利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.05.29】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23UT0124

利用課題名 / Title

微小配位高分子ならびに分子磁性体の構造決定

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

磁性体,電子顕微鏡/ Electronic microscope,X線回折/ X-ray diffraction,コンポジット材料/ Composite material


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

榎本 真哉

所属名 / Affiliation

東京理科大学 理学部第一部 化学科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

金友拓哉,谷合亮祐,澤柳佑希,魚地香帆,小川真一,山戸啓輔,南雲陽太,松永大豪

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

飯盛桂子,福川昌宏

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-201:無機微小結晶構造解析装置
UT-104:低真空走査型電子顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 大きく分けて以下の2つの系統の物質を合成した。(1)ラジカル配位部位を持つ有機物と磁性錯体、ないしは水素結合性部位を持つ有機配位子を用いた磁性錯体との有機-無機ハイブリッド化合物。(2)ジチオオキサレート (dto) 架橋鉄混合原子価錯体の対カチオン置換体。これらは、有機分子の高い分子設計性と、遷移金属の配位形成による高次構造を活かした化合物設計が可能である。一方でこれらは結晶が微小であることが多い。また、軽元素の含有率も大きい。そのため、一般的な装置による構造解析が困難であり、物性測定の結果と構造を結びつけることが容易ではなく、高輝度、高感度の単結晶構造解析装置を必要とした。さらに(1)の化合物の一部では、元素置換による化学圧力効果を調べるために中心金属置換を行い、金属含有率を連続的に変化させた。金属の置換率を決定するためには特に電子顕微鏡を用い、電子線照射による元素固有の特性X線を検出するSEM-EDSが有効であることから、同装置を利用した。

実験 / Experimental

 構造解析には、高輝度、高感度の単結晶構造解析装置である、無機微小結晶構造解析装置 VariMax Dual (リガク)を利用した。温度因子を小さくするため、測定は主に低温 (93 K) で行った。
 また、化合物中の金属組成を決定する必要から、電子顕微鏡SEM-EDSを利用した。今回の場合、試料全体を低倍率で観察し平均組成を決定するため、高真空は必要としないことから、低真空走査型電子顕微鏡 JSM-6510LA を利用した。

結果と考察 / Results and Discussion

 (1)では構成単位となる金属錯体を水素結合で連結した水素結合性金属有機構造体(H-MOF)として合成された[Co(HL2)](DMF)1.2(H2O)2.4に対して、CoサイトをFeで希釈した[FeII1-xCoIIx(HL2)]構造(図1)を持つ混晶を合成し、化学圧力効果を調べた。その結果、SEM-EDSで調べた置換比率に応じて、結晶格子a, b軸の伸長とc軸の収縮が見られ、磁気測定と併せてCoサイトのFe置換による構造変調が低スピン安定化をもたらすことを明らかにした。また、配位性ラジカル部位であるNO基を持つテルピリジン配位子を用い、テルピリジン部位とNO部位で異なる金属イオンあるいは金属錯体への配位をすることで、多様なスピンネットワークを構築することが可能である。このとき、テルピリジン部位とNO部位で異なる金属種を配位させることができる。この配位能の系統性を調べるために、テルピリジン部位がZnに配位した化合物を出発物質(図2)として各種ランタノイドイオン(Ln)を用いた錯体と反応させ、テルピリジン部位の金属置換が行われるかどうか検討した。その結果、構造的にZnのイオン半径に対するLnのイオン半径の大小が金属置換が起きるか否かを決定している要因であることを明らかにできた。他にも、新奇Ln複核錯体や、ラジカル性有機磁性体の分子構造決定も行われた。
 (2)では、[FeIIFeIII(dto)3] (dto = dithiooxalato) 磁性層間の対カチオン置換体の合成を行った。この磁性層は、カチオン選択により電荷移動相転移に伴う特異なスピン転移 (CTPT) を示す。(n-C3H7)4Nを用いた系で見られたCTPT現象は、Ph4Pを用いた置換体では消失することは過去に報告した。この系に対して形状的に1か所のPh基を取り除いたことに相当する、triphenylsulfonium (= Ph3S) を用いた(Ph3S)[FeIIFeIII(dto)3]を合成し、構造決定を行った。その結果、Ph3Sは静的な無秩序化を示していること、またdto配位子のO, S配位も無秩序化していることが示され(図3)、磁気測定からはCTPTが現れることが明らかとなった。これらの実験結果からは、無秩序化したカチオンのPh部位と磁性層との大きな接触が起こることにより、CTPTが部分的に表れるということが推定された。また、Ph4Pの官能基の剛直性がCTPTの消失をもたらすのではないかという観点から、アルキル鎖でありながら剛直性を有する、分岐性アルキル鎖置換のtriisopropylphosphonium (i-Pr3HP) を用いた(i-Pr3HP)[FeIIFeIII(dto)3]、およびtritertbutylphosphonium (t-Bu3HP) を用いた(t-Bu3HP)[FeIIFeIII(dto)3]が合成された。いずれも単結晶構造解析は完全には解けなかったものの、[FeIIFeIII(dto)3]磁性層の層間にカチオンが配置している様子は見られ、類似構造体であることが確認できた。また、(i-Pr3HP)[FeIIFeIII(dto)3]の場合には類似の系でこれまでに見られたことのない、隣接磁性層間が二量化する挙動が観察でき(図4)、強磁性相を形成している各磁性層が、層間で反強磁性的に結合することで生じるメタ磁性を生じている、磁気的にもこれまでに見られない系であることを明らかにした。一方の(t-Bu3HP)[FeIIFeIII(dto)3]は構造的にも磁性的にもPh4Pを用いた系と類似していることがわかり、剛直性官能基が磁性層にもたらす影響を示すことができた。
 本実験に用いた単結晶は微小結晶であり、それらの構造決定には無機微小結晶構造解析装置 VariMax Dual が寄与した。また金属組成決定も微小結晶に適用するため、電子顕微鏡を用いたSEM-EDS装置のJSM-6510LAの性能を必要とした。今後の研究についても微小結晶に対する単結晶構造解析、SEM-EDS測定の重要性は極めて高い。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 [FeII(HL2)]の構造



