【公開日:2025.02.10】【最終更新日:2025.02.10】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22MS0017
利用課題名 / Title
パルスESRを用いたスピン間距離測定による輸送膜タンパク質の構造解析
利用した実施機関 / Support Institute
自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials
キーワード / Keywords
DEER, ABCトランスポーター, スピンラベル,核磁気共鳴/Nuclear magnetic resonance
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
木村 哲就
所属名 / Affiliation
神戸大学大学院 理学研究科化学専攻
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
仲 絢香
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
中村 敏和,浅田 瑞枝
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
X線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡構造解析により、膜タンパク質の立体構造解析が進められているが、構造変化を伴って機能発現を行う膜輸送タンパク質の本質的な理解には、反応軸に沿った種々の状態での構造決定と輸送反応そのものを可視化する必要がある。しかし、膜輸送タンパク質の輸送反応において、輸送基質そのものが化学的変化を起こすことはなく、反応軸のどのタイミングで輸送が起こっているのかは未解明であった。そこで、申請者らは紫外・可視光領域に吸収をもち、結合状態によって吸収スペクトルを変化するヘムを輸送基質とするABCトランスポーターを用いることで、初めて輸送ダイナミクスの可視化に成功している。一方で、膜輸送のどのタイミングで、どのような構造変化が膜タンパク質に起こるのかという構造情報については未知のままである。
そこで、本申請研究において二重パルス標識したABCトランスポーターに対してパルスESRを用いたDouble Electron-Electron Resonance測定を行い、スピン間距離を計測することで、反応軸に沿った構造変化を捉え、構造-機能相関を詳細に検討し、ABCトランスポーターの分子機構を解明することが可能になることを期待した。
実験 / Experimental
ABCトランスポーターにおいて、輸送基質のチャネルを形成する膜貫通ドメイン(TMD)の構造変化は、 細胞質側に存在する核酸結合ドメイン(NBD)へのATPの結合あるいは加水分解反応に連動する形で起こるというモデルが立体構造解析から提案されている。そこで、細胞質側とペリプラズム側それぞれに二重スピンラベルを化学修飾によって導入したABCトランスポーター変異体を調製し、そのスピン間距離を算出することでTMDの構造変化を詳細に検討することが可能になる。このスピン間距離算出はDEER(electron-electron double resonece)法と呼ばれる遠隔スピン間の双極子相互作用を見出すパルスESR測定によって可能になる。 申請者らは細胞質側に存在するL177やR163、あるいはペリプラズム側に存在するV197やA201にシステイン残基を変異導入し、MTSL (1-Oxyl-2,2,5,5-tetramethylpyrroline-3-methyl methanethiosulfonate) によって化学修飾に成功している。令和4年度にはこのスピンラベル試料のうち、L177を用いて、1. 核酸非存在下、2. 非加水分解型 ATP類似物質であるAMP-PNPを用いたATP結合状態、3. 加水分解反応の遷移状態を模倣できるADP-バナジウム塩酸塩結合状態、4. ATP加水分解定常状態など、反応軸に沿った種々の条件下での測定を試みた。 また、神戸大学研究基盤センターのESR装置を用いて、上記の4サンプル、4条件に関してのCW-ESRスペクトル測定を完了させ、核酸の結合状態に伴ってスピンの運動性やスピンが位置する環境の極性が変化することを見出している。この極性の変化が、タンパク質の大きなコンフォメーション変化によるものなのか、それとも微細な環境の変化によるものなのかを明らかにするためにも、DEER法によるパルスESR測定による、上記の1~4の条件下でのスピン間距離の算出が必要であり、その距離情報から得られる反応軸にそった構造変化をとらえる。本申請研究ではその上で、吸収測定から明らかにした基質の輸送との相関をとることで、分子機構を詳細に検討できる。
結果と考察 / Results and Discussion
令和4年度においては、L177-MTSLに対して、上記の核酸結合条件1と2に関しての測定を行い、試料及び測定条件の検討を行った。その結果、スピン濃度 100 mM (タンパク質濃度 50 mM) で、100 mL 程度のサンプル量があれば、積算時間約3時間程度でのDEER測定が可能であることを見出した。また、L177の位置に関しては、核酸の結合の有無に関わらず、X線結晶構造解析から推測される40Åの距離と良い一致を示す、37Åにピークを持つ単分散性の距離分布を示すことが緩和の解析から示唆された。したがって、L177が存在するペリプラズム側の構造はATPの結合によって構造変化しないことが明らかとなった。今後は、試料調製をすすめ、L177に関しては他の核酸条件、また他のラベル部位試料に関しては1-4全ての条件の測定を行い、反応軸にそった構造変化をとらえる予定である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 仲絢香, 小堀康博, 鍔木基成, 城宜嗣, 杉本宏, 木村哲就, “二重スピンラベルESR分光法を用いたABCトランスポーターBhuUV-TのATP結合状態の解析” 日本蛋白質科学会年会, 令和4年6月7日.
- 木村哲就, “ヘムABCトランスポーター; BhuUV-Tの膜輸送に関するキネティクス解析” 日本蛋白質科学会年会, 令和4年6月7日. [招待講演]
- Tetsunari Kimura, “Development and application of complementary spectroscopic methods for dynamic structural biology” IPR seminar (蛋白研セミナー), 令和4年10月17日. [招待講演]
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件