【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.04.19】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22MS1049
利用課題名 / Title
三重項状態アントラキノン誘導体の磁気パラメーターの決定
利用した実施機関 / Support Institute
自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions
キーワード / Keywords
時間分解電子スピン共鳴, Q-band EPR, 光化学, 項間交差, 三重項, ラジカル対
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
長嶋 宏樹
所属名 / Affiliation
埼玉大学大学院理工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
新井 柊平,佐野 永昂
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
藤原 基靖
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
本研究では, 生体分子に結合したアントラキノン複合体が形成するラジカル対の磁気的パラメーターの決定を目的としてQ-bandのEPRを用いた計測を行なった。鳥などの様々な生物は地磁気感受能を持つと知られている。そのメカニズムとして、クリプトクロムに生成するラジカル対の磁場効果が関わっているとするメカニズムが有力視されている[1]。このようなメカニズムを研究するために, クリプトクロムやモデルとなる低磁場効果を示すタンパク質が望まれている。 当研究室では, そのモデル物質の候補となるシステムを発見し, Bovine Serum Albumin(BSA)と2,6-anthraquinone disulfate (AQDS)が低磁場効果を示すことを明らかにした。しかしながら, その分子の構造情報はほとんどわかっておらず, 磁場効果のメカニズムも未解明のままである。本研究ではBSA-AQDSの分子構造と磁気構造を明らかにするために, 時間分解電子スピン共鳴による計測を行なった。
実験 / Experimental
BSAとAQDSを任意の濃度で混合させ結合させた試料200 µLを、石英試料管にいれfreeze pump thaw cyclingにより酸素を取り除いた。電子スピン共鳴スペクトルをBruker E680を用いて測定し, 励起光にはNd:YAGレーザー 波長 355 nmを用いた。測定温度は100 Kであった。
結果と考察 / Results and Discussion
BSAとAQDSの混合溶液の時間分解電子スピン共鳴スペクトルでは, ラジカル対に由来する信号が観測された。これは, AQDS分子が光励起されて三重項を形成し, その後BSAのヒスチジン残基やトリプトファン残基との間での電子移動を起こしているものと考えられる。100 Kという極低温であっても信号が観測されたことから, ラジカル対の形成はAQDS分子がBSAの特定の結合サイトに結合することによって起こることと考えられる。 電子スピン共鳴スペクトルの解釈は, 電子スピン分極移動モデル[2,3]を用いて行われた。自作のシミュレーションにより, スペクトルを計算により再現することに成功した。このモデルをもとに, スペクトル解析をもとに分子の相対配向, 距離といった3次元構造を求めた。このシミュレーションには様々なパラメーターが用いられるが,三重項AQDS分子の項間交差で生じた三重項におけるスピン分極分布と分子の配向が, 本スペクトルシミュレーションからは任意に決まらないことが明らかになった。 しかし, 三重項AQDS分子の磁気パラメーターは報告されていない。これは, 三重項AQDSのゼロ磁場分裂が非常に大きく, 通常のX-バンド電子スピン共鳴では観測が困難であることが主な原因であると考えられる。そこで, 通常のX-band 電子スピン共鳴ではなく, よりX-bandに比べて3-4倍の大きなマイクロ波エネルギーを用いるQ-band ESRを用いた。資料にはグリセロールを含むAQDS水溶液を用い, 光照射により形成された三重項AQDSの信号を観測するための実験を行なった。得られた時間分解電子スピン共鳴スペクトルは, 予想以上に狭い信号からなるラジカル対の信号であり, グリセロールとAQDSの間の水素引き抜き反応が起こっていると考えられた。このような信号はBSAの存在する資料では観測されなかったため, BSAが存在しないことでAQDSと溶媒の反応が引き起こされたと考えられる。水素引き抜きを引き起こさない溶媒を利用すれば本問題を解決して, 三重項AQDS分子の磁気パラメーターを決定して, 分子構造を決定するための基盤情報を得ることができると考えられる。今後は溶媒を変更して, 三重項状態のQ-band 電子スピン共鳴観測および偏光励起実験(magnetophotoselection)を行うことを予定している。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
参考文献
[1] T. Ritz, S. Adem, K.
Schulten, A Model for Photoreceptor-Based Magnetoreception in Birds, Biophys J,
78 (2000) 707–718.
[2] Y.
Kobori, M. Fuki, Protein-ligand structure and electronic coupling of
photoinduced charge-separated state: 9,10-anthraquinone-1-sulfonate bound to
human serum albumin, J Am Chem Soc, 133 (2011) 16770–3.
[3] M. Fuki,
H. Murai, T. Tachikawa, Y. Kobori, Time Resolved EPR Study on the Photoinduced
Long-Range Charge-Separated State in Protein: Electron Tunneling Mediated by
Arginine Residue in Human Serum Albumin, J Phys Chem B, 120 (2016) 4365–72.
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 新井柊平, 長嶋宏樹, 前田公憲, “Analysis of the three-dimensional structure of radical pairs formed in bovine serum albumin”, 電子スピンサイエンス学会年会, 令和4年12月2日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件