【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.05.29】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23UT0026
利用課題名 / Title
畳み込みニューラルネットワークを用いた電子顕微鏡画像からの電流ー電圧曲線の予測
利用した実施機関 / Support Institute
東京大学 / Tokyo Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed
キーワード / Keywords
電極材料/ Electrode material,電子顕微鏡/ Electronic microscope,フォトニクスデバイス/ Nanophotonics device,水素貯蔵/ Hydrogen storage
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
片山 建二
所属名 / Affiliation
中央大学 理工学部・応用化学科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
林祐太,永井優也
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
福川 昌宏
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
データ科学の進展に伴い、機械学習などの情報科学技術を用いた材料開発 (マテリアルズ・インフォマティクス: MI) が普及してきた。一般に機械学習のモデル構築には膨大なデータが必要となるため、MIでは主に量子化学計算やデータベースによって得られるデータを説明変数としてモデリングを行っている。[1] 他方、実際の材料の研究開発では作製した材料を測定することでデータを得るため、膨大なデータを収集することは難しい。そこで、我々は、数十から数百の小規模なデータから光触媒材料の性能の予測するために、材料の複数の分析化学データを用いて性能を予測し、重要な因子を特定する方法を開発してきた。[2] これまでは、分光・電気化学的情報を基に材料性能を単一の光電流値により予測してきたが、本研究では、電子顕微鏡画像による構造情報のみを用いて、光電流-電圧 (I-V) 曲線全体を予測することに取り組んだ。光電気化学 (PEC) 水分解の光アノード電極として注目されているバナジン酸ビスマス (BiVO4) を使用し、同一作成条件下におけるPEC性能のばらつきの起因を、電子顕微鏡画像を説明変数として、I-V曲線を機械学習によって予測することにより明らかにした。
実験 / Experimental
機械学習のうち教師あり学習では、学習データを用いてモデルのパラメータを調整し、テストデータにより評価することで最適なモデルを構築する。さらに、本研究では扱うデータ数が少なく、モデルの過剰適合による過学習の問題が生じやすい。そのため、データを5分割し、学習データとテストデータの組み合わせを変えながら構築したモデルの平均を評価する5分割交差検証を用いた。また、モデルの評価には決定係数 (R2) を使用した。R2が1に近づくほど予測値と実測値の差が小さいといえる。 本研究では、機械学習のモデルとしてニューラルネットワークの一種である畳み込みニューラルネットワーク (CNN; Convolutional Neural Network) を用いた。ニューラルネットワークは人間の脳内の神経細胞を模倣した数式モデルであり、入力層、中間層および出力層で構成される。CNNはニューラルネットワークの中間層に畳み込み層とプーリング層を組み込んだモデルであり、画像データから特徴量抽出し、その特徴量を基に出力値を計算する。 本実験では、説明変数として二次電子像 (SEI; Secondary Electron Image)及び反射電子像 (BEI; Backscattered Electron Image) を用いた (図1)。一般には、SEIは試料表面の凹凸、BEIは試料中の物質の違いを画像強度として反映しやすい。 一試料に対してBiVO4電極表面のSEI及びBEIを2箇所ずつ複数の倍率 (2,000倍、4,000倍、 10,000倍 、50,000倍) で合計16枚撮影した。なお、2,000倍及び4,000倍は18試料、10,000倍及び50,000倍は31試料の表面観察をした。画像データ (960 px × 1280 px) の一部を無作為に切り出し説明変数とした。その試料のI-V曲線の0.4 - 1.4 V (間隔0.1 V) における電流値を目的変数とした。このデータを用いて、5分割交差検証によりCNNの回帰モデルを構築した。最後に、実際のI-V曲線とテストデータにより予測したI-V曲線から決定係数 (曲線間の一致度) を算出し、その値が0.95以上となるデータの割合を評価指標とした。
結果と考察 / Results and Discussion
異なる倍率のSEIによる計算結果を比較した。256
px × 256 pxに切り取ったSEIをCNNにより回帰分析した結果、一致度の高い曲線の割合は4,000倍の画像が最も高いことが明らかになった (図2)。なお、図の実線は実測のI-V曲線、点は予測値を示す。
同一領域におけるSEI、BEI及び両者を重ね合わせた2層を説明変数とした際の計算結果を比較した。256
px × 256 pxに分割した4,000倍の画像をCNNにより回帰分析した結果、決定係数の値はBEIに比べSEIの方が高く、さらに2層に合成した際は最も高くなった (図2(b), 図3)。一般にハイパーパラメータの最適化手法の一つとして挙げられるベイズ最適化を使用し、入力画像の大きさを調整した。[3]
その結果、131
px × 34 pxが最適解として推定された。このサイズで分割した4,000倍の2層の画像を回帰分析し、256
px × 256 pxで分割した画像と比較した結果、決定係数の値は最適化した入力画像の方が高く、ほぼ100%に近い正解率を示した (図4)。
CNNのようなニューラルネットワークでは、計算過程での重み付けの意味を解明することが困難である。そこで、計算過程において重要な領域を可視化する研究が進められている。[4]
本研究においてもLIMEと呼ばれる手法を予測精度の最も高い図4
(a) の予測条件に適用し、各領域における計算の寄与を可視化した
(図5)。[4] 図5において、計算に寄与する領域を赤色で示している。この結果より、予測精度の高い画像は粒子形状のコントラストが高い。また、各電圧における寄与を見ると、予測精度の高い画像ほど画像内の同一領域が性能予測に寄与している傾向が確認できた。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1. BiVO4電極のa) SEIおよびb) BEIの例
図2. a) 2,000倍 b) 4,000倍 c) 10,000倍 d) 50,000倍 (SEI) のテストデータによる予測結果
図3. a) BEI b) 2層のテストデータによる予測結果
図4. a) 131px × 34 px, b) 256px × 256 pxのデータによる予測結果
図5. 予測精度が最も高い (左2列) 及び最も低い (右2列) 画像のLIMEによる計算寄与の可視化
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
(1) Ankit Agrawal; Alok Choudhary, MRS Com., 2019, 9, 779-792.(2) Yuya Nagai; Kenji Katayama, Analyst, 2022, 147, 1313-1320.(3) Jia Wu; Xiu-Yun Chen et al., J. Electron. Sci. Technol., 2019, 17, 26-40. (4) Marco Tulio Ribeiro; Sameer Singh; Carlos Guestrin, In KDD, 2016, 1135-44.
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Yuta Hayashi, Convolutional neural network prediction of the photocurrent–voltage curve directly from scanning electron microscopy images, Journal of Materials Chemistry A, 11, 22522-22532(2023).
DOI: 10.1039/D3TA05282F
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 林祐太、永井優也、潘振華、片山建二、"機械学習による電子顕微鏡画像を用いたBiVO4光アノード電極の性能予測"、2023光化学討論会 2023年9月
- 片山 建二、林 祐太、永井 優也、潘 振華、“畳み込みニューラルネットワークを用いた電子顕微鏡画像からの電流ー電圧曲線の予測-バナジン酸ビスマスを例に ”、日本化学会第104春季年会 2024年3月
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件