にSOTを受けたためと考えられる。3d遷移金属のCoと希土類金属のTbからなる強磁性(フェリ磁性)体では、主にCoにSOTが働く[1]。そのためPt付近のCo層が厚くなると同じ大きさのSOTを受けた場合、磁気モーメントを回転させる効率が高くなると考えられる。一方でt=1.33 nmの細線で磁壁速度が低下した原因はCo層の増加により垂直磁気異方性が低下して、ネール磁壁が安定化しなかったためと考えられる。本研究から「強磁性層/重金属層」の接合界面を最適化することでSOTの効率が向上でき、磁壁速度が向上できることがわかった。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

・参考文献:[1] M. Tanaka et al., AIP Advances 7, 055916 (2017).


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 杉野 真健,坂本 拓斗,徳山 年紀,田中 雅章,本多 周太,粟野 博之,壬生 攻、”{Tb/Co}n/Pt多層膜構造細線の接合界面Co層がスピン軌道トルクの効率に与える影響の評価”、IEEE Magnetics Society Nagoya Chapter若手研究会、2024年1月30日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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