利用報告書 / User's Report

【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.05.17】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23KU2002

利用課題名 / Title

ナノ粒子半導体の構造の調査

利用した実施機関 / Support Institute

九州大学

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions

キーワード / Keywords

量子ドット(QD),コア・シェル構造,電子顕微鏡/ Electronic microscope,フォトニクス/ Photonics,ナノ粒子/ Nanoparticles


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

宮永 昭治

所属名 / Affiliation

TOPPAN株式会社

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

吉原麗子,渡邊真由子

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

鳥山 誉亮,福永裕美,山本知一,KIM CHAERIN

利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術補助/Technical Assistance(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

KU-004:広電圧超高感度原子分解能電子顕微鏡
KU-511:走査電子顕微鏡装置群


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

ナノ粒子半導体である量子ドット(QD)は、粒径で発光波長を制御できるというバルクとは異なる新機能を有することが特徴の一つである。QDを蛍光体として用いる場合には、その特性や信頼性を向上させる為にコア・シェル構造を形成することが有効である。コア結晶材料とシェル結晶材料のバンドのエネルギー準位によって、図1の様な4つのTypeに分類される。Type I構造を形成すると、コア内にエキシトンを閉じ込めることにより発光特性や信頼性が向上する。コア・シェル構造を形成させることは有効であるが、コアとシェルの界面に結晶欠陥を生じない様にすることが重要である。コア上にシェルを欠陥を生じさせないようにヘテロエピタキシャル結晶成長させる為には、結晶構造とその格子定数が決め手となる。コアとシェルの格子不整合率が大きい場合には、コアとシェルの間にバッファー層となる結晶を形成させることも一手段である。いずれにしろ、コアやシェルの格子定数を正しく知ることが、QD合成の戦略上で大変重要である。そこで、今回ナノ粒子半導体の格子定数を精度よく算出することを試みた。今回は格子定数を算出する手法を取得することを目的として、開発中のQDの中でも比較的単純な構造(2元系、立方晶)の QD の高分解能電子顕微鏡観察によって格子定数算出を実施したのでその結果を報告する。

実験 / Experimental

九州大学超顕微解析研究センター所有の広電圧電子顕微鏡(JEM-ARM200CF)を用いて、Cd Free Blue QD ZnSeコアの高分解能電子顕微鏡観察を実施した。詳細は以下の通りである。
(1)結晶構造推定 ①複数の粒子について制限視野電子回折
            -> リングパターンにより解析を実施
            ②1個の粒子について、2方向から原子分解能像観察
            -> 結晶構造を推定
(2)格子定数算出 ③複数の粒子について制限視野電子回折
                 -> リングパターンにより算出
            ④1個の粒子について原子分解能像観察
                                     -> 実測により算出
            ⑤1個の粒子について原子分解能像観察
            -> FFTパターンより算出

結果と考察 / Results and Discussion

結果(1)-①
複数のナノ粒子について制限視野回折を実施し得られたリングパターンから面間隔を算出した。図2に制限視野の例を示し、そこから得られた電子回折を図3に示す。
表1に示すように、電子回折の結果より算出した面間隔と、ICDD(閃亜鉛鉱型結晶構造ZnSe)データベースの面間隔といい一致を示した。
結果(1)-②  図4にZnSeナノ粒子の原子分解能像(100)面を示す。その原子分解能像と同一の粒子を45°傾けた時の原子分解能像を図5に示すが、(110)面が確認できる。
つまり、今回観察したZnSeナノ粒子は閃亜鉛鉱型結晶構造であると推定される。
結果(2)-③ (1)-①の解析結果より、(200)、(400)の面間隔から格子定数を算出した。(200)より0.569[nm]、(400)より0.570[nm]と見積もられた。
結果(2)-④ 原子分解能像のSeの配列から格子定数を求めた。具体的には、図6に示すような原子分解能像の原子像の輝度分布より見積もった。
電子顕微鏡像はx軸、y軸にスキャン歪を持っているので、直行する2方向から算出し、平均値求めた結果、0.57[nm]であった。
結果(2)-⑤ 原子分解能像のFFT変換より得られた(400)より格子定数を求めた。格子定数0.53[nm]

考察 ZnSeコアは、制限視野電子回折によるリングパターン解析結果、および同一粒子の2方向からの原子分解能像より閃亜鉛鉱型結晶構造であると推定された。ZnSeコアについて、3項目から格子定数を求めた結果、バルク結晶の時の閃亜鉛鉱型ZnSeの格子定数0.567[nm]と近い値をとっていることが分かった。
 今回、QDの中でも比較的単純な構造(2元系、立方晶)をもったZnSeコアの電子顕微鏡観察および格子定数算出を実施した。原子分解能像を撮影する際には高倍率となり、ごく狭い範囲に電子線を照射することになりナノ粒子の観察では電子線照射による粒子の損傷が心配であった。今回も観察中に電子線照射による粒子の崩壊が見られたが、電子線照射条件を工夫することにより、粒子が崩壊せずに必要な観察をすることができた。また、結果についても結晶構造の推定と格子定数の算出を実施することができた。今後より複雑な結晶系に関して知見を構築していきたい。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 コア・シェル構造をもつQDの4タイプ(type)   ↕はバンドギャップ、ECBは伝導帯下端のエネルギー準位、EVBは価電子帯上端のエネルギー準位



図2.制限視野(明るい丸枠内を電子回折)



図3.制限視野電子回折



表1. 電子回折より算出した面間隔の結果とICDD(閃亜鉛鉱型結晶構造ZnSe)データベース情報



図4.ZnSeナノ粒子の100面原子分解能像



図5.ZnSeナノ粒子の110面原子分解能像



図6.ZnSe(100)面原子分解能像のある1列のSe像の輝度分布


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

【参考文献】
Seto, Y. & Ohtsuka, M. (2022). J. Appl. Cryst. 55,  https://doi.org/10.1107/S1600576722000139.

【謝辞】
本研究の一部は九州大学超顕微解析研究センターマテリアル先端リサーチインフラ 事業の支援を受けて実施されました。九州大学超顕微解析研究センターの鳥山誉亮様、福永裕美様、山本知一先生の電子顕微鏡の操作と結晶構造解析手法のご教示に深く感謝いたします。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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