利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.05.18】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23UT0055

利用課題名 / Title

新規磁性金属錯体の合成と物性に関する研究

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials(副 / Sub)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion

キーワード / Keywords

磁性金属錯体, 圧力熱量効果材料,電子顕微鏡/ Electronic microscope,X線回折/ X-ray diffraction


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

井元 健太

所属名 / Affiliation

東京大学 大学院理学系研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

Li Guanping,田中 良憲,STEFANCZYK OLAF ,KUMAR KUNAL,中林 耕二,中村 一輝,峯尾 侑希,佐藤 颯太 ,井口 光輔,小林 大輝 ,小西 達也,赤木 慎太郎 ,WANG JUNHAO ,長島 俊太郎,大野 達也,金﨑 隆心 ,COLIN ARISTIDE,小林 将大 ,深川 樹

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-201:無機微小結晶構造解析装置
UT-102:高分解能走査型分析電子顕微鏡
UT-101:低損傷走査型分析電子顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

本研究では、新規圧力熱量効果材料の開発を目的とし、シアノ架橋ルビジウム-マンガン-鉄-コバルト錯体に着目した。本材料は、圧力を印加したり開放したりすることで、温度が上昇および下降する効果を示し、340 MPaで74 K、560 MPaで85 Kという大きな可逆的断熱温度変化を示すことを見出した。また、90 MPaにおいても21 Kという値を示した。さらに、熱電対を用いた実測装置を用いて、圧力印加することで+44 Kという大きな温度変化を観測した。

実験 / Experimental

試料は、塩化マンガン(II)、ヘキサシアノ鉄(III)カリウム、ヘキサシアノコバルト(III)酸カリウム、塩化ルビジウムを反応させることにより得られた。組成分析、電子顕微鏡による観察、粉末X線回折、常圧および圧力下における磁化測定、比熱、示差走査熱量測定により、試料の評価を行った。

結果と考察 / Results and Discussion

組成分析から、試料の組成はRbMn{[Fe(CN)6]0.92[Co(CN)6]0.08}·0.3H2Oであった。走査型電子顕微鏡像から、試料の粒径は3.6 ± 1.9 μmと見積もられた(図1)。シアノ架橋ルビジウム-マンガン-鉄-コバルト錯体のモル磁化率と温度の積(χMT、スピン数に比例)は冷却すると192 Kで急激に減少し、加熱すると248 Kで元の値に戻った。この相転移は、温度変化によって、MnII–NC–FeIII相(高温相)とMnIII–NC–FeII相(低温相)の間の電荷移動相転移が起こることによることがわかった。示差走査熱量測定の結果、降温および昇温時にそれぞれ、196 Kおよび251 Kにピークが観測され、転移エンタルピーはそれぞれ36.0 kJ kg-1、41.7 kJ kg-1と見積もられた。この結果と比熱測定、格子体積の温度依存性を用いて、シアノ架橋ルビジウム-マンガン-鉄-コバルト錯体の圧力印加および開放による冷却サイクル性能を評価するため、可逆的断熱温度変化、可逆的エントロピー変化、および可逆サイクルの冷媒容量(RCrev)を計算した。その結果、圧力560 MPaでは可逆的断熱温度変化85 K、可逆的エントロピー変化−212 J K−1 kg−1 、RCrev = 26000 J kg−1に達した。観測された可逆的断熱温度変化の値は、固相-固相転移冷媒における熱量効果の中で最大である。さらに、圧力印加および圧力開放時の温度変化を実際に測定するため、熱電対を用いた自作装置を構築した。本装置において、試料に圧力(440 MPa)を加えると、9 °Cから53 °Cへ温度が上昇し、圧力を開放すると9 °Cから−22 °Cへ温度が低下した。このように、1サイクルで75 K(= +44 K + |−31| K)という非常に大きな温度変化が検出された。このような温度変化は様々な動作温度で観測されるとともに、繰り返し特性を調べたところ、圧力印加/開放を100回繰り返してもその性能が全く劣化しなかった。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. 試料のSEM画像。


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Shin-ichi Ohkoshi, Giant adiabatic temperature change and its direct measurement of a barocaloric effect in a charge-transfer solid, Nature Communications, 14, (2023).
    DOI: 10.1038/s41467-023-44350-4
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. Y. Tanaka, Y. Nagane, Y. Mineo, K. Nakamura, K. Imoto, K. Nakabayashi, S. Ohkoshi. "Effect of divalent cobalt substitution on the transition temperature of a cyanido-bridged Mn-Fe assembly", 錯体化学会第 73 回討論会(茨城), 2023年9月21日。
  2. K. Nakmaura, S. Kobayashi, K. Nakabayashi, S. Ohkoshi, "Structural and optical properties of a cyanido-bridged CoW assembly showing temperature- and photo-induced phase transition", 錯体化学会第 73 回討論会(茨城), 2023年9月21日。
  3. Y. Tanaka, Y. Nagane, Y. Mineo, K. Nakamura, K. Imoto, K. Nakabayashi, S. Ohkoshi. "Comparison of the effects of metal substitution in a rubidium manganese hexacyanidoferrate showing a charge-transfer phase transition", Phase Transition and Dynamical Properties of Spin Transition Materials 2023 (東京), 2023年11月26日。
  4. Y. Tanaka, Y. Nagane, Y. Mineo, K. Imoto, K. Nakabayashi, S. Ohkoshi. "Tuning of transition temperature by metal substitution on a rubidium-manganese-hexacyanidoferrate", 第15回低温科学研究センター研究交流会 (東京), 2024年2月16日。
  5. K. Nakamura, S. Kobayashi, K. Nakabayashi, S. Ohkoshi, "Photo-induced phase transition to metamagnet in cyanido-bridged CoW assembly",第15回低温科学研究センター研究交流会 (東京), 2024年2月16日。
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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