利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.08.03】【最終更新日:2023.05.19】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22NR0022

利用課題名 / Title

近赤外円偏光発光発現が可能なキラルボロンジピロメテン分子集合体の合成

利用した実施機関 / Support Institute

奈良先端科学技術大学院大学

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マルチマテリアル化技術・次世代高分子マテリアル/Multi-material technologies / Next-generation high-molecular materials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

X線回折/X-ray diffraction,質量分析/Mass spectrometry


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

酒井 隼人

所属名 / Affiliation

慶應義塾大学理工学部化学科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

河合 壯,片尾昇平,上久保順子

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NR-302:微小単結晶X線構造解析装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

円偏光発光 (CPL) は3Dディスプレイやセキュリティーペイントなどへの応用展開が期待され、可視領域を中心に検討されている。最近ではバイオイメージング等への応用展開を目的とし近赤外  (NIR)  領域におけるCPL (NIR-CPL) も注目され、検討されている。高輝度CPL発現には、優れた発光特性と異方性が必要である。しかしながら、一般に、NIR領域は熱失活による影響を顕著に受けるため、高輝度発光が困難である。そのため、NIR-CPLは極めて困難となっている。一方、ジピロメテンにホウ素が配位した (BODIPY) は、一般に蛍光量子収率が高く、BODIPY骨格のホウ素に対してキラルビナフトール配位子 (BINOL) を配位させると、キラリティの付与に伴いCPLが発現できる。さらにBODIPY誘導体は、集合化により発光特性が上昇する凝集誘起発光 (AIE) や、単量体で観測されていた可視光領域の発光とは異なり、集合体では励起状態において集合体特有の状態を形成することでNIR発光を示すことも報告されている。以上の点を踏まえ、BODIPYのホウ素にビナフトール配位子 (BINOL) を配位させたキラルBODPIPY(0Ph-B-BODIPY)を集合化した(0Ph-B-BODIPY)nを用いて近赤外CPL発現を目指した。

実験 / Experimental

0Ph-B-BODIPYで良貧溶媒を利用して(0Ph-B-BODIPY)nを合成する。TEMでマクロな形状を評価し、単結晶X線構造解析とXRDを用いて内部構造を決定する。分光測定を行うことで内部構造決定と光物性を評価する。

結果と考察 / Results and Discussion

Fig. 1Aに示したキラルBODIPY誘導体 (0Ph-B-BODIPY) を良溶媒であるTHFに溶解させ、調整した溶液を貧溶媒のH2Oに素早く加え、30 μM H2O/THF = 99/1 (v/v) の混合溶液を調整し、分子集合体 ((0Ph-B-BODIPY)n) を合成した。調整した混合溶液を専用基板に滴下し、透過型電子顕微鏡 (TEM) にて形状観察を行ったところ、幅が27.8 ± 6.4 nm程度の無数のファイバー状集合体が観察された (Fig. 1B)。(0Ph-B-BODIPY)nの内部構造を決定するために、まず、0Ph-B-BODIPYで単結晶を作製し、X線構造解析を行った (Fig. 1C)。0Ph-B-BODIPYの近接するBODIPYユニット同士はπ-π相互作用により、結晶におけるa軸方向に沿った一次元カラム状構造を形成している。一方、BINOLユニットは同じカラム内において交互に配置されていることがわかった。次に、(0Ph-B-BODIPY)nのXRDを測定した。XRD patternは、単結晶構造から得られたシミュレーションと良い一致を示したので(0Ph-B-BODIPY)nの内部構造は単結晶構造と同一であることがわかった。
 次に、(0Ph-B-BODIPY)nの定常分光測定を行った (Fig. 2)。(0Ph-B-BODIPY)nの吸収スペクトルとモノマーに対応する0Ph-BODIPYのTHF溶液のスペクトルと比較すると、(0Ph-B-BODIPY)nのスペクトル形状は大きくブロード化し長波長シフトした (Fig. 2A)。0Ph-B-BODIPYの499 nmの吸収極大は、(0Ph-B-BODIPY)nでは461と506 nmのシグナルに分裂していたので、0Ph-B-BODIPY同士はexciton couplingしている。これは、単結晶構造において観測されたBODIPYユニット同士のπ-π相互作用に起因している。一方、(0Ph-B-BODIPY)nの蛍光スペクトルでは、0Ph-B-BODIPYの可視光領域におけるシャープなスペクトル形状とは全く異なり、可視光からNIR領域にかけて複数の極大を有する幅広いスペクトルが観測された (Fig. 2B)。したがって、(0Ph-B-BODIPY)nはNIR発光特性を有することが明らかとなり、蛍光スペクトルの形状から(0Ph-B-BODIPY)nは、励起状態において複数の0Ph-B-BODIPYが関与する状態を形成することも示唆される。さらに0Ph-B-BODIPYと(0Ph-B-BODIPY)nの蛍光量子収率を測定したところ、0Ph-B-BODIPYでは0.025と極めて小さな値だったが、(0Ph-B-BODIPY)nでは0.40と一桁も大きくなり、0Ph-B-BODIPYのAIE特性が明らかとなった。
 最後に、CPLスペクトルの測定を行った (Fig. 3)。(0Ph-B-BODIPY)nのスペクトルは、0Ph-B-BODIPYのスペクトルと比較すると、CPLスペクトルも可視光からNIR領域まで大きく広がり、分子集合体を構築することで、NIR-CPLの発現に成功した。さらに、(0Ph-B-BODIPY)nと0Ph-B-BODIPYのCPLスペクトルを比較すると信号は正と負の符号が反転しており、これは励起状態における分子会合に起因している。得られた結果から異方性因子gCPLの値は、S-(0Ph-B-BODIPY)nでおよそ−5.9 × 10−3 (at 638 nm) と見積られた。この値は単量体のR-0Ph-BODIPYのgCPL(ca. −2.1 × 10−3 at 545 nm) よりも約3倍も大きな値となった。以上のように、分子集合体を構築することで優れたNIR-CPLの発現に成功した。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Fig. 1  (A) A chemical Structure of 0Ph-B-BODIPY. (B) TEM image of (0Ph-B-BODIPY)n. (C) Single-crystal structure of p-stacking between two neighboring R-0Ph-B-BODIPY units. Black line: p-stacking distance: 3.57 Å.



Fig. 2  (A) Absorption spectra of (0Ph-B-BODIPY)n in H2O/THF = 99/1 (v/v) (red line). [0Ph-B-BODIPY] = 30 mM and 0Ph-B-BODIPY in THF (blue line). (B) Fluorescence spectra of (0Ph-B-BODIPY)n in H2O/THF = 99/1 (v/v) (red line). [0Ph-B-BODIPY] = 30 mM and 0Ph-B-BODIPY in THF (blue line). (λex = 470 nm). Reproduced from J. Mater. Chem. C, 2023, 11, 2889–2896 with permission from the Royal Society of Chemistry.



Fig. 3 Circularly polarized luminescence (CPL) spectra of (0Ph-B-BODIPY)m in H2O/THF = 99/1 (v/v) (red). [0Ph-B-BODIPY] = 30 mM and 0Ph-B-BODIPY (monomer) in THF (blue), lex: 350 nm. Solid and dotted lines correspond to S and R forms, respectively. Reproduced from J. Mater. Chem. C, 2023, 11, 2889–2896 with permission from the Royal Society of Chemistry.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Hayato Sakai, Controlled molecular assemblies of chiral boron dipyrromethene derivatives for circularly polarized luminescence in the red and near-infrared regions, Journal of Materials Chemistry C, 11, 2889-2896(2023).
    DOI: 10.1039/d2tc05006d
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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