【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.05.21】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23UT0203
利用課題名 / Title
XPS measurement of “TiOxNyPz” Samples
利用した実施機関 / Support Institute
東京大学 / Tokyo Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials
キーワード / Keywords
燃料電池/ Fuel cell,電子分光/ Electron spectroscopy,ナノ粒子/ Nanoparticles
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
SHAMIM JUBAIR
所属名 / Affiliation
東京大学 大学院工学系研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
UT-308:多機能走査型X線光電子分光分析装置(XPS)with AES
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
近年自動車からの排出ガスに対する規制が世界各国で強化されつつあり、2025年以降急速にその電動化が進むと考えられている。固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell, PEFC)を動力源とする燃料電池車は、競合する二次電池駆動の電気自動車に対し、500 km以上の長距離走行やバス・トラック等の高負荷運搬性に優れている。
セダンタイプの燃料電池車は2014年より一般販売されたが、その販売台数は年間1万台前後に留まり本格普及には程遠い状況である。
PEFCでは強酸(pH<1)かつ高電位の正極にて、式1に示す酸素還元反応速度が小さく、多量の白金-コバルト触媒を担持したカーボンブラック(PtCo/C)を要する。
O2 + 4H+ + 4e–
→ 2H2O ----式1
負極においても式2に示す水素酸化反応を促進するため、白金系触媒が利用されている。
H2 → 2H+ + 2e–
----式2
カーボンブラックに代表される炭素材料は安価で導電率が高い優れた担体であるが、自動車の起動・停止時においては正極電位が可逆水素電極電位(Reversible Hydrogen Electrode, RHE)に対し1.5 V程度まで急上昇し、式3に示す反応が無視できない速度で生じて腐食する。
C +
2H2O → CO2 + 4H+ + 4e–----式3
腐食を抑えるため、現在は高コストなシステムで正極電位を0.95~1.0 VRHE以下に制御している。
白金触媒の希少性と炭素担体の低耐久性から、代替触媒と代替担体材料がこれまで別々に開発されてきた。
利用者らは炭素担体を用いない非白金触媒として、PEFCカソードで安定な酸化物系材料の中でも高い導電率を示す酸化チタンに着目してきた。
本研究では酸化チタン触媒の高耐久化を目的に、その酸素サイトへ二種のアニオンと二種のカチオンを置換導入した触媒を初めて合成した。
共同利用設備のX線光電子分光分析装置を利用して、触媒性能と耐久性に支配的な要因を探索した。
実験 / Experimental
簡易燃焼合成法[1]を利用し、窒素とリンを共置換した酸化チタン触媒を横型石英管状炉で合成した。得られた触媒をフッ化アンモニウムと混合後したのち、さらに横型石英管状炉で熱処理した。
本課題で利用申請したX線光電子分光分析装置(PHI VersaProbeIII, ULVAC-PHI, Inc.)と透過型電子顕微鏡(JED-2100,
JEOL Inc.)、エネルギー分散型X線分光装置(JED-2300F,
JEOL Inc.)、紫外ラマン分光装置(LabRAM HR-evolution, Horiba Scientific Co. Ltd.)、X線回折装置(MiniFlex600, Rigaku Co.)を用いて化学結合状態と形態、バルクの組成、表層・バルクの結晶構造をそれぞれ評価した。
窒素/酸素雰囲気とした0.1 mol dm-3硫酸溶液で回転リングディスク電極ボルタモグラムを取得し、触媒性能を評価した。高性能を示した幾つかの触媒については、燃料電池実用化推進協議会が定める自動車の起動・停止プロトコルにより、電位を1.0 Vから1.5 VRHEまで繰り返し上昇させて耐久性を評価した。
結果と考察 / Results and Discussion
本研究では既報[1]に比べてリン・窒素共置換酸化チタン触媒の合成量を6倍増加させたが、そのX線回折パターンとラマン分光スペクトルより、窒化チタン表層に酸化チタンが形成され既報と同様であることがわかった。しかしながら本触媒をフッ化アンモニウムと混合・熱処理することで、触媒表層のみならずバルクに酸化チタンが形成された。そのX線光電子分光スペクトルより、酸化チタン表面の酸素イオンが二つのアニオン(N3-・S2-)により置換され、チタンイオンは二つのカチオン(P5+・S4+)に置換された。エネルギー分散型X線分光スペクトルより、フッ化アンモニウムとの熱処理前にはTiN内部には原料由来の硫黄が存在していた。熱処理時にフッ化アンモニウムの分解副生成物としてフッ酸とアンモニアが発生し[2]、前者がTiNをエッチングして内部の硫黄を表層に露出させるとともに、後者による還元雰囲気により硫黄は主にアニオンとして酸素原子を置換したと考えられる。
またその透過型電子顕微鏡像よりアナターゼ型酸化チタンとルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタンと窒化チタンのヘテロ界面が形成されていることがわかった。熱処理温度、時間、雰囲気ガス、ガス流量やフッ化アンモニウムの仕込み量を最適化した触媒から、これまで報告された酸化物系触媒で最高の触媒性能が得られた。硫黄を含まない原料から硫黄フリーの触媒を合成すると大幅に性能は低下し、本研究で新たに置換導入した硫黄と先述のヘテロ界面が性能向上に寄与していることが示唆された。5000回の起動停止を繰り返す加速劣化試験後にも本触媒の半波電位は0.02 Vしか低減せず、炭素系触媒を含む非白金触媒で最高の耐久性を示した。加速劣化試験後のX線光電子分光スペクトルより、N3-、S2-は試験前と変わらず酸化チタンから脱離せず安定であることがわかった。
従前[1]は同条件での加速劣化試験後に脱離していたN3-が、新たにフッ化アンモニウムとの熱処理をすることで安定化したと考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
参考文献:[1]
M. Chisaka, R. Xiang, S. Maruyama and
H. Daiguji, ACS Appl. Energy Mater., 2020, 3, 9866.
[2] J. S. Sanghera, P. Hart, M. G. Sachon, K. J. Ewing and I. Aggarwal, J. Am. Ceram. Soc., 1990, 73, 1339.
謝辞:X線光電子分光実験について、懇切丁寧にご指導いただいた東京大学 沖津康平先生に謝意を表します。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件