利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.21】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23QS0011

利用課題名 / Title

量子ビームハイブリット実応力解析の小口径溶接配管の残留応力マップへの応用

利用した実施機関 / Support Institute

量子科学技術研究開発機構 / QST

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)その他/Others(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

残留応力マップ,溶接・接合,中性子回折,二重露光法,放射光/ Synchrotron radiation,X線回折/ X-ray diffraction,放射光/ Synchrotron radiation


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

鈴木 賢治

所属名 / Affiliation

新潟大学教育研究院人文社会科学系

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

三浦 靖史,豊川 秀訓,佐治 超爾

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

城 鮎美

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

QS-141:高温高圧プレス装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 これまでは沸騰水型炉(BWR)のステンレス鋼製大口径配管の応力腐食割れ(SCC)が問題となっていたが,近年,SCCが発生しにくいと言われていた加圧水型(PWR)の大飯発電所3号機加圧器スプレイライン配管の溶接部にもSCCが見つかり,小口径配管の溶接残留応力が問題となっている.この問題は日本だけでなく,フランスのPWRの大口径配管の溶接部などにおいてもステンレス鋼のSCCによるき裂が新たに見つかっている.国内PWRのステンレス鋼配管溶接部は基本的に応力改善措置が実施されておらず,また,国内BWRの配管溶接部は大口径管を中心に応力改善措置が実施されているが,小口径配管では寸法の制限等により溶接後の応力改善措置が実施できない場合がある.そのため,炉形を問わず小口径配管の溶接残留応力の実応力を知ることが,原子力発電設備の安全に不可欠である. このような情勢において,小口径配管の残留応力の実測例は限られているのが現状であり,その対策を科学的に取るためには,何をおいても溶接配管の残留応力の本質的理解が必要になっている. 本研究では,高エネルギー放射光による二重露光法を用いた詳細な残留応力の2次元分布と中性子回折による3軸応力解析を組み合わせた量子ビームハイブリッド実応力解析により,小口径配管の詳細な溶接残留応力マップを作成した.

実験 / Experimental

 オーステナイト系ステンレス鋼配管SUS316TP, 100A ,スケジュール120 (外形114.3 mm, 厚さ11.1 mm)を突合せ溶接した.この溶接配管から放電加工にて溶接部を中心にして,軸方向長さ100 mm,厚さ 5 mmの放射光による残留応力マップ作成用の短冊状の試験片を取り出した.放射光実験は,SPring-8の量子科学技術研究開発機構専用ビームラインBL14B1で実施した.X線エネルギー70 keV,X線ビームサイズ0.4 mm x 0.4 mmとした.二重露光法(DEM)の実験は図1に示すように試験片板厚方向にX線ビームを透過させ,前方P1および後方P2の2箇所で回折を測定する.なお,回折の測定方向も回折像を水平(y),垂直(z)方向の2方向で測定した.回折像測定の検出器は,CdTeピクセル検出器(201x191 pixel, 0.2 mm/pixel)を使用した.露光時間は,P1で100 s, P2で300 sで測定した.試験片とP1の距離L0=500 mm,P1とP2の距離L=500 mmとした. 以上の実験条件にて0.4 mmピッチで溶接底部付近の残留応力を測定した(図1).ひずみの計算はγ-Feの311回折付近を周積分してP1およびP2の回折半径をr1, r2を求め,その差Δrを用いてatan(Δr/L)から回折角の変化を利用してひずみを求めた.

