利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.10.04】【最終更新日:2024.10.04】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23NM0098

利用課題名 / Title

複数の方法で合成したC-A-S-HゲルのNMRによる構造解析

利用した実施機関 / Support Institute

物質・材料研究機構 / NIMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

核磁気共鳴/ Nuclear magnetic resonance,未利用資源の有効利用技術/ Technologies for effective utilization of unused resources


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

花町 優次

所属名 / Affiliation

日本原子力研究開発機構

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

Colin Walker,安楽 総太郎,笹本 広

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

大木 忍

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NM-102:500MHz固体高分解能NMRシステム
NM-103:800MHzナローボア固体高分解能NMRシステム


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 日本の放射性廃棄物地層処分では、産業副産物であるフライアッシュとシリカフュームを高含有する低アルカリ性セメント(High-volume Fly ash Silica fume Cement, HFSC)の使用が検討されており、我々はHFSCの主成分であるカルシウムアルミニウムシリケート水和物(C-A-S-H)ゲルを合成し、それらの化学的安定性についての研究を行っている。また、より基礎的な情報を得るため、普通ポルトランドセメントの成分であるカルシウムシリケート水和物(C-S-H)ゲルの結晶化鉱物の安定性も研究対象としている。この研究において信頼性の高いデータを得るためには、なるべく高収率の方法で目的物質の合成を行い、その元素組成や構造を正確に知る必要がある。
 C-A-S-Hゲルについては、先行課題(課題番号JPMXP1222NM0075)で、クリンカー鉱物を水に28日間または6カ月間浸漬させる方法(以下クリンカー法とする)で合成したサンプルを対象に27Al及び29Si NMRスペクトルを取得し、Al及びSiの分配状態を同定したが、それらの浸漬期間ではC-A-S-Hゲル以外の副鉱物の生成が多く、所期のAl/Siモル比を有するC-A-S-Hゲルの合成には至らないことが明らかとなった1)。C-A-S-Hゲルの収率を高くするためには、浸漬期間をさらに長くするほか、別の合成方法も検討する必要がある。本分析では、浸漬期間を1.5年まで延長したクリンカー法、及び、カトアイト飽和溶液を用いる代替法1)(以下カトアイト飽和溶液法とする)で合成したサンプルについて、27Alおよび29Si NMRスペクトルを取得し、それらサンプル中の実際のC-A-S-Hゲル組成を決定した。
 C-S-Hゲルの結晶化鉱物については、先行研究で、11Å及び14Åトバモライトが、酸化カルシウム及び二酸化ケイ素を高温状態(120℃及び60℃)で水に浸漬させることで合成できることがX 線回折によって確認されている2)3)。本分析ではさらに、それらの合成トバモライトのポリマー構造を確認するために29Si NMRスペクトルを取得した。

実験 / Experimental

クリンカー法及びカトアイト飽和溶液法で合成されたC-A-S-Hゲルサンプルの、27Al及び29Si NMRスペクトルを取得した。クリンカー法では、アルミン酸三カルシウム、ケイ酸三カルシウム、シリカフューム混合物をイオン交換水に1.5年間浸漬した。目標Al/Siモル比は0.1、目標Ca/Siモル比は0.4、0.67、0.83、1.5、2.0とした。カトアイト飽和溶液法では、酸化カルシウムおよび二酸化ケイ素をカトアイト飽和溶液に3週間浸漬した1)。カトアイト飽和水溶液はアルミン酸三カルシウムとイオン交換水を液固比1000で10日間浸漬させて作成した。この方法では目標Al/Siモル比は0.1、目標Ca/Siモル比は0.83、1.0、1.2、1.5、2.0とした。
 トバモライトについては11Åと14Åの2種を対象とし、29Si NMRスペクトルを取得した。11Åトバモライトは酸化カルシウムおよび二酸化ケイ素を120℃で28日間イオン交換水に浸漬させて合成した2)。14Åトバモライトは同様の材料で60℃で77日浸漬させて合成した3)
 分析機器及び分析条件は表のとおりとした。

結果と考察 / Results and Discussion

C-A-S-Hゲルサンプルでは、Alについては4、5及び6配位のピーク、SiO4四面体については結合状態Q4、Q3、Q2及びQ1のピークが認められた。クリンカー法サンプルではC-A-S-Hゲル、カトアイト、ストラトリンガイト、アルミニウムシリケート水和物(A-S-H)ゲル、third aluminate hydrate (TAH)及びaluminum hydroxide (AH)が存在すると同定された(図1)。先行課題で分析した浸漬期間6カ月の合成サンプルと比較すると、A-S-Hゲル/TAH/AHが減少し、カトアイト、ストラトリンガイトの量が増加していた。C-A-S-Hゲルに取り込まれたAlの量は浸漬期間6カ月の場合とあまり変わらなかった。カトアイト飽和溶液法で合成したサンプルはそれに比べると、カトアイトの代わりにAFm(aluminate-ferrite-monosubstituted)相が生じる、Ca/Si<1.0でストラトリンガイトが少ない、C-A-S-HゲルのAl含有量が多く、結晶化が進む、という違いがあった。カトアイト飽和溶液法の方がC-A-S-HゲルのAl含有量が多かったため、所期のAl/Siモル比に近いC-A-S-Hゲルが得られることが示された。
 トバモライトサンプルの29Si NMRスペクトルについてはどちらもQ2のピークが大きく、Si鎖が長いこと、従って副鉱物が少ない事を示している(図2)。11ÅトバモライトではQ3のピークも明瞭であり、これも既知の知見と一致した。
 今回の分析により、合成サンプルに含まれるC-A-S-Hゲル、トバモライトの元素組成、構造についての詳細な情報が得られた。この基礎的なデータは、これらの物質が示す非調和溶解(元素組成が変化しながら進行する溶解)挙動を説明する地球化学モデルの開発に利用される予定である。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


表 分析機器及び分析条件



図1 クリンカー法(1.5年)で合成したC-A-S-Hゲルサンプルの 27Al NMRスペクトル



図2 合成トバモライトの 29Si NMRスペクトル


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

本課題は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)地層処分安全評価確証技術開発(ニアフィールド長期環境変遷評価技術開発)」の一部として行われました。また本課題は、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ」事業(課題番号JPMXP1223NM0098)の支援を受けて実施されました。物質・材料研究機構の大木忍氏、出口健三氏、端健二郎氏のNMR分析支援には深く感謝いたします。
参考文献
1) 原子力環境整備促進・資金管理センター, 日本原子力研究開発機構,4.2.2(3)C-A-S-H の合成・浸漬試験 令和4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業 TRU廃棄物処理・処分技術高度化開発, 2023, pp.4-77 - 4-81
2) 原子力環境整備促進・資金管理センター, 日本原子力研究開発機構,4.2.2(2)C-S-H の熱力学モデルの信頼性の向上 令和3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業 TRU廃棄物処理・処分技術高度化開発, 2022, pp.4-45 - 4-50
3) 原子力環境整備促進・資金管理センター, 日本原子力研究開発機構,4.2.2(2)C-S-H の熱力学モデルの信頼性の向上 令和2年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業 TRU廃棄物処理・処分技術高度化開発, 2021, pp.4-57 - 4-78


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 日本原子力研究開発機構, 原子力環境整備促進・資金管理センター, 電力中央研究所,令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業 地層処分安全評価確証技術開発(ニアフィールド長期環境変遷評価技術開発) 報告書, 2024.3
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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