利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.07.23】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23YG0050

利用課題名 / Title

LLDPEの側鎖長が耐高速衝撃性に与える影響 X線回折による構造変化と破断挙動の考察

利用した実施機関 / Support Institute

山形大学 / Yamagata Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

プラスチック類/ Plastics,成形/ Molding,高強度・生分解性プラスチック/ High-strength, biodegradable plastic,X線回折/ X-ray diffraction,高強度・生分解性プラスチック/ High-strength, biodegradable plastic


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

岡部 拓未

所属名 / Affiliation

山形大学工学部高分子・有機材料工学科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

YG-601:全自動多目的X線回折装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

エチレンとα-オレフィンの共重体である直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)は代表的なエチレン系ポリマーの一種であり、主に包装用フィルムとして多くの製品に用いられてきた。エチレン系ポリマーには分岐をほとんど持たない高密度ポリエチレン(HDPE)や長鎖分岐(LCB)と短鎖分岐(SCB)を持つ低密度ポリエチレン(LDPE)が他に存在しており、LLDPEは共重合に用いるα-オレフィンのみをSCBとして持ち、α-オレフィンの長さやモノマー比を変更することによってSCBの長さや量を制御することができるといった特徴を持っている。LLDPEは包装用フィルムとしての実用上重要となる耐衝撃性や耐引裂性などの各種物性についてどのような要因が影響を与えているかについては古くから注目されており様々な研究がなされてきた。その中で行われた引裂試験や落錘試験などからSCBとしてエチル分岐を持つLLDPEとブチルより長い分岐を持つLLDPEとでは後者の方が耐衝撃性や耐引裂性が向上することが確認されている。細田ら(1)(2)はこの物性向上についてTEMによる構造観察を行いラメラ厚み分布とタイ分子から説明づけている。彼らは短いSCBをもつLLDPEは長いSCBをもつそれと比較してラメラ厚み分布が広いことを確認した。細田らは、これは短いSCBがラメラ内に入り込むことでラメラを押し広げており、それによってラメラの厚みにばらつきが出ていると考えた。そして、この分布のばらつきによりラメラ間に存在するタイ分子の応力の受け取り方に差があらわれ、応力を担うタイ分子の数が少なくなるため、衝撃強度は側鎖長の長いLLDPEの方が向上しているのだと説明した。側鎖長が与の耐衝撃性に及ぼす影響を調べたものとして当研究室で行われた引張試験による研究がある(3)。Ziegler-Natta触媒を用い1-buteneを共重合したLLDPE-C4とmetallocene触媒を用い1-hexeneを共重合したLLDPE-C6について0.044 s-1、0.26 s-1、158 s-1の3つのひずみ速度での引張試験を行ったものである。ひずみ速度0.044 s-1においてC4は降伏を示したのちソフトニングを生じネッキングを経てひずみ硬化を示し破断する。それに対してC6は破断までに減る過程としてはC4と共通しているが、ネッキング部分からすでに立ち上がりが生じている点や、ひずみ硬化部分での立ち上がりがより顕著である点などで差が表れていた。これは強度、ひずみに差はあれど0.26 s-1でも共通していた。しかし図1に示すように158 s-1ではC4がひずみ硬化による立ち上がりを示さずそのまま破断する挙動を見せた。この挙動差の原因について前述したような応力を担うタイ分子の数に差で説明することは難しいと考察していた。なぜなら、こちらの研究で現れた挙動の差は塑性領域、それもひずみ硬化領域での差であり、この段階ではすでにLLDPEのラメラ構造はミクロフィブリルへの崩壊がすでに始まっているものと考えられる。そして、この領域ではタイ分子はすでに応力を担える状態にはなく図のような大きな挙動や物性の変化を引き起こすほどの影響力を持っているとは考えにくいためである。そこで当研究室では小角X線散乱(SAXS)を用いて変形時の構造変化を比較することとした。その結果より同程度の結晶化度でC4では長周期がC6より大きくなっていることが確認されており前述したラメラ厚の測定結果と一致した。この結果から側鎖の差により側鎖がラメラ内に取り込まれるか排斥されるかが変化することでラメラ内の鎖の引き抜けやすさが変化しこれによって158 s-1でのひずみ硬化挙動の有無につながっている可能性があると考えた。また、USAXSの結果からC6は巨大領域にボイドが存在することが明らかとなっておりこれはC6は引き抜けにくいことにより破断後もその結合が一部残っておりそれらがボイドを分割し成長を阻害することでC4では見えない領域にボイドが存在している可能性があると考察していた。これらの考察は非常に興味深い一方で根拠という面ではいまだ不十分であり特に入り込みによって引き抜けやすさが上昇しているなら格子内にも側鎖が入り込み単位格子の広がりが起きているはずであるが、変形前後での結晶構造の変化についての検討はこれまで十分ではなかった。そのため広角X線回折によって結晶構造を調べることを思い立った。

