【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.22】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23NU0213
利用課題名 / Title
光電子分光法および原子間力顕微鏡によるナノ空間材料薄膜の金属イオン収着特性評価
利用した実施機関 / Support Institute
名古屋大学 / Nagoya Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials
キーワード / Keywords
電子分光/ Electron spectroscopy,分離・精製技術/ Separation/purification technology,資源循環技術/ Resource circulation technology,ナノカーボン/ Nano carbon
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
中谷 真人
所属名 / Affiliation
名古屋大学 大学院工学研究科 エネルギー理工学専攻
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
尾上 順,奥村 光希,山本 駿
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
自動車の排ガス用触媒やエレクトロニクスに必要不可欠な白金族元素[パラジウム(Pd), ロジウム(Rh), ルテニウム(Ru)など]を廃棄物からリサイクルするために、溶液中金属イオンの分離精製で用いる高性能収着材の開発が急務である。本研究では、内部に幅約0.3 nmの周期的内部ナノ空間を持つC60薄膜をPd、Rh、及びRuイオンが共存する水溶液に浸漬させ、薄膜の電位をポテンシオスタットによって制御したときの金属イオンの収着特性や収着形態を詳しく調べた。
実験 / Experimental
真空蒸着法によってC60薄膜(厚さ300 nm)をタンタル(Ta)基板上へ形成した。収着実験のために、硝酸パラジウム[Pd(NO3)2]、硝酸ロジウム[Rh(NO3)3]、硝酸ニトロシルルテニウム[Ru(NO)(NO3)3]をそれぞれ塩化カリウム(KCl)水溶液へ溶解させることで、各金属イオン濃度が4 mMの混合溶液(Pd-Rh-Ru水溶液)を調製し浸漬液として用いた。浸漬液が満たされたセル内にC60薄膜/Ta(作用極)、Pt線(対向極)、AgCl/Ag@3M-KClセル(参照極)を配置し、それぞれをポテンショスタットへ接続することで、電位制御浸漬を行った。収着されたPGMs元素の分析はエネルギー分散型X線分光装置(EDX装置)とX線光電子分装置(XPS装置NU-207)により,収着総量は高精度電子天秤(d=1μg)により,それぞれ定性・定量評価した。
結果と考察 / Results and Discussion
最初に電位制御せずに100分間浸漬させたC60薄膜のXPS測定を行った。Fig1(a)は高分解能XPSスペクトルであるが、結合エネルギー338.4V にPdの3d5/2 および3d3/2ピークが観測された。Pdの3d5/2 ピークは、中性状態では334~336 eVに、2価の正イオンの状態では336~340 eVに現れることから、Pd-Rh-Ru水溶液へC60薄膜を浸漬させるとPdは2価正イオンの状態で収着されていることが分かった。また同様の測定の結果、RhおよびRuは共に3価の正イオンとして収着されることが分かった。さらにEDX測定の結果との比較からPd2+、Rh3+およびRu3+イオンは表面近傍に高密度に収着されるが、逆に薄膜内部でのイオン収着は確認できず、これは、薄膜表面へのPGMsイオン吸着によって薄膜の電位が増加し電位障壁として作用することで薄膜内部へのイオン拡散を阻害したからと考えられる。 次に,C60/Ta作用極の電位を-0.3 V ~ 0 V (vs Ag/AgCl@3M-KCl水溶液)の範囲で制御しながら5分間浸漬させたところ、Rh、Ru、Pdの数密度が電位低下に対して急激に増加した。ここで、-0.2 Vで浸漬させたC60薄膜をEDX測定すると、表面に主にPdから構成される粒状の堆積物が観察された。Fig1(b)および1(c)は、電位-0.1Vの条件で1および24時間の電位制御浸漬を行ったC60薄膜のXPS測定の結果である。共に3d5/2 のメインピークが低結合エネルギー側へシフトしており、シフト後のピーク位置よりPdは主に中性状態で収着されていることを強く示唆される。一方、RhおよびRuは電位制御浸漬後も共に価の正イオンとして収着されることが分かった。即ち電位が-0.1VではPd2+のみ固液界面で還元され表面に堆積(電析)したと考えられる。ここで、酸化還元電位(E゜)はPd2+(0.915 V)の値がRh3+(0.758 V)およびRu3+(0.704 V)に比べ0.2 V高いため,同一電位条件下ではPd2+が最も還元され易く、これは得られた結果と良く対応する。さらに電位制御浸漬の時間を増加すると、高選択率を保持したままPd収着量が指数関数的に増加することから、本手法はPdを低コストかつ高速に選択回収する方法として有用であると考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig 1. Pd-Rh-Ru溶液へ浸漬させたC60薄膜の高エネルギー分解能XPSスペクトル。(a)電位制御せずに100分間浸漬させたC60薄膜。電位を-0.1Vに固定しながら(b)1時間および(c)24時間浸漬させたC60薄膜。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 奥村光希,水野瑛基,中谷真人,尾上順,“白金族イオンに対するフラーレンポリマー薄膜の収着特性” ナノ学会第21回大会P72, 令和5年5月12日.
- 中谷真人,奥村光希,北河康隆,尾上 順,“金属有機ナノ空間材料を用いた白金族元素の回収:(II)プルシアンブルーの荷電状態制御による収着特性”,日本原子力学会2023年秋の大会,3E07,令和5年9月8日.
- 村上淳哉,中谷真人,尾上 順,“金属有機ナノ空間材料を用いた白金族元素の回収:(IV) フェロシアン化銅を用いたパラジウムイオンの高選択収着”,日本原子力学会2023年秋の大会,3E09,令和5年9月8日.
- 奥村光希,中谷真人,尾上 順,“溶液中白金族元素イオンに対するフラーレンおよびフラーレンポリマー薄膜の収着特性” 第23回日本表面真空学会中部支部学術講演会,講演番号5P72,令和5年12月16日.※講演奨励賞受賞.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件