【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.07.11】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23QS0114
利用課題名 / Title
高温水素環境での鉄鋼材料の損傷組織のその場観測技術の開発
利用した実施機関 / Support Institute
量子科学技術研究開発機構 / QST
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)その他/Others(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
水素脆化,構造材料,X線回折/ X-ray diffraction,放射光/ Synchrotron radiation
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
米村 光治
所属名 / Affiliation
日本製鉄株式会社
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
山口 樹,豊川 秀訓,菅野 聡
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
齋藤 寛之
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
本研究は水素製鉄における配管材料の損傷劣化メカニズムの解明に関する。基幹産業である鉄鋼分野の研究開発は、新しい機能性材料、構造材料の商品化に見られるように、鉄鋼材料の高性能化、新合金または製造プロセスの開発等、ますます盛んであり、特に製造プロセスのCarbon Neutralは、自動車やプラントなどのユーザーのみならず、社会からも大きく注目されている。なかでも当社では社会におけるCO2 排出量削減に貢献する製品・ソリューション技術“NSCarbolex”において、脱炭素に関して現在推進中の高炉水素還元、さらには2050年までに100%水素直接還元プロセスの製鉄(以下、水素製鉄)の実機化を計画している(1)。実機化に必要な超革新技術開発の最重要課題の1つは、高温水素を送り込む配管材料の水素脆化・損傷メカニズムの解明である。そのため、配管寿命・安全性の観点からミクロ組織レベルの損傷評価が求められている。本研究では、水素製鉄に利用される配管材料の高温水素環境での損傷による相変態および転位密度の変化のその場観測を最終目的とする。高温水素下の鉄鋼材料の損傷に関しては複数の報告があるが、中断材に因る材料評価であり、一旦、水素環境から大気中に曝露するため、表面酸化層も含め、本来の水素起因の損傷か判断するのは困難であり議論が絶えない。一方で、高温水素環境で配管材料の損傷をその場観測した例は無く、本課題が世界初の試みとなる。本課題では、制御・解析技術の開発・評価のために、既存の配管材料を高温水素環境で保持しながら、高エネルギーX線回折で転位密度変化の二次元時間分解その場観測技術を開発する。
実験 / Experimental
サンプルには、ニラコ製Inconel600のNi基合金を使用した。直径1 mmφx 0.6 mmHのディスク状の試料を、水素源NH3BH3とBNで挟み、圧力と温度によって水素源から水素を発生させる(2)。試料の下部に1つ設置、上部はBNとした。水素無しの場合は、水素源の代わりにBNを設置した。本報告では、水素の有無、熱処理温度を転位回復前の400℃と転位回復後の800℃とした。実験は、SPring-8 BL14B1で実施した。Fig.1に実験系を示す。70 keV(λ=0.017714 nm)の単色光(ビーム径:0.2 mm×1 mm)を試験片に入射し、QST極限量子ダイナミクスⅡビームライン高温高圧発生装置(3)で静水圧圧縮しながら、透過法でエネルギー閾値型2次元CdTe検出器(ピクセル数:幅191×高さ201、ピクセルサイズ:幅0.2 mm×高さ0.2 mm)で観測した(4)。二次元検出器では広い逆格子空間を観測可能であり、配向性をもって現れる相の回折を観測できる利点がある(5)。カメラ長は400 mmとし、検出器をスライドさせ、低角側と高角側の二次元回折像を測定した。昇温開始のタイミングパルスで計測が開始するようシステムを設計した。
結果と考察 / Results and Discussion
Fig.2に400℃昇温過程のDebye-Scherrer環(回折リング)の変化を示す。γ111、γ200、γ220が観測される。その他のリングはカプセルのNaClであり、温度変化によって変化しない。400℃、水素雰囲気では、約340℃で回折リングに変化が観られ始める。400℃に到達すると回折リングが一旦分裂する。これは、水素拡散に因る内部と表面の水素量の差と推察される。その後、400℃保持で回折リングが低角側にシフトし再度1本に変化する。これは内部の水素侵入に因る膨張と推察される。そして回折リング幅も広がり、転位導入が示唆される。水素無しでは明瞭な回折リングの変化は観られず、水素無しでは回折リングがリング状であり、水素雰囲気下では回折が比較的塊状である。Fig.3-1とFig.3-2に800℃昇温過程のDebye-Scherrer環の変化を示す。水素雰囲気下では、約394℃から回折リングに変化が現れ、400℃で、或る結晶粒がトリガーとなり、約422℃で回折リングが一旦分裂する。400℃同様に水素拡散に因る内部と表面の水素量の差と推察される。その後、約542℃で回折リングが低角側にシフし、約664℃で再度1本に変化する。水素侵入に因る膨張と推察される。一方、水素無しでは、400℃同様に明瞭な回折リングの変化は観られず、水素無しでは回折リングがリング状であり、水素雰囲気下では回折が比較的塊状である。以上のように、温度と水素の有無により、組織の変化の相違を明瞭に観測することができた。現在、転位密度解析を進めており、定量的な議論へ展開する。その場観測により水素に因る損傷を明確化し、配管材料の設計へフィードバックすると伴に安全安心な水素製鉄によるゼロカーボン施策に貢献する。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig.1 実験装置概観
Fig.2 400℃昇温過程の水素有無のDebye-Scherrer環の変化
Fig.3-1 800℃昇温過程の水素雰囲気下のDebye-Scherrer環の変化
Fig.3-2 800℃昇温過程の水素無しのDebye-Scherrer環の変化
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
参考文献
(1) https://www.nipponsteel.com/csr/env/warming/zerocarbon.html
(2) H. Saitoh et. al., Physica B, 587, (2020), 412153.
(3) H.Saitoh, et al., Journal of Alloys and Compounds 706 (2017) 520-525.
(4) 豊川秀訓ほか: 放射光学会誌, 22,256 (2009).
(5) M.Yonemura et al, Materials Transactions, Vol. 47, No. 9 (2006) pp. 2292 to 2298
謝辞
量研齋藤寛之博士には、本実験遂行にあたり、適切なご助言、ご協力を賜りました。感謝申し上げます。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件