【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.05.16】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23NM5040
利用課題名 / Title
イオンビーム照射効果の研究
利用した実施機関 / Support Institute
物質・材料研究機構 / NIMS
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
透過型電子顕微鏡/ Transmission electron microscopy
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
雨倉 宏
所属名 / Affiliation
物質・材料研究機構
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術代行/Technology Substitution
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
NM-505:200kV透過電子顕微鏡
NM-503:200kV電界放出形透過電子顕微鏡(JEM-2100F1)
NM-510:FIB加工装置(JIB-4000)
NM-513:ピックアップシステム
NM-501:実動環境対応物理分析電子顕微鏡
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
近年のイオンビーム発生技術の発展により、エキゾチックなイオンビームである高速重イオンビームやクラスターイオンビームを一様かつ安定に、制御性良く発生させることが可能になってきた。そして、これらのエキゾチックなイオンビームと固体材料の相互作用が明らかにされようとしている。本研究では、上記のエキゾチックなイオンビームと物質の相互作用を解明するために、共用設備である電子顕微鏡等を適用する。材料改質や材料評価等への応用のための基礎過程を明らかにするものである。ここ数年、我々は上記のイオン1個が固体との衝突で形成する円筒形のナノスコピック~メゾスコピックサイズの損傷領域である“イオントラック”の形成に注目して研究を行ってきた。当該年度は数MeVのC60イオン照射によりダイヤモンドに初めてイオントラックを形成することに成功した。
実験 / Experimental
化学気相成長法(CVD)で作製された高純度・高品質の多結晶および単結晶ダイヤモンドをエレメント・シックス社よりで購入し実験に使用した。イオントラックの直径はおおよそ数nm程度であるため、透過電子顕微鏡(TEM)法がトラック観察の有効な手法となり得る。しかし電子透過を起こすためには試料の厚さを100nm以下に薄くする必要があり、そのために共用装置である集束イオンビーム加工装置(FIB)を用いた。しかしながら、ダイヤモンドは非常に硬いためか、スパッタリング率が極端に小さいようで、シリコンのFIB加工に比べると同じだけ削るためにビーム照射量は1桁以上高くする必要があった。この差は加工時間を延ばすだけでは補償できず、ビーム流束を強める必要が生じたが、トレードオフとして加工の空間正確性を劣化させた。ただでさえ加工時間がかかる上に、削ってはいけない部分を削ってしまうということが起き、一からやり直すという非常に時間を要する上、精神的にきつい苦行であった。
C60イオンの照射は、量研機構高崎研のタンデム加速器をARIMとは別の制度で借用し行った。C60イオンのエネルギーは1 MeVから9 MeVの範囲で変化させた。観測は主に透過電子顕微鏡 JEM-2100、HAADF 測定や STEM-EELS 測定には JEM-2100F を用いて、機器利用として使用した。収差補正による高分解能像の観測は JEM-ARM200F-G を用いて、技術代行として観察を依頼した。
結果と考察 / Results and Discussion
多結晶質または単結晶ダイヤモンドをFIB法によりTEM観察が可能な程度の厚さに薄片化した後に、1 MeVから9 MeVの範囲の単一エネルギーでC60イオンを照射した。多結晶質試料は、メーカー保証の仕様では粒界サイズが数μm以上あるということであった。さらに実際に薄片化されたTEM用試料のサイズが 5 x 10 x 0.1 μmと小さいため、TEM用試料の内部ではほとんど粒界が観測されず、観測範囲でほぼ単結晶であった。形成されたトラックが重ならないように、イオン照射量は 5 x 1010 - 1 x 1011 C60/cm2程度と低く制御した。1 MeVでの照射では明瞭なトラックは観測できなかったが、2 MeVから9 MeVの範囲ではトラックが観測された。C60のエネルギーを 2 MeVから9 MeV へと増加させると、トラックの平均直径は 3.2 nm から 7.1 nm へ、平均長さは 17 nm から 52 nm へと増加した。つまりC60イオンのエネルギーが大きいほど、大きなトラックが形成された。
ダイヤモンドは非常にイオントラックを形成しにくい物質として知らており、過去にイオントラックを形成しようとした試みは多数あるが、成功したという報告は無かった。我々は今回初めて、数MeVのC60イオンを用いることにより、ダイヤモンドにイオントラックを形成することに成功した。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
なお、ダイヤモンドによく似た結晶構造を示すものとして、Siがある。Siもイオントラックを形成しにくい物質であるが、数MeVのC60イオンを用いたSiへのトラック形成として文献[1-2]をあげる。
[1] H. Amekura, et al., Ion tracks in silicon formed by much lower energy deposition than the track formation threshold, Scientific Reports 11, 185 (2021).
[2] H. Amekura, et al., Mechanism of ion track formation in silicon by much lower energy deposition than the formation threshold, Physica Scripta 98, 045701 (2023).
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Hiroshi Amekura, Irradiation Temperature Dependence of Shape Elongation of Metal Nanoparticles in Silica: Counterevidence to Ion Hammering Related Scenario, Quantum Beam Science, 7, 12(2023).
DOI: 10.3390/qubs7020012
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Yong Liu, Fine-tuning of plasmonics by Au@AuY/Au core–shell nanoparticle monolayer for enhancement of third-order nonlinearity, Applied Surface Science, 631, 157582(2023).
DOI: 10.1016/j.apsusc.2023.157582
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- H. Amekura, et al. "Ion track formation in semiconductors by medium energy C60 ion irradiation", 21st International Conference on Radiation Efffects in Insulators (REI) (Fukuoka), 2023/9/3-8.
- 雨倉 宏, 他7名, ”中エネルギーC60イオン照射による半導体中へのイオントラック形成”, 第33回日本MRS年次大会(横浜), 2023年11月14-16日
- 雨倉 宏、"高速重イオン衝突による固体中に埋め込まれた金属ナノ粒子の楕円化変形(前編)”、原子衝突学会誌 20 (2023) 56-68.
- 雨倉 宏、"高速重イオン衝突による固体中に埋め込まれた金属ナノ粒子の楕円化変形(後編)”、原子衝突学会誌 20 (2023) 104-121.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件