利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.04.19】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22MS1010

利用課題名 / Title

逆ペロブスカイト型マンガン窒化物における特異な磁気特性の解明

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed

キーワード / Keywords

逆ペロブスカイト、窒化物


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

川口 昂彦

所属名 / Affiliation

静岡大学学術院工学領域電子物質科学系列

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

杉浦 怜希

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

伊木 志成子

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-218:SQUID(MPMS-7)
MS-219:SQUID(MPMS-XL7)


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 磁気信号の高感度検出に重要な「交換バイアス」(磁場に対して正負非対称な磁化反転を生じさせる見かけ上の磁場)の発現には、一般に強磁性/反強磁性の接合素子が必要である。これに対し、本研究ではMn3(Ge,Mn)Nにおいて、単一物質にも関わらず室温で交換バイアスを示すことを独自に見出した。これは、Mn3(Ge,Mn)Nにおいて、一般に極低温の現象として知られているスピングラス相(ミクロに強磁性と反強磁性の相互作用が混在した相)が室温以上まで安定化していることを示唆している。導体で室温までスピングラス相が安定となる物質は非常に限られており、室温駆動デバイスへの応用だけでなく基礎研究上も興味深い物質である。そこで本研究では、Mn3(Ge,Mn)Nの粉末および薄膜の磁気特性について調査を進めている。結果として、Mn3GeNのGeサイトにMnを置換し、Mn置換量を変化させた Mn3+xGe1-xN粉末を合成した。Mn置換量を増加させると単位格子体積は減少し、x = 0~0.60の組成においてMn3(Ge1-xMnx)N試料の作製に成功した。x = 0.10~0.50の組成において交換バイアスが観測された。x = 0.15, 0.20の組成では、室温においても交換バイアスが観測された。また、MgO基板上にMn3(Ge,Mn)N薄膜のエピタキシャル成長に成功した。

実験 / Experimental

 Mn3(Ge1-xMnx)N 粉末は真空封入した石英管中で固相反応法(800℃, 60 h)により合成した。また、Mn3(Ge1-xMnx)N薄膜はPLD法を用いてMgO(001)単結晶基板上に成膜した。ターゲットには、放電プラズマ焼結法により作製したMn3(Ge1-xMnx)N 焼結体を用いた。成膜は、背景真空度5×10-5 Pa 付近において、Nd:YAGレーザー4倍高調波を用いて行った。得られた薄膜はX線回折(XRD)、超伝導量子干渉磁束計(SQUID)を用いて評価した。

結果と考察 / Results and Discussion

 まず粉末試料について示す。作製した試料のXRDの結果から、x = 0~0.60の置換量について、いずれもごく微量のMnOの存在を示すピークが見られたが、格子定数の変化がベガード則に従ったことから、GeサイトへのMnの部分置換はいずれの置換量についても成功したと言える。合成に成功したMn3(Ge1-xMnx)N粉末の中で、x = 0.20の粉末試料においてヒステリシスの中心が原点からずれたヒステリシスが観測された。±10000 Oeにおいて磁化の大きさがほぼ同等であることから、原点からのずれはマイナーループではなく、交換バイアスによるものだと考えられる。さらに温度依存性を調べたところ、300 Kにおいても-100 Oe程度の交換バイアスを示すことが確認された。さらに、x = 0.10~0.50の組成においても交換バイアスが観測された。x = 0.15, 0.20の組成では、室温においても交換バイアスが観測された。 次に薄膜試料について示す。500℃で成膜したMn3.26Ge0.74N薄膜のXRDパターンから、Mn3(Ge,Mn)N相が(001)配向したことが示唆された。さらに(111)φスキャンにおいて4回対称のピークが見られたため、MgO(001)基板上にMn3(Ge,Mn)N薄膜のエピタキシャル成長に成功したと考えられる。表面にAlOxキャップ層をin-situにて常温成膜した薄膜では明確な磁気転移を示すことが分かった。キャップ層の無い薄膜では磁気転移が認められなかったことから、キャップ層の形成は薄膜の大気暴露による劣化(酸化)を防ぐことができると推察される。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)



成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. [1] " Mn3(Ge,Mn)Nにおける室温交換バイアスの観測とPLD法を用いたその薄膜作製", 〇川口昂彦, 杉浦怜希, 坂元尚紀, 脇谷尚樹, 第70回応用物理学会春季学術講演会, 2023年3月17日, 上智大学四谷キャンパス+オンライン.
  2. [2] " PLD 法による逆ペロブスカイト型窒化物Mn3(Ge,Mn)N 薄膜の作製及び磁気特性評価", 〇杉浦怜希, 川口昂彦, 坂元尚紀, 脇谷尚樹, 第42回電子材料研究討論会, 2022年11月11日, 東京工業大学すずかけ台キャンパス+オンライン
  3. [3] " PLD 法による逆ペロブスカイト型窒化物 Mn3(Sn,Bi)N のエピタキシャル薄膜の作製", 〇川口昂彦, 白井友晴, 坂元尚紀, 鈴木久男, 脇谷尚樹, 第83回応用物理学会秋季学術講演会, 2022年9月22日, 東北大学川内北キャンパス+オンライン.
  4. [4] "PLD法によるMn3(Ge,Mn)N薄膜の作製", 杉浦怜希, 川口昂彦, 坂元尚紀, 脇谷尚樹,日本セラミックス協会第38回関東支部研究発表会, 2022年9月7日, 大宮ソニックシティ市民ホール.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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