利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.05.25】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23NM0113

利用課題名 / Title

PMW-PST電気熱量効果材料の結晶構造解析

利用した実施機関 / Support Institute

物質・材料研究機構 / NIMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

固体冷媒, 電気熱量効果


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

廣瀬 左京

所属名 / Affiliation

株式会社村田製作所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

廣戸 孝信

利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NM-204:多目的X線回折装置_Cu_SSL


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

近年、HFC等の冷媒(温室効果ガス)を使用しない高効率冷却技術として固体熱量 効果が注目されている[1]。我々は固体熱量効果の中でも強誘電体に見られる電気熱量効果に着目し、材料、素子そしてシステムの研究開発を行っており、これまでに 強誘電体であるPbSc0.5Ta0.5O3 (PST)において5.5 Kにも達する巨大な熱量効果を実現し報告してきた[2]。また昨年度は反強誘電体であるPbMg0.5W0.5O3 (PMW)[3]に着目 し、PMWにおいても強電界を印加することでPSTと同等の熱量効果を示すことを報告し[4]、現在はPSTとPMWの固溶体の(反)強誘電、電気熱量効果の研究を行っている。これまでの研究の結果、反強誘電体であるPMWに強誘電体であるPSTを加えていくと、徐々にネール温度TNが低下し、0.2PST-0.8PMW組成近傍で反強誘電体から強誘電体へと転移することが明らかになっている。PST-PMW固溶体の構造と電気特性の関係をより理解するために、本研究では0.2PST0.8PMW固溶体の結晶構造について研究を行った。

実験 / Experimental

0.2PST-0.8PMWの組成になるように高純度Pb3O4、Sc2O3、Ta2O5、MgWO4を秤量した後、部分安定化ジルコニアボール(PSZ)を用いて粉砕混合を行った。 その後、乾燥、整粒した後に850℃で仮焼し、シート成形用の原料とした。仮焼粉 と有機溶剤、バインダーを混合し、シート成形用のスラリーを作成し、ドクターブ レード法によりグリーンシートを作成した。グリーンシートを約0.6mmの厚みにな るように積層、圧着し、12x12mm角にカットしてグリーン単板を作成した。その後、500℃の温度で脱バインダー処理を行い、Pb雰囲気で1050℃で4時 間焼成してXRD測定用試料とした。測定は物質・材料研究機構が保有するHyPix-3000検出器とTTK600温度可変チャンバーが備え付けられたSmartLab(45kV, 200 mA, CuKα)で行った。

結果と考察 / Results and Discussion

図1にPMWとPSTの固溶体の誘電率の温度依存性を示す。固溶体組成に強く依存し、誘電率のピーク温度、誘電率のプロファイルが変化していることが分かる。特にx=0.2と0.4のところで誘電率のプロファイルが大きく変化し、x=0.4の固溶体組成(0.4PST-0.6PMW)ではリラクサー強誘電体、x=0.2の固溶体組成(0.2PST-0.8PMW)は反強誘電体に特徴的なダブルヒステリシスループを示すことから反強誘電体であると考えられる。しかし、PMWと比較して強誘電相に転移する閾値電圧が低下していることから、反強誘電相と強誘電相がエネルギー的に拮抗しており、低温で強誘電相へ相転移する可能性があるため広範囲の温度でXRD測定を行った。図2に100 K( -173 ℃)から300 K(27 ℃)の範囲で測定したXRDプロファイルを示す。図1に示した誘電率の温度特性では、240 K付近でピークが確認でき、240K付近で反強誘電相から常誘電相への相転移が起きていると考えられる。若干の温度ずれはあるが、電気分極測定からも240 K付近で構造相転移が起きていることがわかっている。一方、図2に示すXRDプロファイルに着目すると、222 Kより低温で測定したXRDプロファイルでは約35.2°に小さな回折ピークが確認でき、約31.3°のメインの回折ピークのプロファイルもシングルピークではなく少なくとも2つのピークが確認できる。232 K以上では、メインピークもシングルピークとなり、約35.2°付近の回折も完全に消滅し、この温度付近で結晶構造相転移が起きていることが分かる。232 K以上のXRDプロファイルはPMWの高温相(常誘電相)と同じ結晶構造、222 K以下ではPMWの低温相(反強誘電相)と同じ結晶構造で指数付けできることを確認した。つまりXRD結果からは反強誘電相から常誘電相への構造相転移は230 K前後で起きており、若干のずれはあるものの誘電率、電気分極測定と一致する結果となった。200 K以下で測定したXRDプロファイルに着目すると、回折ピークがシャープになっているものの、結晶構造変化を示唆するプロファイルの変化は確認できず、測定した温度範囲内では強誘電相は存在しないことがわかった。ここでは示さないが、約150 Kで行った電気分極測定では、残留分極が生じ強誘電相ライクな電気分極特性が得られた。しかし、本結果からは少なくとも無電場では強誘電相は存在せず、電気分極測定で見られた残留分極は電場により誘起された強誘電相が何らかの理由で安定化されたものと推察される。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 xPST-(1-x)PMW-の誘電率の温度依存性(1 kHz)



図2 XRDプロファイルの温度依存性(昇温)


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

[1] S. Crossley, N. D. Mathur and X. Moya, AIP Adv. 5 067153 (2015). [2] B. Nair, T. Usui, S. Crossley, S. Kurdi, G. G. Guzmán-Verri, X. Moya, S. Hirose and N. D. Mathur, Nature 575 468 (2019). [3] J. Li, H. Wu, J. Li, X. Su, R. Yin, S. Qin, D. Guo, Y. Su, L. Qiao, T. Lookman and Y. Bai, Adv. Funct. Mater. 31(33) 2101176 (2021).[4]S. Hirose, T. Usui, T. Hiroto, B. Nair, X. Moya, and ND. Mathur, J. Phys. Energy 5 035009 (2023).  


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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