利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.08】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22MS0003

利用課題名 / Title

高移動度有機半導体の完全なバンド構造決定

利用した実施機関 / Support Institute

自然科学研究機構 分子科学研究所 / IMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)次世代ナノスケールマテリアル/Next-generation nanoscale materials

キーワード / Keywords

有機半導体、バンド構造


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

吉田 弘幸

所属名 / Affiliation

千葉大学大学院工学研究院

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

解良 聡

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

MS-212:機能性材料バンド構造顕微分析システム


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

有機半導体の性能の向上には,有機半導体材料の電気伝導機構の解明が必要不可欠である。その電荷の伝導に密接に関わるパラメータである移動度やエネルギーバンド構造についての情報は重要である。ルブレン単結晶は,有機半導体で最も高いホール移動度を示す代表的な有機半導体材料である。ルブレンのホール移動度は低温で6分の1に減少する[1]。X線結晶構造解析やこれに基づくバンド計算からは,移動度が低下する明確な情報が得られず[2],その起源についてはいまだ解明されていない。エネルギーバンド構造を実測すれば,移動度についての直接的な情報を得られるはずである。
これまでルブレン単結晶については角度分解紫外光電子分光(ARUPS)によりHOMOバンド構造が観測されてきた。しかし,低温では単結晶試料が1 μm以上と厚いため帯電の影響により困難であった。ルブレンの蒸着膜は非晶化するためバンド測定ができない。本研究では,アモルファス有機薄膜上にルブレンを成膜してから加熱することで20 nm程度の薄い結晶性薄膜を作製する方法が提案されている[3]。本研究では,この方法で作製した結晶性薄膜について、角度分解紫外光電子分光法(ARUPS)を用いてHOMOバンド構造の温度依存測定をおこなった。

実験 / Experimental

プリンストン大学のRand教授から提供を受けた。ルブレン試料の作製は,まずITO基板上にTPTPAを5 nm,その上にルブレンを23 nm室温で真空蒸着した。これを窒素雰囲気下151℃で7分間加熱して結晶化させた。これを千葉大学に送り偏光顕微鏡による結晶子の確認とLEED測定をおこなった。ARUPSは分子科学研究所のDA30で測定した。光源には,HeⅡ光源(40.8 eV)を使用し,試料温度は320K,300K,270K,200K,150K,100K,75K,20Kで測定した。

結果と考察 / Results and Discussion

作製したルブレン薄膜の偏光顕微鏡から、斜方晶の結晶性ルブレン薄膜が作製できていることを確認した。また,結晶子サイズは大きいもので500 μm程度であった。LEED回折像からは、円形に並ぶ独立したスポットが観測された。これは,結晶子サイズがLEEDの電子線スポット径(1 mm)に匹敵し,測定領域内に数個の結晶子のみが含まれるためである。
ARUPSでは空間分解能が約200 µmであり,結晶子のドメインサイズに匹敵する大きさであるため,結晶の単一ドメインのようなバンド構造を観測できた。温度依存測定から得られたバンド構造を2次微分を用いて詳細に検討したところ、温度に依存してバンド形状が変化していることがわかった。320K~150K付近までは約0.3 eVのバンド幅であり,温度の低下とともに徐々にバンド幅は広がる。しかし,150K~20Kでは温度低下にともないバンド幅が半分以下に減少した。ルブレンでは、低温で移動度が急激に低下することが知られている。本研究のバンド幅の減少は,移動度の低温での低下の直接的な証拠である。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

・参考文献.
[1] V. Podzorov et al., Phys. Rev. Lett. 93, 086602 (2004).
[2] A. V. D. Lee et al., J. Phys. Chem. Lett. 2022, 411 (2022).
 [3] M. A. Fusella et al., Chem. Mater. 29, 6666 (2017).


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 鈴木哲成、千葉大学大学院融合理工学府修士論文(2022年)
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

印刷する
PAGE TOP
スマートフォン用ページで見る