利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.08.03】【最終更新日:2023.05.18】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22NR0034

利用課題名 / Title

次世代高速通信に向けた先端半導体パッケージ用高機能液状封止材料の開発

利用した実施機関 / Support Institute

奈良先端科学技術大学院大学 / NAIST

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

エポキシ樹脂,ポリイミド,密着性,VUV処理,X線光電子分光(XPS(硬X線を含む))/ X-ray photoelectron spectroscopy,異種材料接着・接合技術,3D積層技術


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

齊藤 丈靖

所属名 / Affiliation

大阪公立大学大学院工学研究科 物質化学生命系専攻化学工学分野

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

石原綾子技術職員

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NR-401:多機能走査型X線光電子分光分析装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 近年、AIやIoTなどの発展による電子機器の高性能化から、電子部品の小型・高機能化が求められている。iPhone7への導入で注目されたFOWLP (Fan Out Wafer Level Package)技術は、絶縁材料(ポリイミド樹脂)と銅配線からなる再配線層(RDL)の採用により、非常に薄く、高密度化できる長所がある。しかし、FOWLP内部のRDL周辺は微細な異種材料界面(金属/樹脂、樹脂/樹脂等)を多数有し、異種材料間の物性差(熱膨張率など)に起因する層間剥離の問題がある。
 材料間の密着性を改善する方法として、クロム酸や過マンガン酸等の酸化剤を用いて材料表面を粗化させてアンカー効果を発現させる湿式処理が知られている。しかし、環境や人体へ与える薬剤の影響が問題となり、世界的な規制(RoHS指令、REACH規制等)が進んでいる。プラズマ処理も知られているが、材料表面で電荷蓄積に起因する不良が発生する難点がある。波長172 nmの真空紫外光(VUV: Vacuum Ultra-Violet)による処理は気相で高活性酸素種が生成し、表面反応するだけで無く、高分子表面の結合を切断することもできる。VUV処理では環境負荷が大きい薬剤が不要であり、電荷の蓄積も生じない。VUV処理を樹脂/金属間に適用した報告はあるが、樹脂/樹脂間に適用した研究例は非常に少なく、そのメカニズムは不明な点が多い。
 本研究では、FOWLP内部のエポキシ樹脂(封止樹脂)/ポリイミド樹脂(RDL)界面の密着性改善に注目して、VUVを用いたエポキシ樹脂の表面改質による物性変化と密着性改善メカニズムを考察し、FOWLPに代表される小型・高密度半導体パッケージの信頼性向上を目的とする。

実験 / Experimental

 エポキシ樹脂組成を表1に示す。表1で示した割合で混合し、100℃、2 hで加熱後、更に150℃、3 h加熱し硬化させた。
エポキシ樹脂基板に大気下でVUV(波長λ=172 nm)を照射することで表面改質を行った。照射距離は d=1.45 mmにした。VUV露光装置にはXe2*エキシマランプ(ランプ直下出力:14.4 mW/cm2)を用いた。VUVは大気に吸収され、d=1.45 mmにおいて照射強度は63.3 %(9.1 mW/ cm2)まで減衰すると見積もられる。
X線光電子分光法(XPS)で化学結合を評価した。トリフルオロ酢酸を用いて、樹脂表面のC-OH構造をC-OCO-CF3に化学修飾した後にXPS測定を行った。得られたF1sピーク強度[F1s]とC1sピーク強度[C1s]から(1)式を用いて、照射時間t [min]での樹脂表面C-OH濃度RC-OH (t)を算出し、t = 0 minとの比RC-OH(t)/RC-OH (0)を求めた。ここで、r は置換反応の反応率である。 RC-OH (t)=[F1s]/(3[C1s]-2[F1s] )×r×(100%)  (1)

結果と考察 / Results and Discussion

VUV照射有無の各樹脂からのC1sスペクトルをC-C、C-H(284.5 eV)、C-O(286.2 eV)、C(=O)-O(288.4 eV)に由来する成分でピーク分離した結果を図1に示す。図1の各ピークに相当する面積を算出し、284.5 eVに由来するピーク面積に対するC-O(286.2 eV)、C(=O)-O(288.4 eV)ぞれぞれのピーク面積比[%]を図2に示す。エポキシ樹脂の種類によらず照射時間60 minでC-O 、C(=O)-Oのピーク面積比が大きくなった。これは照射によって樹脂表面が酸化され、C-O-CやC-OH等、COO(エステル)やCOOH等が形成されたことを示す。 次に化学修飾XPSから得た表面C-OH濃度比 RC-OH(t)/RC-OH (0)を図3に示す。酸無水物系では、C-OH濃度比が照射時間30 minで1.77に増加し、照射時間60 minで0.85に減少したことで、未照射よりも照射時間60 minのC-OH濃度が小さくなった。フェノール系では、C-OH濃度比が照射時間30 minで0.57に減少し、照射時間60 minで0.99に増加したことで、未照射と照射時間60 minのC-OH濃度がほぼ等しくなった。イミダゾール系では、照射時間30 minで0.49に減少し、照射時間60 minで1.40に増加したことで、未照射よりも照射時間60 minのC-OH濃度が大きくなった。ATR、XPS(未化学処理)の結果で、照射時間60 minでいずれの樹脂でもOH構造の増加が示唆されていたことから、OH構造の増加は酸無水物系、フェノール系では主にCOOH由来であり、イミダゾール系ではCOOHとC-OH由来であると推察される。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


表1 エポキシ樹脂の組成



図1 エポキシ樹脂からのC1sスペクトル



図2 VUV照射/未照射エポキシ樹脂のC-C,C-Hピーク強度に対するC-O、C(=O)-Oピーク強度比



図3 VUV照射時間0 minに対するt [min]照射後のC-OH濃度比


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

本研究の一部は、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業の支援により、奈良先端科学技術大学院大学で実施された。ご対応いただいた、技術職員の石原氏に感謝する。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. ‘VUVによるエポキシ系樹脂の表面改質と異種界面強度の評価’,齊藤丈靖,第37回エレクトロニクス実装学会講演大会,(2023年3月)
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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