利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.08】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22MS1041

利用課題名 / Title

重合触媒として機能するタングステン錯体の分子構造研究 (触媒機能をもつ遷移金属錯体の遠赤外スペクトルによる金属ハロゲン結合の分析)

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials

キーワード / Keywords

錯体触媒,タングステン,赤外スペクトル,NMR,低周波核,多核NMR


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

押木  俊之

所属名 / Affiliation

岡山大学大学院自然科学研究科応用化学専攻

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

長尾 春代,売市 幹大

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-226:FT遠赤外分光
MS-233:高磁場NMR(600MHz溶液)


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

183WはI = +1/2の核で,シャープなシグナルが現れるNMR測定に魅力がある核種といえる。しかしその相対感度は13Cの約6%と低い低周波核であり,有機配位子をもつ錯体化学分野において系統的な測定例は極めて少ない。私たちは2019年度に機器センターの機器利用により自らの手で183W核の測定に成功し,2021年度には標準的な測定条件の確立に成功した。これを踏まえて,2022年度はさまざまなタングステン錯体の183W NMRを測定するとともに,温度可変測定による分子構造変化も調べた。さらに,タングステン中心の化学結合を調べるため, 2023年度から新たに遠赤外吸収スペクトルを測定した。183W NMRと遠赤外スペクトルを合わせて、触媒機能解明の端緒となる基礎データを積み上げることを目的とする。

実験 / Experimental

機器センターのJNM-ECA600, 10 mm T10Lプローブを使った。サンプルチューブは Wilmad社の10mm径のテフロンバルブ付きの513-7LPV-7を使った。サンプル量は約500mgを用意し,溶媒は重ベンゼン,測定温度は試料の溶解性確保のため30℃に設定した。原理的には重溶媒の量は少量で済むが,ロック信号強度の観点から,溶媒にはすべて重溶媒を使って測定することにより,安定した測定ができた。
遠赤外スペクトルは,機器センターのBruker IFS66v/Sを使った。窓材には直径13mmのCsI板を用いて,700-200cm–1の範囲で測定した。

結果と考察 / Results and Discussion

183W NMRの測定結果の一部を図1に示す。タングステンに結合したアリロキシ基のオルト位の置換基の違いで,化学シフトがどのように変化するかを調べた。オルト位の置換基の電子供与性や立体的なかさ高さからの統一的な説明は今のところできていない。イソプロポキシ基をもつ錯体の場合には,構造上,その酸素原子がタングステンに配位する可能性があるので,温度可変スペクトルを測定した。温度が高くなると化学シフトは低磁場側に観測されることがわかった。これが酸素原子の配位によるものなのか,それとも,温度の影響を受けたものなのかを確認するために,別途,オルト位に置換基をもたないタングステン錯体も岡山大学で測定した。同様に,温度が高くなると化学シフトは低磁場側にシフトすることがわかり,この錯体では酸素原子が配位する可能性はほぼ否定された。また類似の錯体でも,待ち時間(Relaxation Delay)を延ばしても,まったくシグナルが検出されない錯体があった。シグナルが現れない理由は現時点でわかっていない。
183W核の測定の場合,LF(183W)側のチューニングはできるが,HF(1H)側のチューニングがうまくできない場合がしばしば起こり,標準サンプル測定でなんら問題はなく,ここ数年,その理由がまったくわからなかった。2022年11月の講演時に知り合いになった,名古屋工業大学の瀧雅人氏によると,プローブに差し込むコンデンサーロッドが測定溶媒の誘電率によって,183Wの場合には標準設定と変える必要があることがあると教えていただいた。数年来の疑問が解消したので,今後はロッドを交換して,確実にHF側のチューニングをとることにより,183Wのシグナルを1Hデカップルの短時間測定ができるようになると考えている。
 遠赤外スペクトル測定でまず問題となったのは,観測したい700-200cm–1の領域はCsIの透過領域であることは事実として,そのCsI板にどのように空気中で不安定な錯体を挟み込むかであった。いくつか方法を試したところ,昔ながらのNujol法が最適であることがわかった。さらに空気下,1時間程度で分解するサンプルもNujol(モレキュラーシーブで脱水)に入れておくと,1週間程度は分解せずに保管できることもわかった。これは1日ごとに3日間,測定し,さらに1ヶ月程度間をおいて測定した結果である。Nujolとサンプルの比は目分量(体積)で1対1程度でよいこともわかった。
スペクトルの例は図2のとおりである。試料室を真空引きしているため低波数領域で高いS/Nで吸収が観測できた。このような低波数領域のデータベースがそもそも存在しないので,タングステンはもちろん,他の私が研究していい触媒機能をもつ遷移金属錯体(貴金属系など)の原料に相当する錯体など30サンプルを越える測定をした。これらの所得データをベースとして,来年度以降,配位子を変えたときの変化と,触媒としての機能との相関を調べていく。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1.183W{1H} の化学シフトと構造相関



図2.WCl3(=O)(acac)のIRスペクトル


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

分子科学研究所機器センターのNMRは8月下旬にマグネットクエンチを起こしたため,その後は岡山大学の日本電子製JMN-ECZ600Rで限られたマシンタイムの下で測定した。 183W NMR測定に関しては長尾春代氏,遠赤外スペクトル測定に関しては売市幹大氏に感謝申し上げます。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 1) 押木俊之, 永井大登, 佐野航介, 越野広雪, 小松功典, 武藤仁美, 開環メタセシス重合用錯体触媒となるタングステン前駆体の183W NMRによる分析, 石油学会 長野大会(第52回石油・石油化学討論会) , 2022年10月28日.
  2. 2) 押木俊之, 多核を含めた溶液NMR の古くて新しい測定手法, 第1回分子研NMRセミナー, 分子科学研究所(ハイブリッド開催), 2022年11月14日. (招待講演)
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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