利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.04.19】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22MS1022

利用課題名 / Title

スピン依存的な光化学特性を示す開殻電子系の創製

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions

キーワード / Keywords

構造有機化学、π電子系、安定ラジカル、有機磁性体


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

清水 大貴

所属名 / Affiliation

京都大学大学院工学研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

濱本 穂高

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-215:電子スピン共鳴(EMX)
MS-223:熱分析(固体、粉末)


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

オルト/パラ水素に代表される核スピン異性体は、化学構造が全く等しいにも関わらず、異性体と呼ばれる関係にある。その理由は熱平衡状態において2つのスピン状態が共存可能で、かつ性質が大きく異なる(区別できる)ためであろう。しかし、核スピン異性体は交換対称性の違いに由来して比熱などの物理的性質が異なる一方で、電子に由来する性質は変化しない。では電子スピンに由来してスピン異性体が作られるとき、どのような現象や機能が見いだせるだろうか。本研究は、そのような電子スピン異性体を体系的に生み出す設計指針を見出し、そして新規な性質•現象•機能を引き出すことを目的としている。 これまでにトリプチセン骨格に安定ラジカルであるBlatterラジカルを2つ縮環したジラジカルを合成したところ、室温で1:1の共存が可能なほど小さなスピン間相互作用(~3 kJ/mol)を有しつつ、スピン状態に依存して大きく異なる吸収スペクトルを示すことを見出した。この結果は実験的にも温度可変吸収スペクトル測定および過渡吸収スペクトル測定によって支持されている。この化合物について分子科学研究所のESR装置(MS-215)を用いた温度可変ESRスペクトルの測定、および熱重量示差熱分析装置(MS-223)を用いた熱重量分析を行った。

実験 / Experimental

自機関で合成、光学特性の調査、SQUIDによる磁気特性の測定を行っていたBlatterラジカル二量体について、分子科学研究所のESR装置(MS-215)を用いた温度可変ESRスペクトルの測定、および熱重量示差熱分析装置(MS-223)を用いた熱重量分析を行った。

結果と考察 / Results and Discussion

トリプリセンに2つのBlatterラジカルを縮環させたジラジカルをトルエン溶媒中でのESR測定したところFigure 1に示すESRシグナルが得られた。温度の上昇に伴いシグナルの増加が見られたことから、基底状態は一重項であり、励起三重項状態に由来するESRシグナルが観測されたと考えられる。EasySpinプログラムを用いてフィッティングすることにより、ゼロ磁場分裂パラメータは|D|=208 MHzおよび|E|~0 MHzと求められた。点双極子近似によってスピン中心間距離は6.3 Åと求められ、これは分子構造とよい一致を示した。また熱重量分析によって5%重量減少温度が338 °Cと決定され、高い熱安定性を有することが分かった。また、カメラによる直接観察とDTAのピークから、融解とともに分解が起こっていることも分かった。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Figure 1. 今回測定したBlatterラジカル二量体の(a) 温度可変ESRスペクトルおよび(b) 160 KにおけるESRスペクトル(赤)とフィッティングにより求めたシミュレーションスペクトル(青)


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

・装置の利用にあたり分子科学研究所 機器センターの藤原 基靖様、伊木 志成子様、宮島 瑞樹様に大変お世話になりました。この場を借りて感謝申し上げます。
 ・共同研究者:大阪大学大学院基礎工学研究科 宮坂 博先生、五月女 光先生


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Masaki Kato, Near‐Infrared‐Responsive Hydrocarbons Designed by π‐Extension of Indeno[1,2,3,4‐pgra]perylene at the 1,2,12‐Positions, Chemistry – A European Journal, 29, (2023).
    DOI: 10.1002/chem.202300249
  2. Daiki Shimizu, Optically distinguishable electronic spin isomers of a stable organic diradical, , , (2023).
    DOI: 10.26434/chemrxiv-2023-b5pqp
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 1) 清水 大貴、「スピン依存的な光励起挙動を示す開殻電子系の創出」構造有機 Mirai セミナー、令和4年6月24日 Daiki Shimizu“Spin-state dependent optical behavior of a stable Blatter radical dimer with through-space interaction” The 9th International Kyoto Symposium on Organic Chemistry, 令和4年11月9日
  2. 2) 清水 大貴「ジラジカルを「電子スピン異性体」と捉えることはできるか」第7回有機若手ワークショップ、令和4年11月29日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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