【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.24】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23HK0046
利用課題名 / Title
積層型層状化合物の電荷再結合ダイナミクスとプラズモン効果
利用した実施機関 / Support Institute
北海道大学 / Hokkaido Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions
キーワード / Keywords
蒸着・成膜/ Vapor deposition/film formation,ALD,スパッタリング/ Sputtering,リソグラフィ/ Lithography,電子線リソグラフィ/ EB lithography,膜加工・エッチング/ Film processing/etching,電子顕微鏡/ Electronic microscope,赤外・可視・紫外分光/ Infrared/visible/ultraviolet spectroscopy,センサ/ Sensor,フォトニクスデバイス/ Nanophotonics device,光デバイス/ Optical Device,原子薄膜/ Atomic thin film,フォトニクス/ Photonics
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
野本 直也
所属名 / Affiliation
北海道大学大学院総合化学院分析化学研究室
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
上野貢生,黒澤広大,素 雅,髙橋 彩,高橋佑輔,秋葉千明,沈 子
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
松尾保孝
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
HK-601:超高精度電子ビーム描画装置(100kV)
HK-610:コンパクトスパッタ装置
HK-611:多元スパッタ装置
HK-616:原子層堆積装置
HK-621:反応性イオンエッチング装置
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
層状化合物である遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)は、単層では直接遷移型の半導体となり、発光特性を示すことから次世代の半導体材料として注目されている。特にp型半導体のWSe2とn型半導体のMoS2のヘテロ構造は、Type IIのバンドオフセットを示し、優れた電荷分離効率を持つことから、光電変換デバイスや発光デバイスなどへの応用が期待されている。しかし、薄層であるため光吸収効率が低く、発光量子収率も決して高くないことから、これらの向上がTMDCヘテロ構造を用いたデバイスを構築する上で課題となっている。光吸収効率の増幅や量子収率の向上には、局在表面プラズモン共鳴による光電場増強効果が有効である。そこで、本研究は、TMDCヘテロ構造に誘起される電荷分離の詳細を明らかにするため、時間分解計測によりキャリアダイナミクスを明らかにするとともに、プラズモン共鳴が電荷再結合速度や発光強度に与える影響を明らかにすることを目的とした。
実験 / Experimental
化学気相成長法(CVD)によってSiO2/Si基板上にWSe2、およびMoS2を合成した。合成したWSe2をポリジメチルシロキサン(PDMS)シートに転写し、回転ステージを導入した積層装置を用いて、あらかじめガラス基板上に転写したMoS2構造上に任意の角度で積層し、WSe2/MoS2ヘテロ構造を作製した。金からWSe2/MoS2ヘテロ構造への電子移動やエネルギー移動消光を抑制するため、原子層堆積法により1 nmの膜厚のAl2O3をWSe2/MoS2ヘテロ構造上に成膜した。最後に、作製したAl2O3/WSe2/MoS2構造上に電子線リソグラフィ/リフトオフ法を用いてAu/Al2O3/WSe2/MoS2ヘテロナノ構造を作製した。WSe2/MoS2ヘテロ構造の発光波長やキャリアダイナミクスの積層回転角依存性を明らかにするため、発光スペクトル測定や過渡反射測定を行った。発光スペクトル測定の励起波長は532 nm、過渡反射測定のpump波長は400 nm、およびprobe波長は800 nmとした。また、作製したAu/ Al2O3/WSe2/MoS2ヘテロナノ構造についても同様の測定を行った。
結果と考察 / Results and Discussion
Figure 1に、MoS2、MoS2、WSe2、および積層回転角60°のWSe2/MoS2ヘテロ構造の発光スペクトルを示す。波長670 nm付近にMoS2の励起子由来、そして750 nm付近にWSe2の励起子由来の発光スペクトルが観測された。特筆すべきは、WSe2/MoS2ヘテロ構造の発光波長が電荷分離に基づいてそれらの励起子の長波長側である780 nm付近において観測されたことである。積層回転角依存性を検討したところ、積層回転角が60°、および0°の構造において最も長波長シフトを示し、積層回転角が30°の構造において最も波長シフトが小さくなることが明らかになった。そこで、過渡反射測定によりキャリアダイナミクスを測定したところ、積層回転角が30°の構造において最もキャリア寿命が遅くなることが明らかになった。これらは、波数空間においてBrillouinゾーンのK点に空間的なずれが生じるため、励起子の束縛エネルギーの大きさが積層角度によって変化すること、そして電荷再結合速度が遅くなることに起因すると考察された。重要な点は、Au/ Al2O3/WSe2/MoS2ヘテロナノ構造は、WSe2/MoS2ヘテロ構造に比べて10倍程度発光強度が増大したことである(Figure 1)。このことから、電荷再結合過程にPurcell効果が働くことが明らかになった。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 TMD、TMDヘテロ、Au/TMDヘテロナノ構造の発光スペクトル
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- Y. Takahashi, K. Imaeda, S. Ryuzaki, K. Ueno, Photoluminescence Properties of Au/MoS2/WSe2 Heterostructures, The 31st International Conference on Photochemistry (ICP2023), Sapporo, 令和5年7月25日
- A. Takahashi, H. Sakamoto, K. Imaeda, S. Ryuzaki, K. Ueno, Photoluminescence and nonlinear optical properties of coupled plasmonic nanostructures, SPIE Optics + Photonics 2023, San Diego, 令和5年8月21日
- N. Nomoto, K. Imaeda, S. Ryuzaki, K. Ueno, Fabrication and infrared spectral properties of graphene plasmonic nanostructures, SPIE Optics + Photonics 2023, San Diego, 令和5年8月21日
- C. Akiba, K. Imaeda, S. Ryuzaki, K. Ueno, Infrared spectral properties of pillared carbon/Au nanochains, SPIE Optics + Photonics 2023, San Diego, 令和5年8月21日
- 野本直也, 秋葉千明, 今枝佳祐, 龍﨑 奏, 上野貢生, グラフェンナノ構造の赤外プラズモン特性と分子検出への展開, 2023年光化学討論会, 広島, 令和5年9月5日
- 今枝佳祐, 高橋佑輔, 牛越新波, 龍﨑 奏, 上野貢生, 遷移金属ダイカルコゲナイドにおけるプラズモン誘起発光増強, 2023年光化学討論会, 3D04, 広島, 令和5年9月5日
- 秋葉千明, 野本直也, 今枝佳祐, 龍﨑 奏, 上野貢生, ピラー化カーボン/金属ナノチェイン構造の赤外プラズモン特性, 日本分析化学会第72年会, 熊本, 令和5年9月14日
- Y. Su, Y. Takahashi, K. Imaeda, S. Ryuzaki, K. Ueno, Photoluminescence properties of Au nanoblocks /WSe2 heterostructures fabricated on various substrates, 第13回CSJ化学フェスタ2023, 東京, 令和5年10月18日
- Y. Takahashi, S. Ushikoshi, K. Imaeda, S. Ryuzaki, K. Ueno, Plasmon-enhanced photoluminescence of Au nanostructured transition metal dichalcogenide heterostructures, The 12th Asian Photochemistry Conference (APC2023), Melbourne, 令和5年11月28日
- 野本直也, 今枝佳祐, 龍﨑 奏, 上野貢生, 孤立型グラフェンプラズモニックナノ構造の赤外分光特性, 2024年第71回応用物理学会春季学術講演会, 東京, 令和6年3月23日
- K. Ueno, Plasmon-enhanced photochemistry with nanoengineered structures, The International Conference on Emerging Trends in Photodynamics and Photochemistry (ETPP2024), Chandigarh, 令和6年3月27日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件