利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.16】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22MS1034

利用課題名 / Title

スピン転移とサーモサリエント特性が連動する錯体分子結晶のアルキル置換基効果の解明

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed

キーワード / Keywords

スピン転移, スピンクロスオーバー, サーモサリエント, 錯体, 分子結晶


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

萩原  宏明

所属名 / Affiliation

岐阜大学教育学部理科教育講座(化学)

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

藤原 基靖,上田 正,宮島 瑞樹,伊木 志成子

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-210:オペランド多目的X線回析
MS-218:SQUID(MPMS-7)
MS-219:SQUID(MPMS-XL7)
MS-223:熱分析(固体、粉末)


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

本研究は、申請者の研究室にて合成、結晶化を進めているサーモサリエント(TS)特性とスピンクロスオーバー(SCO)特性を併せ持つ鉄(II)錯体分子結晶について、アルキル置換基の変換に伴うTS特性とSCO特性への影響を明らかにすることを目的に実施した。具体的には、配位子骨格にエチル基を有する基盤錯体(以下Et錯体とする)の置換基をアリル基、n-プロピル基に変化させた誘導体結晶(それぞれAllyl錯体、n-Pr錯体とする)について磁化率測定と熱分析を行い、各錯体のSCO挙動を明らかにした。これらの結果を、研究室にて実施した結晶の温度変化動画観察と比較し、置換基変換によるSCO挙動の変化とTS効果(結晶ジャンプ)の連動性について考察した。

実験 / Experimental

1) SQUID型磁化測定装置 (Quantum Design MPMS-XL7 or MPMS-7):ゼラチンカプセルに挟んだ粉末サンプルをストロー内に固定し、300 Kから5 Kの温度範囲にて昇・降温過程の磁化率を測定した。
2) 示差走査熱量計(Rigaku Thermo plus EVO2 DSC 8231):結晶をアルミパンに入れ密封したものを測定試料とし、窒素雰囲気下(50 mL/min)にて300 Kから142 Kの範囲における昇・降温過程を測定した

結果と考察 / Results and Discussion

磁化率の温度依存性測定の結果、Allyl錯体は300 Kで高スピン(HS)状態にあり、降温時に二段階のSCOを示し、150 K以下で完全な低スピン(LS)状態に転移した。このとき、195 K付近を中心に緩やかな一段階目の転移を生じ(Step 1)、その後、ごく僅かなステップを踏んだ後、178 Kで急激な転移を示した(Step 2)。続く昇温時にも二段階SCOを示したが、Step 2のみ転移温度が182 Kへシフトすることで4 Kのヒステリシスを示した。以上のようにSCOは可逆であり、少なくとも3サイクルの測定で挙動の変化は見られなかった。なお、DSC測定においてもこの二段階SCOに対応する吸発熱ピークを観測した。これらの結果を、研究室での温度可変ステージを用いた結晶観察と比べたところ、降温時にSCO温度に対応した温度付近で結晶ジャンプが見られ、特にStep 2の温度領域にてジャンプする結晶の割合が高かった。これは、Et錯体同様に急激なスピン転移による構造変化がTS効果発現に効果的であることを示唆している。なお、Allyl錯体に関して10 K下で光照射実験を行ったところ、532 nmのレーザー光照射によりLSからHSへの光誘起スピン転移(LIESST)が観測され、さらに830 nmのレーザー光を照射すると部分的なHSからLSへのLIESST(reverse-LIESST)も観測された。既報のEt錯体に続きLIESST挙動を示すことから、今後の本分子系の改良により、光による結晶ジャンプにも期待がもたれる。
 続いて、n-Pr錯体についても磁化率の温度依存性測定を行ったところ、300 KにてHS状態にあり、およそ220 Kから75 Kの温度範囲で緩やかな三段階のSCOを示し、75 K以下にてLS状態へ転移した。しかしながら、n-Pr錯体の結晶は、研究室での温度可変ステージを用いた結晶観察において特にジャンプ等の運動挙動を示さなかった。以上の結果より、本分子系にて配位子骨格に含まれるアルキル基の炭素数を2から3へ増すことは、多段階SCOの発現に有効であることがわかった。一方で、n-プロピル基のようなフレキシブルな置換基を用いた場合には、スピン転移の多段階性が増すとともに転移が緩やかになるため、結晶ジャンプのようなTS効果発現には不利となる可能性が示唆された。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

今回の施設利用に関して、分子科学研究所機器センター技術職員の藤原 基靖様、上田 正様、宮島 瑞樹様、伊木 志成子様に大変お世話になりました。紙面を借りてお礼申し上げます。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Hiroaki Hagiwara, Thermosalience coupled to abrupt spin crossover with dynamic ligand motion in an iron(ii) molecular crystal, CrystEngComm, 24, 4224-4234(2022).
    DOI: 10.1039/D2CE00501H
  2. Hiroaki Hagiwara, Solvent Coligand-Induced Spin State Variation in Iron(II) Complexes Bearing Pentadentate N5 Ligand Toward the Construction of an N5O Spin Crossover Center, Crystal Growth & Design, 23, 1622-1632(2023).
    DOI: 10.1021/acs.cgd.2c01239
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. Hiroaki Hagiwara, Kengo Iwata,“Modulation of Ligand Motion and Related Spin Crossover and Thermosalience in Iron(II) Molecular Crystals by Substitution of Alkyl Group”錯体化学会第72回討論会, 令和4年9月27日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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