【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.16】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22MS1071
利用課題名 / Title
強い水素結合相互作用をもつ新規分子性伝導体の合成と物性研究
利用した実施機関 / Support Institute
自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed
キーワード / Keywords
分子性伝導体、強い水素結合
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
周 彪
所属名 / Affiliation
日本大学文理学部化学科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
MS-218:SQUID(MPMS-7)
MS-219:SQUID(MPMS-XL7)
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
水素結合は分子間に働く相互作用の中でもかなり強く、相互作用の次元性や分子の重なり積分が重要となる分子性伝導体においては非常に有効な相互作用である。分子性伝導体には、分子間にπ-π相互作用と水素結合相互作用を併せ持つことにより、興味深い新しい物性の発現が期待される。本研究では、ジカルボン酸基を有するシンプルなTTF誘導体のH2etdc (ethylenedithio-tetrathiafulvalene dicarboxylic acids)及びH2eodc (ethylenedioxy-tetrathiafulvalene dicarboxylic acids)を設計し、強い水素結合相互作用をもつ新規分子性伝導体の開発を目指し研究を行っている。更に、それらの構造解析、伝導度測定、磁化率等の物性測定を行う予定である。
実験 / Experimental
分子科学研究所でのSQUID型磁化測定装置Quantum Design MPMS-7 (MS-218)及びMPMS-XL7 (MS-219)を用いて磁気特性の測定を行った。 試料作成や構造解析などは日本大学文理学部化学科で行い、極低温での伝導度測定などは協力研究者らと協力して行った。
結果と考察 / Results and Discussion
本研究では(TMA)[Heodc]とシュウ酸を用いた電解酸化により、強い分子間水素結合を有する興味深い構造の新規分子性伝導体(TEA)[H(eodc)(C2H2O4)]2が得られた。単結晶X線構造解析の結果、[H(eodc)]アニオンはシュウ酸と2.5 – 2.7 Å程度の強い分子間水素結合鎖を有しており、分子間で3.26 Åの非常に短いS···S接触が確認された。結晶構造及びDFT計算より、(TEA)[H(eodc)(C2H2O4)]2は二次元の伝導体であることが示唆された。図1に示すように、(TEA)[H(eodc)(C2H2O4)]2の磁化率は100 – 300 Kまでほとんど変化のないパウリ常磁性で、4 – 100 Kで電子の局在化に際した上昇を示した後、4 Kから急激に減少して強い反磁性が見られ、超伝導体であることが示唆された。また、図2に示すように、(TEA)[H(eodc)(C2H2O4)]2の抵抗率は室温付近でほぼ一定で、25 Kまでは半導体の挙動を示した。25 K以下で抵抗率は再び金属的な温度依存性を示し、磁化率と同様に4 Kで急激に低下し、Tc = 4 Kの超伝導体であることが示された。以上の結果から、強い分子間水素結合による化学的圧力が物性に影響を与えている可能性が示唆された。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 磁化率の温度依存性
図2 抵抗率の温度依存性
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
共同研究者:東京大学工学部 鹿野田一司教授、宮川和也助教
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Tetsuo Asaji, Reorientation of DABCO (1,4-diazabicyclo[2.2.2]octane) in hydrogen-bonded 1:2 molecular complexes DABCO-2(SBA) with substituted benzoic acids SBA, Journal of Molecular Structure, 1274, 134506(2023).
DOI: 10.1016/j.molstruc.2022.134506
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 1. 藤田智士、亀渕萌、周彪、「分子性伝導体(PEDT-TTF)2MCl4 (M = Ga, Fe)の構造と物性」、日本錯体化学会第72回討論会 (九州大学、2022年9月)
- 2. 畠村匠、関根孝彦、須波圭史、宮川和也、周彪、石橋章司、小林昭子、鹿野田一司、「Dirac nodal line物質[M(dmdt)2]におけるスピン揺らぎの磁場依存性」、日本物理学会2022年秋季大会 (オンライン、2022年9月)
- 3. 関根孝彦、宮川和也、周彪、小林昭子、川村泰喜、小林晃人、鹿野田一司、「単一分子性結晶[Ni(hfdt)2]の低温磁気構造」、日本物理学会2022年秋季大会 (オンライン、2022年9月)
- 4. 渋谷知宙、亀渕萌、周彪、「プロトン応答性Pt(II)-NHC錯体を用いた透明発光フィルムの開発と発光色制御」、第33回配位化合物の光化学討論会 (高知工科大学、2022年8月)
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件