【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.07.04】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23AT5015
利用課題名 / Title
固体NMRによるアガリクス由来β-グルカンの構造解析
利用した実施機関 / Support Institute
産業技術総合研究所 / AIST
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials
キーワード / Keywords
スピン制御/ Spin control,生体イメージング/ In vivo imaging,核磁気共鳴/ Nuclear magnetic resonance,核磁気共鳴/ Nuclear magnetic resonance
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
小島 正樹
所属名 / Affiliation
東京薬科大学 生命科学部 分子生命科学科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
松村義隆
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
服部峰之
利用形態 / Support Type
(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
β-グルカンは真菌細胞壁の主要構成多糖であり、抗菌・抗腫瘍作用など種々の生理活性を有しており、医薬品のシード化合物としても重要である。スエヒロタケ由来β-グルカンのシゾフィランは抗癌剤として認可され、水に溶けて3重らせん構造をとることが知られている。また結晶化された構造もX線結晶構造解析により3重らせん構造をとることが明らかにされている。一般にβ-グルカンは水に溶けにくく、また水溶液中のグルカンは揺らぎが大きいため、シゾフィランを除き、天然立体構造に関する知見は限られている。そこでSAXS、AFM等の測定手法と分子動力学計算シミュレーション(MD)を組み合わせて、アガリクス由来β-グルカンの立体構造解析を行った。
実験 / Experimental
試料のβ-グルカンはアガリクス由来(Agaricus brasiliensis)のもの70mgを充填した。NMR測定は、Bruker Avance III HD 600WBを用いて行った。測定周波数は150.97 MHzである。以前行った測定を踏まえ、サンプル量の減少とCP効率が低下して検出感度の問題が生じるが、2.5mmのローターを使用して30kHzの回転速度にて長時間積算した。その結果、SSBをほぼ無視できるようになり、スペクトルの改善が可能であることがわかった。β-グルカンはアガリクス由来(Agaricus brasiliensis)のもの10mgで行った(図1.)。
結果と考察 / Results and Discussion
これまでの研究で、X線小角溶液散乱(SAXS)、原子間力顕微鏡(AFM)、溶液NMR等の物理化学的手法と分子動力学計算による計算機シミュレーション(MD)の組み合わせにより、Agaricus brasiliensis由来のβ-グルカンは水溶液中において多分散で3量体、または単量体として存在すること、分子の形状は球状で、β-1,6結合の主鎖とβ-1,3結合の側鎖(10%以下)から成ること、SAXSで観測された比較的小さい球状分子に関してはAFMの結果やMDにより得られた予測構造と矛盾がないこと、等が明らかとなっている。下図の通り、89±1 ppm(単量体らせん)と86±1 ppm(3量体らせん)の両方にピークが明確に観測され、前回測定した8 kHzおよび10 kHzでのスペクトルと合わせて、両分子種の混在がさらに裏付けられる結果となった。上述の通り、SAXSで観測された比較的分子量の大きい球状成分がは3量体と考えられた。一方、同時に観測された比較的分子量の小さい球状成分の方は、3量体もしくは単量体であると考えられた。後者の分子量を求め、単量体として3種の異なる一次構造を仮定したうえで、それぞれMDを行って代表構造を決定した。全ての代表構造が、SAXSデータに基づくモンテカルロ・シミュレーションで得られた粗視化構造とよく重なり矛盾がなかった。さらに、AFM画像と比較しても、その分子サイズはSAXSで観測された低分子量球状成分と矛盾がなかった。一般にSAXSは全電子密度を反映するため、分子量が大きければ観測される散乱強度も大きい。このためSAXSにおいては、3量体が実際の存在比よりも過大に見積もられた可能性が考えられる。以上のように、SAXS、AFM、MDで得られた解析結果や知見を含めて総合的に考慮すると、今回の固体NMRの結果はどれとも矛盾があると言い難く、Agaricus brasiliensis由来のβ-グルカンは3量体と単量体の両方が混在していると思われる。1980年代に固体高分解能NMRを用いたb-グルカンの構造解析が行われており、シゾフィランなど他のβ-グルカンは3量体か単量体の構造をとっていることが知られている。またこの研究では、あるβ-グルカンが実験条件の変化(温度)で3量体と単量体の構造変化が観られることが報告されている(Saito, H., et al, 1987)。さらにシゾフィランの主成分は3量体ではあるが、わずかに単量体の存在が考えられる可能性を示唆する実験データもある(未発表データ)。 これらのことから、Agaricus brasiliensis由来β-グルカンは3量体と単量体の両者が混在して存在することは十分考慮されるため、今回の固体NMRの結果はこれまでの研究と矛盾がなく、むしろそれを裏打ちするものと考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1. 2.5mmローターを用いて得た、13C CP/MAS スペクトル。89±1 ppm(単量体らせん)と86±1 ppm(三量体らせん)にピークがり、両方混在している可能性が示唆された。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 松村義隆, 井上広大, 墨野倉誠, 久保美香子, 出村茉莉子, 市岡隆幸, 森本康幹, 田代充, 石橋健一, 大野尚仁, 服部峰之, 小島正樹, 物理化学実験と計算シミュレーションによるアガリクス由来β-グルカンの構造観測,(Structure observation of β-glucan derived from Agaricus brasiliensis by Physicochemical experiments and computational simulation), 第32回日本バイオイメージング学会学術集会, 北海道大学学術交流会館, 北海道(ポスター発表), 2023年11月
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件