実験 / Experimental

コモノマーにC4,C6いずれかを用いたLLDPEについて無延伸、低速、高速破断後のそれぞれについて、全自動多目的X線回折装置 (装置ID:YG-001)を用いて広角X線回折を行った。検出器距離は59.6mm、X線照射時間は2時間であった。

結果と考察 / Results and Discussion

図2に LLDPE-C4,C6の引張前後のWAXD二次元画像を示す。この二次元画像から1次元化グラフを作成しそれをピーク分離して格子定数と結晶化度、結晶子サイズを得た。算出された結晶化度はC4、C6どちらも引張試験の過程で5%未満の変化にとどまっておりピーク分離から求められる結晶化度の精度を考えると有意な差とは言い難い。よって結晶化度変化についての考察は難しいといえる。また、引張前後での格子定数を比較すると、格子定数bはC4、C6によらずほとんど変化がない。それに対し格子定数aでは、C4が無延伸から低速、高速への変化に伴って格子定数の増大が起きており特に低速で大きく増大している。C6でも低速では同様の増大がみられその増大量はC4よりも大きいが、反面高速では増大が起きていない。これらの変化について、引張試験に伴う格子定数の増大は引張の過程で側鎖が格子への入り込みを起こし単位格子を押し広げているためであると考えられ、低速が高速に対し増大量が大きいのは高速ではその速さゆえに格子への入り込みが完遂される前に破断が起きているのに対し低速では鎖が十分に配向し側鎖が入り込むため増大が起きていると考えられる。低速でC6の方が格子定数の広がりが大きいのは側鎖の嵩高さゆえに十分に入り込んだ時の影響もまた大きいためであると考えられる。C4が高速でわずかに広がっているのは高速でもC4はわずかに側鎖が取り込まれていることを示唆していると考えられる。結晶子サイズの観点からは引張によって低速、高速いずれでも結晶子サイズが減少していることが確認できる。また、C6において低速が最もサイズが小さかったが、C4では高速の方が僅かにサイズが小さい。無延伸時ではLLDPEの結晶部はラメラ構造をとるとされ引張後ではかかる応力によってラメラが崩れ配向することで配向結晶化によってフィブリル構造をとるとされている。この構造変化によって結晶子サイズも変化していると考えられ、低速、高速でのサイズの差は束ねられたフィブリルの数が異なっていることを示唆していると考えられる。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 LLDPE-C4,C6の応力-ひずみ曲線 158 s-1



図2  LLDPE-C4,C6の引張前後のWAXD二次元画像


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

1)S. Hosoda, A. Uemura, Polym. J., 24, 939 (1992). 2)S.Hosoda, Y.Nozue, Koubunshironbunshu, 71, 483(2014)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 山形大学工学部高分子有機材料工学科 卒業研究発表会 R6.2.14.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

印刷する
PAGE TOP
スマートフォン用ページで見る