【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.21】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23QS0105
利用課題名 / Title
高水素圧力下におけるEu水素化物の電子状態分析III
利用した実施機関 / Support Institute
量子科学技術研究開発機構 / QST
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion
キーワード / Keywords
水素貯蔵/ Hydrogen storage,放射光/ Synchrotron radiation,メスバウアー分光/ Mossbauer spectroscopy
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
増田 亮
所属名 / Affiliation
弘前大学大学院理工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
松岡 岳洋,原 洋新,村上 海斗,山下 拓之,加藤 大貴
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
三井 隆也,藤原 孝将
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
(目的)
希⼟類(RE)は⽔素との電気陰性度の差から⽔素化物を⽣成しやすい元素として知られており、REH2やREH3など多価の⽔素化物を形成することが知られている。近年ではGPa級以上の⽔素圧⼒下において、従来の数気圧程度の⽔素化物とは異なる⽔素化物が⽣成することが明らかになりつつある。理論計算ではREHxにしてx = 4 – 10のさまざまな⽔素化物が提案され、また⼀部の⽔素化物は⾼温超伝導を⽰すなど、次々と従来の知識が塗り替えられるフロンティアの⼀つとなっている。しかし、⾼⽔素圧⼒条件下での物性測定は⾼圧⼒発⽣装置(ダイヤモンドアンビルセル、以下DAC)の必要性及びDACを利⽤してできる加圧下試料空間の⼩ささから、適⽤可能な測定法には制限がある。また、温度や外部磁場といった条件を制御しての測定はさらに困難となっている。
そのようなDACによる制限は、透過⼒の⾼いX線を⽤いるメスバウアー分光法で克服出来る。実際、多核種メスバウアー分光法の開発により、多くの希⼟類元素でも⾼輝度放射光でのメスバウアー測定が可能になり、我々の研究グループではユウロピウムEuについて10 GPa級の⾼⽔素圧⼒下で、⽔素化過程のメスバウアー測定を⾏ってきた。⼀⽅で、この数年で⾼⽔素圧⼒下のEu⽔素化についてさらに多くの新奇現象が別グループにより報告されている。例えば、理論計算により、EuH10までの様々な水素化相が予想され、またいくつかはクラスレート物質として磁気秩序が示唆されている。実験的には、我々の発⾒したEu3+のEuHx (x = 2+α)は、10 GPa程度では⾯⼼⽴⽅格⼦(fcc)からわずかに乱れた正⽅格⼦であったが、より⾼圧では完全なfccとして報告されている。また、更なる⾼⽔素圧下ではEuH4, EuH5, Eu8H46, EuH6, EuH9,など様々な相がX線回折により議論されている。そこで、本課題では、未だ確認されてない微視的な電⼦状態について、実験的に明らかにすることを目的とした。
(用途)
⾼⽔素圧⼒下における⽔素化進展に伴うEu電⼦状態の変化について実験的に調べるために、⾼輝度放射光を⽣かしたDACに対応可能な⾼効率メスバウアー測定系を⽤いて、⾼⽔素圧条件下でのEuに対して151Euエネルギー領域放射光メスバウアースペクトルを試みた。これまで、水素化圧力下測定としては16 GPaが上限であったため、それを上回る20 GPa以上の高水素圧力下の測定の可否を確かめた。
(実施内容)
151Eu放射光メスバウアー吸収分光測定系を構築し、常温にて、6.5 GPa, 21 GPa, 41 GPaの各圧力での151Euメスバウアースペクトルの測定に成功した。その結果、価数を反映する151Euのセンターシフトが水素圧力の上昇に伴って顕著に変化することが明らかになった。
実験 / Experimental
BL11XUのSi(111)標準分光器と追加のSi(333)分光器により、151Eu同位体の核共鳴励起エネルギー21.5 keVのX線を分光する。このX線をDAC中で⽔素雰囲気下にて加圧されたEuHx試料に照射する。透過X線は、下流側に配置した基準となる散乱体試料(核共鳴エネルギー基準物質)EuF3に照射され、アナライザーからの核共鳴散乱信号を、8素⼦型アバランシェフォトダイオード(APD)検出器で検出する。このアナライザーは速度制御装置と直結されており、ドップラー効果を通じてアナライザーの相対核共鳴励起エネルギーをμeV程度のエネルギーレンジで走査する。このアナライザーの速度と散乱強度の相関をとることで、メスバウアーエネルギースペクトルを測定する。水素化物試料は極低温での水素流体を利用することで水素圧力を印加したDAC中に封入された高純度化学製のEuHxで、測定は常温で行われた。6.5 GPaから始め、段階的に高水素圧力へと測定を試みた。
結果と考察 / Results and Discussion
DACの加圧により試料空間は少しづつ減少したため、加圧によって信号強度は低下していったが、6.5 GPa、21 GPa、41 GPaでの水素圧力下のメスバウアースペクトル測定に成功した。これは、水素圧力下での測定としては最高圧となる。それぞれのスペクトルを図1に示す。いずれも2価及び3価の存在が示唆された。先行研究では、6.5 GPaでは2価と3価の共存もあるが、16 GPaでは3価のみであったため、21 GPaでのスペクトルは3価のみとの予想と異なるものであった。したがって、2価成分については、(i) 不純物(代表的候補EuO)、(ii) 圧力の不均一、(iii) 準安定相として共存相が存在、の3つの要因が考えられた。しかし、(i) については過去文献におけるEuOの不活性圧媒体での高圧条件下の変化と異なるため、考えにくい。このため、(ii)、(iii)のどちらかと考えられる。また、これらの2価及び3価のメスバウアースペクトルからローレンツ関数で評価されたセンターシフトの値の圧力変化を図2に示す。Eu2+は誤差の範囲で変化がないが、Eu3+は圧力に対して単調増大していることが見て取れる。すなわち、方向性としては加圧によってイオン的から金属的なEu3+になる傾向の変化である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 151Eu放射光メスバウアースペクトル。中塗りの赤丸、中抜きの赤丸、中塗りの四角はそれぞれ6.5 GPa、21 GPa、41 GPaのデータ。曲線は2価と3価のユーロピウムの存在を仮定した2個のローレンツ関数による適合曲線。
図2 センターシフトの水素圧力変化。赤丸がEu3+成分、青丸がEu2+成分。各データの上下に伸びる棒は評価誤差。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
謝辞: 本研究はJSPS科研費JP23K11698の助成を受けたものです。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 増田亮、"高水素圧下 Eu 水素化物の放射光メスバウアー吸収測定"、第17回SPRUC核共鳴散乱研究会(名古屋)、令和6年3月1日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件