結果と考察 / Results and Discussion

【相互相関アルゴリズムを利用した回折角度決定】溶接材からの回折像には,デンドライト組織による配向を持った回折,塑性変形による連続環および粗大粒による回折斑点が混在する.それらの複雑な回折像から回折ピークを決定するには問題がある.これまでのDEMにおいては,1)斑点を仮定して,P1とP2の斑点の重心から直線関係を利用して回折角を求める方法,2) 周積分で得られた回折曲線をガウス関数で近似する方法が用いられてきた.しかしながら,前述のように複雑な回折像に対して形状や波形を仮定して回折角を決定することは困難がある.本研究では,これらの仮定を用いずに,複雑な回折像に対してP1とP2の画像の一致を利用して回折半径を決定する方法を検討した.具体的には,P1およびP2の311回折像の領域について周積分した回折波形を求めた.P1と P2との波形の相互相関アルゴリズムを利用して両波形の相互相関関数の最大になる位置を対応する位置として回折半径を決定した.この方法により,複雑な回折波形であっても速くかつ正確に回折位置を決定することができた(文献1).【二重露光法露光法による残留応力分布】前述の手続きにより,DEMにより回折像を測定し,P1とP2の回折像から周積分により回折波形を得て,この両者を相互相関アルゴリズムにより回折角を決定した.無ひずみの回折角θ0については,溶接部から離れた試験片端部の各方向の回折角の平均を用いた.得られた試験片の残留応力マップを図2に示す.溶接部はTIGによる7層盛りで最終層も1パスで溶接しているが,得られた残留応力マップは完全な対称となっていない.軸方向の応力σaについてみると,溶接線右側の内表面付近の溶接部と熱影響部付近に大きな引張残留応力がある. これらの残留応力は,放電加工により取り出された際に,周方向の残留応力σhが解放されているので,溶接配管の3軸状態ではなく,平面応力状態に再分布した残留応力マップであることに注意する必要がある.【量子ビームハイブリット実応力解析】前述の放射光実験DEMで得られた残留応力(平面応力)測定とは別に,同一溶接配管そのものを残留応力測定した.肉厚の溶接配管の実応力を測定するには,強い透過力を誇る中性子回折が適している.日本原子力研究開発機構の研究炉JRR-3の核分裂中性子を利用して残留応力測を実施した.ひずみスキャニング法を用いて測定した溶接配管の残留応力分布を解析し,周方向成分の残留応力分布を測定した.その結果を線形補間して2次元の周方向残留応力σh分布を求め,それと放射光DEMで測定したひずみとを平面ひずみの仮定のもとに解析して,近似的に3軸応力下での残留応力マップを計算した.その結果を図3に示す.図3の量子ビームハイブリット実応力解析の結果は,図2のDEMの結果とよく似ており,3軸応力解析により大きく残留応力分布が変化することはなさそうである.小口径配管では,周方向の引張残留応力は外周側で大きく,溶接底部についてはあまり影響していないようである.本実応力解析結果から,小口径配管では最終パスの溶接により溶接部が俵絞りのように変形することによる軸方向の引張残留応力が大きく影響するものと考えられる.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 二重露光法の原理および溶接試験片の測定利用域



図2 二重露光法により得られた溶接部の残留応力マップ(平面応力状態)



図3 量子ビームハイブリット実応力解析により求められた溶接部残留応力


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

謝辞 本研究の放射光応力測定においては,SPring-8の課題番号2023A5050および2023A3684およびQST ARIM課題番号JPMXP1223QS0011において、QSTの城鮎美博士に支援を頂いた.また,中性子応力測定においては,東京大学工学系研究科原子力専攻,日本原子力研究開発機構施設利用共同研究のもとで,JAEA研究炉JRR-3を用いて実施された(研究課題番号2023105204)中性子実験において、諸岡聡博士と菖蒲敬久博士の支援を頂いた.本研究は,学術研究助成基金助成金基盤研究(C)課題番号22K03819の援助を受けた.ここに記して謝意を表します.
文献1) 鈴木賢治,三浦靖史,二重露光法のための相互相関アルゴリズムによる回折角度決定,材料,Vol. 73, No. 4, pp. 286-292 (2024).         https://doi.org/10.2472/jsms.73.286


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Kenji SUZUKI, Diffraction Angle Determination Using Cross-Correlation Algorithm for Double Exposure Method, Journal of the Society of Materials Science, Japan, 73, 286-292(2024).
    DOI: 10.2472/jsms.73.286
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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