【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.11】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22MS1018
利用課題名 / Title
常温常圧で機能する高活性窒素固定触媒の開発
利用した実施機関 / Support Institute
自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion
キーワード / Keywords
窒素固定, 金属錯体, 触媒, バナジウム
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
梶田 裕二
所属名 / Affiliation
愛知工業大学工学部応用化学科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
小久保佳亮
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
長尾春代
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
MS-218:SQUID(MPMS-7)
MS-233:高磁場NMR(600MHz溶液)
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
常温常圧での窒素固定法の研究開発は、ハーバー・ボッシュ法に替わる人工窒素固定法の研究として盛んに行われている。当研究室では、これまでにトリアミドアミン配位子を用いた二核窒素錯体の合成と、それらを用いた常温常圧での窒素固定に成功し報告した。今回の研究では、トリアミドアミン配位子上の末端N原子上の置換基を系統的に変化させることで、単核および二核の窒素錯体の作り分けに成功するとともに、それらを用いた常温常圧での窒素固定にも成功した。
実験 / Experimental
用いた一連の化合物の合成、単離精製は全て当研究室にて行った。合成した金属錯体の結晶構造決定は、申請者が所属する大学が所有する単結晶X線構造解析装置を用いて行った。赤外吸収スペクトルは申請者が所属する大学が所有する装置を用いて測定した。15N核などの多核NMR測定は分子科学研究所が所有する600 MHz核磁気共鳴装置を用いて測定した。
結果と考察 / Results and Discussion
当研究室では、トリアミドアミン配位子の末端N原子上に二級炭素が隣接する嵩高い置換基導入すると、二核窒素錯体が合成できることを系統的に置換基の嵩高さを変化させることで見出し、報告している1。そこで今回は、末端N原子上に三級炭素が隣接する嵩高い置換基を導入することで単核窒素錯体が合成できるかを試みた。用いた配位子を図1に示した。その結果、トリアミドアミン配位子の末端N原子上にイソプロピル基 (iPr)、3-ペンチル基 (Pen)を導入するとこれまで同様の二核窒素錯体が生成することを単結晶X線構造解析およびNMR測定から明らかにした。それぞれを錯体1および2とし、それらの結晶構造を図2に示した。錯体1および2におけるN-N結合距離はそれぞれ1.219(4)および1.226(3) Åであり、窒素分子の1.1 Åと比較すると十分長くなっており、活性化されていることがわかった。置換基にジシクロヘキシルメチル基 (Cy2)を導入すると、錯体1および2と同様の合成方法からは窒素が配位していない単核バナジウム錯体(錯体3とする)が生成することも明らかにした。そこで、この錯体3を金属カリウムと反応させることによって窒素が配位した錯体が合成できるか試みた。その結果、カリウムイオンとバナジウムイオンとの間に二窒素配位子が架橋した異種二核窒素錯体(錯体4)が生成することを結晶構造から明らかにした。錯体4の結晶構造を図3に示した。錯体4のN-N結合距離は1.152(3) Åであり、錯体1および2と比較すると二窒素配位子のN-N結合における活性化は弱いことがわかった。錯体1, 2および4におけるN-N伸縮振動の値は、ラマンスペクトルおよびIRスペクトルから得られ、それぞれ1436, 1412, 1818 cm-1に観測された。この振動の値を比較しても二核窒素錯体の方が二窒素配位子を大きく活性化していることがわかった。錯体4はNMRスペクトルにおいて常磁性シフトを示したため、15N核のNMR測定は行わなかったが、錯体1および2の15N NMRスペクトルでは、それぞれ25.2および41.6 ppmに架橋二窒素配位子由来のピークを観測した。したがって、これらの錯体は溶液中でも二核構造を維持していると考えられる。次にこれらの錯体を用いて二窒素配位子のプロトン化反応を試みた。合成した錯体1, 2, および4を、トリフルオロメタンスルホン酸、および電子源であるカリウムナフタレニドとそれぞれ反応させ、生成物を追跡した。その結果、錯体4が最もプロトン化生成物の収率が良く、アンモニアを80%、ヒドラジンを5%の収率(バナジウムイオン当たり)で得た。錯体1および2におけるプロトン化生成物の収率は、錯体1ではNH3: 47 %, N2H4: 11 %、錯体 2ではNH3: 38 %, N2H4: 16 %であり、錯体4の方が全体として収率は良かった。これは錯体4がもつジシクロヘキシルメチル基が、a位の窒素原子の周囲まで囲っており、これによってb位のN原子から順次プロトン化が進行し、反応途中での分解が抑制されたためと考えられる。 これらの結果より、a位の窒素原子の周囲を立体的に囲うことによって、プロトン化生成物の収率を向上させることができる可能性があることを示唆する結果を今回得ることができた。今回は触媒的に窒素固定を行うことはできなかったものの、プロトン化に反応における重要な知見が得られたと考えている。今後はさらに置換基を工夫することで触媒耐久性の高い触媒の開発を行なっていく予定である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1. 今回用いたトリアミドアミン配位子
図2. 錯体1 (a)および2 (b)の結晶構造
図3. 錯体4の結晶構造
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
参考文献1) Kokubo, Y.; Yamamoto, C.; Tsuzuki, K.; Nagai, T.; Katayama, A.; Ohta, T.; Ogura, T.; Wsada-Tsutsui. Y.; Kajita, Y.; Kugimiya, S.; Masuda, H. Inorg, Chem. 2018, 57, 11884-11894. 謝辞 NMR測定で大変お世話になりました、分子科学研究所 機器センター 長尾春代様に深くお礼申し上げます。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
-
Yoshiaki Kokubo, The Steric Effect in Preparations of Vanadium(II)/(III) Dinitrogen Complexes of Triamidoamine Ligands Bearing Bulky Substituents, Molecules, 27, 5864(2022).
DOI: 10.3390/molecules27185864
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- Yoshiaki Kokubo・Yuji Kajita “Syntheses and Structures of Vanadium Dinitrogen Complexes Supported with Triamidoamine Ligand with a Series of Sterically Hindered Substituents” 8th Asian Conference on Coordination Chemistry, 台湾 台北 2022年8月7日(オンライン)
- Yoshiaki Kokubo・Yuji Kajita “Syntheses and Structures of Vanadium Dinitrogen Complexes Bearing Triamidoamine Ligands with Alkali Ions” 錯体化学会第72回討論会 九州大学 2022年9月27日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件