利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.16】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22MS1005

利用課題名 / Title

電子スピン共鳴による酵素の構造学的研究

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials

キーワード / Keywords

電子スピン共鳴,金属タンパク質,酵素反応,構造生物学


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

堀谷 正樹

所属名 / Affiliation

佐賀大学農学部生物資源科学科生命機能科学コース

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

當舎 武彦,鈴木 道夫,矢垰 紅音,嘉数 百合,小泉 京平,古賀 優菜,黒岩 もね,川上 凌平

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-214:電子スピン共鳴(E680)
MS-215:電子スピン共鳴(EMX)
MS-216:電子スピン共鳴(E500)


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

酵素は室温、低エネルギーコストで人工的に達成が困難な化学反応を触媒している。そのため酵素における反応機構解析の研究が精力的に行われているが、反応機構の全貌を明らかにするためには、様々な反応中間体を捕捉しなければならない。反応中間体を捕捉する手法として、高速混合凍結法(RFQ)などが用いられてきたが、RFQは手法の性質上、捕捉時間にデッドタイムがあるため反応初期に現れる反応中間体の捕捉が不可能であった。そこで、反応始状態から終状態まで追える反応中間体捕捉法の開発が切望されている。そこで本研究では新しい反応中間体捕捉法として光解離性基質を用いた新しい反応中間体捕捉法の開発を行った。

実験 / Experimental

光解離性基質は光照射することで基質が解離し、活性型になる。そこでまず酵素と光解離性基質を混合し、液体窒素(77K)下で凍結する。この試料に光照射することで基質が解離し活性型になるが、77K下では酵素は動くことが出来ないので、反応始状態を作成することができる。この試料の温度を段階的に上げる(アニーリング)することで、反応がゆっくりと開始し、反応始状態から終状態まで酵素反応を追跡できる。この仮説を検証するため、本研究では光解離性ATPおよびATPを基質のひとつとするグルコキナーゼ(GK)を測定対象とした。GKはグルコース、ATPからグルコース6リン酸、ADPを産出する化学反応を触媒する。これまでX線結晶構造解析法によりGKはラージドメイン、スモールドメインとこれらをつなぐヒンジ領域からなっており、基質非結合型では両ドメインが開いたOPEN型構造であり、基質が結合すると閉じたCLOSED型構造になることが知られている。そこでラージ、スモール両ドメインにスピンラベル試薬を付加し、光解離性ATPと混合凍結した試料に光照射後、アニーリングによりOPEN→CLOSEDの構造変化を分子科学研究所のESR装置を利用し、DEER法により観測した。

結果と考察 / Results and Discussion

光解離性ATPはこれまで室温でしか用いられていないため、まず77Kでの光照射で光解離するか確認実験を行った。その結果、30分以上の光照射によってATPが完全に光解離することが明らかになった。次に基質非結合型、およびATP結合型のラベル間距離測定をDEER法によって行った。この結果により溶液中でのOPEN構造、CLOSED構造の距離測定は結晶構造から予測された距離とほとんど変わらないことが明らかになり、DEER法によって基質結合に伴う構造変化を検出できることが分かった。そこでGKおよび光解離性ATPを混合凍結し、30分間光解離させた試料のDEER測定を行ったところ、GKはOPEN構造を取っていることが分かった。この試料についてアニーリング(~240K)をしたところ、CLOSED構造へ構造変化している可能性を示唆するデータが得られたが、S/N比が悪いスペクトルしか得られなかった。光照射した試料はフリーラジカルも増えており、これによりDEER測定が難しくなったためだと考えられた。今後はより最適条件よりDEER法を行い、光解離性基質が酵素の反応中間体捕捉法として有力な手段であることを示す。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

SESTポスター賞、矢垰紅音、浅香里緒、渡邉啓一、堀谷正樹、鹿児島大学連合大学院、佐賀大学農学部、スピンラベルESR法により低温適応酵素の構造柔軟性の温度依存性を測定し、低温適応機構・安定性機構を解き明かした。(国内)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Kazuo Kobayashi, Intramolecular electron transfer from biopterin to FeII-O2 complex in nitric oxide synthases occurs at very different rates between bacterial and mammalian enzymes: Direct observation of a catalytically active intermediate, Journal of Inorganic Biochemistry, 238, 112035(2023).
    DOI: 10.1016/j.jinorgbio.2022.112035
  2. Hanae Takeda, Trapping of a Mononitrosyl Nonheme Intermediate of Nitric Oxide Reductase by Cryo-Photolysis of Caged Nitric Oxide, The Journal of Physical Chemistry B, 127, 846-854(2023).
    DOI: 10.1021/acs.jpcb.2c05852
  3. Masato Ishizaka, Quick and Spontaneous Transformation between [3Fe–4S] and [4Fe–4S] Iron–Sulfur Clusters in the tRNA-Thiolation Enzyme TtuA, International Journal of Molecular Sciences, 24, 833(2023).
    DOI: 10.3390/ijms24010833
  4. Tatsuya Yamashita, Heme protein identified from scaly-foot gastropod can synthesize pyrite (FeS2) nanoparticles, Acta Biomaterialia, 162, 110-119(2023).
    DOI: 10.1016/j.actbio.2023.03.005
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 1.堀谷 正樹、"生命金属動態の解明に向けた光照射EPR技術による新しい酵素反応機構法の開発" 令和4年度 新学術領域「生命金属科学」第一回領域会議、2022年5月
  2. 2.嘉数 百合、堀谷 正樹、"電子スピン共鳴法で”観る”金属酵素活性部位の温度による微細構造変化" 第25回ESRフォーラム研究会(2022)、2022年7月
  3. 3.矢垰 紅音、浅香 里緒、渡邉 啓一、堀谷 正樹、"スピンラベル-ESR法を利用した酵素の構造柔軟性の実測" 第25回ESRフォーラム研究会(2022)、2022年7月
  4. 4.堀谷 正樹、"先端ESR法と生命科学研究への潮流"、令和4年度生命金属科学夏の合宿、2022年9月
  5. 5.堀谷 正樹、"南極海由来金属酵素の酵素反応・低温適応機構" 日本農芸化学会2022年度西日本支部大会、2022年9月
  6. 6.藤井 和輝、奥村 英夫、馬場 清喜、杉本 宏、堀谷 正樹、"先端X線回折法によるグルコキナーゼの動的構造-機能相関の解明" 日本農芸化学会2022年度西日本支部大会、2022年9月
  7. 7.辻 さやか、大貝 茂希、福田 雅一、屋 宏典、杉本 宏、堀谷 正樹、"反応中間体捕捉から解き明かすミモシン合成酵素の2機能性獲得機構" 日本農芸化学会2022年度西日本支部大会、2022年9月
  8. 8.Masaki Horitani、"EPR Spectroscopy Reveals Active Site Rearrangements of Di-Mn Center in Inorganic Pyrophosphatase" 錯体化学会第72回討論会、2022年9月
  9. 9.Masaki Horitani、"EPR Spectroscopy and X-ray Crystallography Revealed Rearrangements of Di-Mn Active Site by Substrate Binding in Inorganic Pyrophosphatase" 10th Asian Biological Inorganic Chemistry Conference、Nov. 2022
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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