【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.25】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23NU0419
利用課題名 / Title
炭素骨格および細孔内表面官能基の制御による電気二重層キャパシタの高エネルギー密度化
利用した実施機関 / Support Institute
名古屋大学 / Nagoya Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
電極材料/ Electrode material,エネルギー貯蔵/ Energy storage,質量分析/ Mass spectrometry
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
齊藤 丈晴
所属名 / Affiliation
大阪公立大学大学院 工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
Yiliya Aishan
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
林 育生
利用形態 / Support Type
(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
電気二重層キャパシタ(EDLC)は活性炭電極と電解質界面に生じる電気二重層を利用したキャパシタであり、充放電時に化学反応を伴わないため、急速充放電・安全・長寿命な利点がある。特に、短時間の高出力要求や回路の安定化、エネルギーバーストなどの応用に適しており、自動車のエネルギー回生や加速時のエネルギー供給、産業機械やロボット分野で大きく期待されている。
カーボンニュートラルの観点から、EDLCの電極には植物系バイオマス由来の活性炭は特に注目されている1。しかしながら、植物由来原料には酸素が大量に含まれ、活性炭製造では収率が小さいことが難点である。また、EDLC静電容量の増加には活性炭への窒素原子のドーピングが有効であるがその方法は複雑である2。一方、植物由来原料のモデル物質であるセルロースに含窒素有機系難燃剤を添加・賦活することで、活性炭の収率と静電容量が改善する報告があるが3、収率と静電容量に対する含窒素有機系難燃剤の効果は不明である。本研究では、その効果を解明し、EDLC用炭素電極の最適な製造条件を決定することを目的とした。
実験 / Experimental
実験1 炭素材料の調製
収率の向上および窒素ドープが期待できる含窒素有機系難燃剤のモデル物質として、硫酸メラミン(MS)と硫酸グアニン(GS)を0~30wt%の割合でセルロースに混合し、磁性ボートに乗せて電気炉の中に設置した後、N2雰囲気下,昇温速度10 ℃/minで室温から800℃まで昇温させ,CO2雰囲気に切り換えて温度を維持したままに60
min賦活を行った。賦活中止の時点でまたN2雰囲気に切り換え,自然冷却させた後,活性炭を乳鉢ですりつぶし,75 μmの篩を通過させることで粒子径を整えた。一方、窒素含有有機物のモデル物質としてメラミン単体を350~370℃の範囲で30~120分間、N2気流中で加熱し、メラミンの熱分解生成物4を作製した。この生成物を30wt%の比率でセルロースに加え、前述した賦活操作と同様に賦活を行い、活性炭の粒子径を75 μmに整えた。
実験2 細孔構造の測定
調製された活性炭サンプルを用い、窒素吸脱着測定を行った。得られた窒素吸脱着等温線より,BET法で細孔比表面積を,MP法でミクロ孔容積を,DH法でメソ孔容積を解析した。
実験3 活性炭の元素組成分析
元素分析(EA)、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)およびX線光電子分光法(XPS)により、活性炭中の元素組成と化学結合状態を分析した。
実験4 電気二重層キャパシタの作製
適量の活性炭サンプルを取り,電解液30 wt%硫酸水溶液を滴下し,スパチュラでよく混ぜ合わせた後,デシケーターで2 min減圧した後28 min保持した。さらに,電解液を適量添加し,2 min減圧後8 min保持を2回行った。減圧処理より電解液を活性炭の細孔内に含浸させ,電極スラリーを調製した。電極スラリーを白金集電極の上に乗せた後,2枚の電極板の間にセパレーターを挟み、二極式セルを組み立てた。
実験5 電気化学特性の測定
キャパシタセルを30 ℃の恒温器に設置し,印加電圧を0-0.9 V,電流密度0.4-2.0 A/gに変化させ,定電流充放電実験を行った。EDLCの比静電容量Cは,測定した充放電曲線と式(1)を用いて算出した。ここで,Iは充放電電流,Vは電圧,tは充放電時間,mは電極の活性炭質量である。
C=I ⁄ ((m∙∆V/∆t) ) (1)
設定周波数10-3 - 106 Hz,振幅5 mVで電気化学インピーダンス測定を行った。
結果と考察 / Results and Discussion
結果と考察1 収率
セルロースに硫酸メラミン(MS)や硫酸グアニン(GS)を添加した混合物から調製された活性炭の収率をFig.1に示す。MSの添加量の増加によって活性炭の収率は上昇した。GSを添加する場合は比較的緩やかに上昇し、15wt%以降でほぼ飽和した。一方、MSでは25wt%まで収率が上昇している。MS、GSともに活性炭の収率を改善する効果があるが、MSやGSの分解に起因した収率変化の原因があると示唆される。収率改善の理由として、セルロース、MS、GSが熱分解される際にラジカルを含む熱分解物が生成される点が挙げられる。これらのラジカル種は他の分子と反応しやすく、燃焼分解中にこれらが互いに再結合し安定化する、もしくは熱分解で生成中の炭素系固体に付加する。これらが固体炭素、すなわち、活性炭の収率の改善に寄与すると考えられる。また、分解生成された炭素フラグメントの一部がセルロースと反応し、収率の増加に繋がるとも考えられる。既存の研究ではリン酸基が炭素化物の賦活で重要な役割を果たすとされているが5、本研究で用いたMSやGSに含まれる硫酸基も、リン酸基と類似の効果を持ち、活性炭の収率改善に寄与する可能性がある。
メラミンを各処理温度において、各処理時間で調製した熱分解生成物をセルロース添加し、混合物から調製された活性炭の収率をFig.2に示す。セルロース単体から調製した活性炭の収率(~11wt%)と比較すると、メラミンの熱分解生成物を添加すると活性炭の収率は18wt%まで向上した。しかしながら、各処理温度における処理時間の増加につれ、活性炭の収率は低減する傾向が見られた。これは高い温度での長時間熱分解処理ではセルロースと反応しやすい中間物がガス化しすぎてしまい、収率改善の効果が弱くなると考えられる。
結果と考察2 定電流充放電特性