図2 [ZnCl2(5tpybNO)]の構造



図3 (Ph3S)[FeIIFeIII(dto)3]の構造



図4 (i-Pr3P)[FeIIFeIII(dto)3]の構造(i-Pr3P部位はPのみの帰属)


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

単結晶構造解析の利用に際し、東京大学工学系研究科総合研究機構技術職員・飯盛 桂子氏の支援をいただきました。また、電子顕微鏡の利用に際し、東京大学大学院工学系研究科総合研究機構技術専門職員・福川昌宏氏の支援をいただきました。
DOI:10.1039/D3DT00858D
URL:http://dx.doi.org/10.1039/d3dt00858d
発表年:2023
タイトル:57Fe Mössbauer spectroscopy and high-pressure structural analysis for the mechanism of pressure-induced unique magnetic behaviour in (cation)[FeIIFeIII(dto)3] (cation = Ph4P and nPrPh3P; dto = 1,2-dithiooxalato)
筆頭著者:Ryosuke Taniai
ジャーナルタイトル:Dalton Transactions
ボリューム:52
ページ:8368-8375


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Takuya Kanetomo, Investigation of the unique magnetic behaviours of isomers in a 1,2-dithiooxalato-bridged diiron(ii) complex, Dalton Transactions, 52, 12496-12503(2023).
    DOI: 10.1039/D3DT01992F
  2. Takuya Kanetomo, Galvinoxyl-inspired dinitronyl nitroxide: structural, magnetic, and theoretical studies, Organic Chemistry Frontiers, 10, 3193-3200(2023).
    DOI: 10.1039/D3QO00591G
  3. Ryosuke Taniai, 57Fe Mössbauer spectroscopy and high-pressure structural analysis for the mechanism of pressure-induced unique magnetic behaviour in (cation)[FeIIFeIII(dto)3] (cation = Ph4P and nPrPh3P; dto = 1,2-dithiooxalato), Dalton Transactions, 52, 8368-8375(2023).
    DOI: 10.1039/D3DT00858D
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. Ryosuke Taniai, Takuya Kanetomo, and Masaya Enomoto, "STUDY OF THE ELECTRONIC STRUCTURE OF OCTAHEDRAL DTS COMPLEXES", The 18th International Conference on Molecule-Based Magnets (Nanjing(China)), 2023年9月11-12日
  2. 澤柳佑希・金友拓哉・榎本真哉, 「鉄混合原子価層状磁性体に対する3配位型カチオン挿入効果」, 錯体化学会第73回討論会(水戸), 2023年9月22日
  3. 南雲陽太・横田稜・直井裕哉・金友拓哉・榎本真哉, 「3d-2pヘテロスピン錯体を配位子として用いた4f-3d-2pヘテロスピン錯体の構造と磁性」, 錯体化学第73回討論会(水戸), 2023年9月22日
  4. 魚地香帆・金友拓哉・榎本真哉, 「分岐型アルキル基を持つ対カチオンを導入した鉄混合原子価錯体の積層様式と磁気特性」, 錯体化学会第73回討論会(水戸), 2023年9月22日
  5. 松永大豪・金友拓哉・榎本真哉, 「2-Benzimidazolinoneで架橋された2核ランタニド錯体の結晶構造および物性の調査」, 錯体化学会第73回討論会(水戸), 2023年9月22日
  6. 山戸啓輔・金友拓哉・榎本真哉, 「水素結合性 Co(II)-有機構造体における SCO 挙動の金属置換依存性」, 錯体化学会第73回討論会(水戸), 2023年9月22日
  7. 金友拓哉・澤柳佑希・遠藤翼・岡澤厚・榎本真哉, 「1,2-ジチオシュウ酸配位子が架橋する2次元鉄混合原子価錯体における積層構造と磁気挙動の相関」, 日本化学会第104春季年会(船橋), 2024年3月21日
  8. 谷合亮祐・金友拓哉・榎本真哉, 「結合異性を制限した架橋配位子によるFe(II)二核錯体の構造と磁気特性の調査」, 日本化学会第104春季年会(船橋), 2024年3月21日
  9. 南雲陽太・金友拓哉・榎本真哉, 「テルピリジン骨格のビラジカル配位子を用いた錯形成における金属選択性」, 日本化学会第104春季年会(船橋), 2024年3月20日
  10. 松永 大豪・金友 拓哉・松橋 千尋・榎本 真哉, 「2-Benzimidazolinoneで架橋された2核ランタニド錯体の結晶構造および物性の調査」, 日本化学会第104春季年会(船橋), 2024年3月18日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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