【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.04.14】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22MS1039
利用課題名 / Title
光のエネルギーを蓄えることができる物質の光励起状態と緩和過程の電子スピン共鳴
利用した実施機関 / Support Institute
自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion
キーワード / Keywords
光励起状態,金属ジチオレン錯体,電荷移動錯体,メチルビオロゲン
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
内藤 俊雄
所属名 / Affiliation
愛媛大学大学院理工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
藤原 基靖,伊木 志成子
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
可視や紫外光といった光のエネルギーは多くの物質の分解を伴うほど高く、こうした光を物質中に蓄えることは不可能だと考えられてきた。しかし最近本申請者は、紫外線を受光して生じた電荷分離状態が、完全に元の基底状態に戻るまで一週間および8か月以上掛かる物質(それぞれBPY[Au(dmit)2]2 MV[Au(dmit)2]2:図1;以下、BPY塩およびMV塩)を発見した。この変化は可逆的であり、基底状態と紫外光による励起状態でそれぞれ安定(つまり全体として双安定)な電荷移動錯体を形成することが分かって来た。本実験課題の目的は、この極端に遅い緩和過程の不対電子の挙動を電子スピン共鳴(ESR)で追跡し、その途中に現れる状態の多重度などを明らかにすることである。
実験 / Experimental
実験に間に合うように予め紫外光源を分子研に送付し、20日(月)の朝から測定に入った。分子研で借用したESR測定用の石英棒に単結晶を載せ、アピエゾンで固定し、まず室温(未照射)で測った。未照射の段階では、ESR silentであることを確認した。液体ヘリウムで一旦最低温(3. 8 K付近)まで冷却し、ノイズやシグナルの有無を確認した。その後128 Kまで毎分1 K程度の速度で昇温し、そこで落ち着かせたのち、紫外光を30分間当てた。(128 Kという温度は前もって所属機関の装置で検討し、ESRシグナルの強度と紫外光による励起状態からの緩和時間の速さを最適化した温度である。)その後引き続き照射しながら測定した。照射中のスペクトルを得た後、光照射を止め、以降128 Kに保ったまま、25分おきにESRを測定し、その変化を継続的に15時間追跡した。(25分というのは1回のスペクトルを得るための積算回数を最適化した結果、20回積算するのにかかる時間である。)しかし光照射前後でスペクトルに期待した変化(紫外光励起の影響)が観測されなかったため、2日目(6月21日)はE580(設備ID MS-216)に新しい試料を載せ替え、再度同じ実験を色々測定条件も変えながら、繰り返し検討した。今度は約24時間継続的に測定した。しかし、石英棒やグリースによるノイズと思われる信号が観測されたのみで、紫外光照射前後の試料のスペクトルの変化は見られなかった。
結果と考察 / Results and Discussion
予備実験に用いた所属機関のESRは、JEOLのJES-FA 100(X-band)に液体窒素のクライオスタットが付属した分光器である。約1年前から当該物質の測定条件を最適化し、再現性良く光励起中および光を止めた後の緩和過程を125 K程度まで観測できていた。今回用いた試料(単結晶)もマシンタイム直前に新たに合成し、X線振動写真で結晶の質と軸方向を確認したものを持参した。にもかかわらず、信号が観測できなかった理由は、ESRの装置担当者にもその場でいろいろ相談に乗って頂いたが、結局分からなかった。今回分子研で使わせて頂いた装置(Bruker)よりもJEOL製の装置の方が一般には感度が良いとされているため、それが原因かもしれないということだった。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1. 各種分子構造(構造式:左側)と単結晶X線構造解析による実際のAu(dmit)2の分子構造(右側)。結晶中には平面型四配位と非平面(四角錐)五配位のAu原子が乱れとして混在している。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
<参考文献> T. Naito et al., Dalton Transactions 48, 12858 (2019); K. Ichiryu et al., Chem. Lett. 49, 1038 (2020).<共同研究者> 澤 博(名古屋大学 工学研究科教授)、朝倉 清高(北海道大学 触媒化学研究所 教授)<外部競争的資金>(1) 科学研究費補助金 挑戦的研究(萌芽)(2018.6-2022.3;2023.3まで延長)課題番号18K1906(2) キャノン財団 善き未来をひらく科学技術(2022.4-2025.3)<他の支援機関での関連する実験> 高エネルギー加速器研究機構 フォトンファクトリー(課題番号 2022G104)<技術支援者への謝辞> 今回のマシンタイムでも、分子科学研究所・機器センターの藤原基靖、伊木志成子、中村敏和の各先生方には大変お世話になりました。ありがとうございました。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:1件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:1件