メラミンの熱処理温度・熱処理時間を変化させて得られた熱分解生成物とセルロースの混合物を賦活して得た活性炭の低電流密度(0.4 A/g)における静電容量の結果をFig.3で示す。各温度における熱分解処理時間は30分の場合、得られた活性炭の静電容量はまだ低い数値を表しているが、60分にすると明らかに向上し、市販品のEDLC炭素材料(33F/g)を上回る静電容量が見られた。熱分解処理時間をさらに増加すると静電容量はわずかの増加が見えるが、処理時間は90分を超えると静電容量がほぼ一定になっている。
結果と考察3 電解質イオンの移動抵抗
電解質イオンが電極活性炭の細孔への移動抵抗について,電気化学インピーダンス法により検討する。理想的に,電解質イオンの移動に関わるワールブルグインピーダンス(W)のみが観測される場合,その値は式(2)で表すことができる6。
Z (ω) = W = σω-0.5+Rct+Rsol (2)
ここで,はワールブルグ係数と呼ばれ,定量的に細孔内でイオンの移動しにくさを表示するパラメータである。
各温度におけるメラミンの処理時間がワールブルグ係数σに及ぼす影響をFig.4に示す。
熱分解処理時間30分でのワールブルグ係数は60~120分と比べると相対的に高い数値であり、処理時間の増加につれ、ワールブルグ係数が小さくなり、電解質イオンの拡散抵抗が低減する傾向を表している。そこで、静電容量とワールブルグ係数σとの相関を取り、電解質イオンの拡散抵抗が静電容量に及ぼす影響をFig.5で示す。イオンの拡散抵抗大きくなると静電容量が小さくなり、拡散抵抗が小さいところでは静電容量が高くなることが示唆された。
結果と考察4 活性炭の元素組成
電解質イオンの拡散抵抗の低減する原因を明らかにするために、活性炭サンプルの元素組成を調べた。元素分析の結果により、活性炭中に窒素がドープされたこと(N%=6~12wt%)を確認できた。またFT-IRの結果はC=N構造の存在を示唆した。さらに、XPSにより、活性炭中の窒素の化学結合状態はピリジン型窒素、四級窒素およびアミノ基7,8が判明した。前述した事実に基づき、電解質イオンが活性炭細孔内への拡散抵抗が低減したのは窒素ドープの効果だと考えられる。炭素はもともと疎水性なので、水系電解液との馴染みが良くない。電解質イオンが細孔内に移動するパスが狭いので入りにくくなり、いわゆる、拡散抵抗が大きいである。従来研究9によると、窒素の存在は炭素材料の濡れ性を向上させることが多数報告されているので、ここでも、メラミンの熱分解中間物の添加より炭素材料に窒素がピリジン型窒素、四級窒素およびアミノ基の結合状態で導入されると材料表面の濡れ性が向上し、イオンの実効経路の拡大及び電気二重層を形成する面積が増加して静電容量に寄与することもできると考えられる。また、Fig.6に示すように、メソ孔容積が高いサンプルのイオン拡散抵抗抵抗が低減するので、電気二重層形成の促進より静電容量の増加に寄与すると考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig.1 Relationship between yield and content of MS or GS – cellulose mixture.
Fig.2 Relationship between yield and thermal treatment time of melamine at thermal treatment temperature of 350, 360, 370℃.
Fig.3 Relationship between capacitance and thermal treatment time of melamine at thermal treatment temperature of 350, 360, 370℃.
Fig.4 Relationship between Warburg constant and thermal treatment time of melamine at thermal treatment temperature of 350, 360, 370℃.
Fig.5 Relationship between capacitance and Warburg constant.
Fig.6 Relationship between Warburg constant and mesopore volume.
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
・参考文献
1) Gratuito et al., Bioresour. Technol., 99(11),
4887–4895, (2008).2) Ansari et al., Sustainable Energy & Fuels,
4(11), 5697–5708. (2020).
3) Tsubota et al., J. Electron. Mater., 48(2), 879-886 (2019).
4) Costa et al., J. Therm. Anal. 34, 423–429 (1988).
5) Amran et al., Water Pract. Technol., 15(4),
863-876 (2020).
6) 板垣昌幸(2011)『電気化学インピーダンス法:原理・測定・解析』,丸善出版.
7) Sharifi et al., ACS Nano 6, 8904–8912 (2012).
8) Thermo Fisher Scientific. (n.d.). XPS Periodic
Table. Retrieved [Jan. 30th, 2024],fromhttps://www.thermofisher.com
9) Mishra et al., Energy & Fuels 35 (17),
14177-14187 (2021).
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- Yiliya Aishan, 齊藤 丈靖, 武藤 明徳, "セルロース由来活性炭の収率向上とEDLC特性への含窒素有機系難燃剤の影響", 化学工学会 福井大会(福井),令和5年12月8日
- Y. Aishan, T. Saito, and A. Muto, "Preparation Conditions' Impact on Melamine Pyrolysis and EDLC Electrode", 7th International Conference on Advanced Capacitors (ICAC2023)(Kamakura), Sept. 27 (2023)
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件