【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.04.23】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23NU0226
利用課題名 / Title
導電性高分子デバイス及び共振器レーザーデバイスの作製と評価
利用した実施機関 / Support Institute
名古屋大学 / Nagoya Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion
キーワード / Keywords
導電性高分子、金属-絶縁体転移、電気化学トランジスタ,エレクトロデバイス/ Electronic device,熱電材料/ Thermoelectric material,光学顕微鏡/ Optical microscope,膜加工・エッチング/ Film processing/etching,光リソグラフィ/ Photolithgraphy
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
田中 久暁
所属名 / Affiliation
名古屋大学大学院工学研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
伊藤駿一郎,後藤拓,劉峻峰,竹延大志
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術相談/Technical Consultation
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
NU-211:フェムト秒レーザー加工分析システム
NU-231:マスクレス露光装置
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
本課題では、フレキシブルな電子材料として注目される導電性高分子の高特性化、高機能化に向け、電気化学ドープ膜の電荷輸送や熱電変換特性の解明に取り組んでいる。導電性高分子の薄膜は不均一な局所構造を反映し、複雑な物性特性を示す。そこで本研究では、電気化学ドープされた薄膜の4端子電気伝導測定や、ゼーベック効果、磁気伝導度、電子スピン共鳴などの多様な物性測定を組み合わせ、高分子ドープ膜の特性を多角的に調べている。そのためには薄膜トランジスタ(TFT)素子の電極形状に合わせた高分子膜の精密な成型加工が必要であり、本課題では名古屋大学先端研にあるフェムト秒レーザー加工システムを用いて加工を行った。
実験 / Experimental
本研究では、基板上にフォトリソグラフィー、あるいはメタルマスクを用いて電極パターンを形成し、その上に導電性高分子薄膜を塗布法により製膜した。製膜した高分子膜に対し、名古屋大学先端研にあるフェムト秒レーザー加工分析システム(UFL-Hybrid)を用いて精密な加工を施した。高分子膜の加工後、イオン液体[DEME][TFSI]の薄膜を高分子膜上部に形成し、サイドゲート型の電気化学トランジスタ構造を作製した。
結果と考察 / Results and Discussion
Fig.1に、SiO2絶縁膜上に塗布した高分子膜のレーザー加工後の写真を示す。塗布直後の高分子膜は電極上も含めた素子全面に製膜されており、正確な4端子伝導測定を行うことはできない。そのため、本研究ではレーザー加工によりソース(S)-ドレイン(D)電極間のチャネル領域をレーザーにより精密に加工し、4端子電気伝導率や磁気抵抗効果を正確に測定できるようにした。本研究では、結晶性が高く顕著な伝導性が期待できる導電性高分子PBTTT (Fig. 1a)、および、アルキル側鎖の形状により分子配向性が制御できる新規材料であるPTzBT-14HD (Fig. 1b)を用いてデバイスを作製した。
高分子のレーザー加工後、電解質膜を上部に形成し、電気化学トランジスタ構造を作製した。本研究では電気化学ドーピングによる高濃度のキャリア注入を行った後、さらに、SiO2絶縁膜を利用した電界効果ドーピングを行い、電界効果ドーピングに伴う微小な電気伝導率の変化を観測することで電気化学ドープ膜の移動度を決定した。その結果、高い結晶性を示すPBTTT薄膜では電気伝導率の温度依存性は半導体的であるものの、移動度は60 Kの低温領域まで低温で増大するバンド伝導的な挙動を示した。一方で、PTzBT-14HDにおいても室温で200 S/cmの高い電気伝導率と1 cm2/Vsを超える高い移動度が見出されたが、移動度は低温で減少する傾向が見られ、ホッピング的な伝導挙動となった。他方、どちらの材料においても高温では弱局在に起因する磁気伝導度効果が観測され、少なくとも薄膜の結晶領域内においてはキャリア波動関数が広がった非局在的な伝導性が実現していることが明らかになった。これらの非局在的な伝導性の起源を調べるため、現在、X線構造解析を含めたより詳細な構造・物性解明をすすめている。
また、本課題では、金電極をon-chip型のヒーターとして薄膜に温度差を誘起し、様々な電気化学ドープ濃度において熱起電力を測定し、ゼーベック係数の温度依存性を低温まで測定する研究を行っている。本年度はヒータ形状を工夫し、より効果的な温度差誘起を可能とする素子改良を行っている(Fig.2)。導電性高分子PBTTTにおいて観測されるゼーベック係数は金属に特有な温度Tに比例する振る舞いのみでは説明できず、低温では局在的なキャリアの寄与が顕著に表れ、温度上昇につれて熱励起的に金属状態が形成されるモデルで再現された。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig. 1 高分子薄膜のレーザー加工パターン。(a)PBTTT薄膜 (b)PTzBT-14HD。
Fig. 2 ゼーベック係数測定用のサイドゲート型電気化学トランジスタの模式図(a)と、写真(b)。高分子 (PBTTT)薄膜はレーザー加工により整形。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- S. Ito, K. Kanahashi, H. Tanaka, B. Chen, H. Ohta, T. Takenobu, "Temperature Dependence of Electrical Conductivity and Seebeck Coefficient in Electrochemically-Doped Conducting Polymer PBTTT", 2023 International Conference on Solid State Devices and Materials, Nagoya, 令和5年9月8日, (Oral)
- 田中久暁, “Charge transport and thermoelectric properties in electrochemically-doped conducting polymers”, 2023年度 ナノ構造・物性―ナノ機能・応用部会 合同シンポジウム、北九州国際会議場、小倉、令和5年11月22日(招待講演)
- H. Tanaka, S. Ito, H. Goto, L. Junfeng, T. Takenobu, “Charge Transport in Electrochemically-Doped Conducting Polymers”, 14th Japan-China Joint Symposium on Conduction and Photo-conduction in Organic Solids and Related Phenomena (14JCJS), 1B09, Nagoya, Aichi, December 7-9, (2023) (Oral)
- 後藤 拓, 伊藤 駿一郎, 田中 久暁, 尾坂 格, 竹延 大志, ”導電性高分子PTzBT-14HD電気化学ドープ膜の伝導特性”, 第71回応用物理学会春季学術講演会、東京都市大学世田谷キャンパス、22p-P01-10、令和6年3月22日(ポスター).
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件