【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.05.14】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
23UT1074
利用課題名 / Title
培養基板の表面構造が細胞に及ぼす作用の解析
利用した実施機関 / Support Institute
東京大学 / Tokyo Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
電子顕微鏡/ Electronic microscope,膜加工・エッチング/ Film processing/etching,細胞・組織再生誘導材料/ Materials for inducing cell and tissue regeneration,細胞培養デバイス/ Cell Culture Device
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
三好 洋美
所属名 / Affiliation
東京都立大学システムデザイン学部機械システム工学科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
丸山 泰星
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
UT-604:高速シリコン深掘りエッチング装置
UT-853:簡易電子顕微鏡
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
がん細胞の特性である浸潤・転移はがん完治を困難なものにするため,転移を有効に阻害する治療薬の開発は健康寿命延伸に大きく貢献する.これまで,定量的な転移性評価のためのin vitroモデルの開発が進められてきたが,未だラベルフリーかつハイスループットな転移性の評価系は確立されていない.本研究では,細胞浸潤性のハイスループット評価への適用可能性が期待される微細溝に着目した.がん細胞と非がん細胞の浸潤性が異なることが過去に報告され,がん細胞識別精度を向上させる微細溝パラメータを特定し,最適な微細溝形状を明らかにすることを目指した.
実験 / Experimental
マイクロレベルの畝構造が付与されたシリコンモールドを作製し,ポリジメチルシロキサン(PDMS)に転写することで溝構造を得た.溝深さ10 μm以上,溝幅,3μm,9μm,15μmの溝構造が付与されたPDMS基板の作製可能性を検討した.東京大学において,シリコーンモールドを作製した.
まず,ヘキサメチルジシラザン(HMDS)を基板上に塗布し,110℃に加温したホットプレート上で1分ベークさせた.続いて,フォトレジスト(SIPR)を基板上に塗布し,100℃に加温したホットプレート上で2分ベークした.露光は,レーザー描画直接装置(DWL66+,F-UT-146,ナノテクジャパン)を用いて行った.図面をDWL66+にロードし,波長406 nm の紫外光で描画した.パターンの設計には,オープンソースのCADソフト(KLayout)を使用した.パターンはPythonを使用して図面上に配置した.その後,ドラフトチャンバー内に移動し,基板をポジ型フォトレジスト用現像液 (NMB-3)に1分浸漬させ,現像した.最後に超純水で十分洗浄し,窒素ブローで乾燥させ,120℃に加温したホットプレート上に置いて1分30秒ベークした.エッチングには,高速シリコン深掘りエッチング装置(DRIE SPPT MUC-21 ASE-Pegasus)を使用した.表面にレジストパターンが付与された基板を装置内に固定し,エッチングを行った.六フッ化硫黄(SF6)ガスを用いたシリコン削剥と,オクタフルオロシクロブタン(C4F8)ガスを用いた保護膜形成を34サイクル行うことで深さおよそ10.0 µmの溝構造を形成した.深さはエッチングサイクルを調節することで制御した.その後,アセトンを用いて基板を洗浄し,フォトレジストを除去した.
微細溝基板はPolydimethylsiloxane (PDMS)を用いてシリコンモールドの構造を転写することで作製した.PDMSへの転写以降の実験は東京都立大学にて実施した.PDMSを離型しやすくするため,シリコンモールド表面をフロロサーフ(フロロテクノロジー)に浸漬し,ホットプレート上で120℃で20分間静置してコーティング処理を施した.その後,PDMS主剤と硬化剤(SILPOTTM 184
,ダウ・東レ)を重量比10:1で混合したものをシリコンモールドに流し入れ,真空脱気を行った後,事前に加温した真空オーブン(AS ONE)内にて60℃で12時間以上熱硬化させた.細胞を基板に播種する直前にプラズマイオンボンバーダ(PIB-10,真空デバイス)でエアープラズマを3分間照射し,fibronectinでコーティングした.作製した微細溝基板を切断し,白金コーティング後,走査型電子顕微鏡(Scanning Electron
Microscope:SEM,VE-8800,KEYENCE)で観察した.得られた基板断面画像から,画像解析ソフトImageJを用いて微細溝パラメータを評価した.エッジ曲率半径
,溝上面から深さ1 µmにおける溝幅(開口部溝幅),深部溝幅
,溝深さ
を評価した.
PDMS製基板上にがん細胞モデルである線維肉腫細胞HT1080(ATCC)及び非がん細胞モデルである線維芽細胞3T3-Swiss albino(3T3-Siwss,JCRB)をそれぞれ細胞密度2000 cells/cm2で播種した.細胞はそれぞれMEM-
(Gibco)及び DMEM(SIGMA)に10%ウシ血清とPenicillin Streptomycinを添加した培養培地を使用した.細胞播種から24時間後,生細胞イメージングを開始した.インキュベーションモニタリングシステム(CM20,Olympus)により37℃,5%CO2の環境下,5分間隔で計5時間タイムラプス画像を取得した.がん転移には,生体組織の微細な間隙中に細胞が侵入する現象である「浸潤」が寄与することが知られる.作製した溝構造が,がん細胞を浸潤させ,非がん細胞は浸潤させない特性を有するか否かを確認するために,溝内部に侵入した細胞の数を計数し,がん細胞浸潤性の指標とした.
結果と考察 / Results and Discussion
PDMS上に作製した溝構造の例を図1に示す.設計値7.5,15.0 µmの溝形状は確認できたが,溝幅設計値3 µmの溝は変形しており,明確な溝は見られなかった.
設計値7.5 µmの溝について,溝内部に侵入した細胞の数を計数した.その結果,がん細胞HT1080の溝内部への侵入頻度は40%程度,非がん細胞3T3-Swissは20%程度の頻度で溝内部に侵入した.目標とするがん細胞識別精度(がん細胞の浸潤率80%以上かつ非がん細胞の浸潤率5%以下)を達成するため,パラメータスタディによる探索的アプローチに加え,細胞表面積の変化など,がん細胞の浸潤に関わる細胞因子に着目した演繹的アプローチが必要と考える.
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 PDMS基板に付与された溝構造 溝幅3μm, 9μm, 15μmを設計値とした溝構造が付与されたPDMS基板の断面SEM画像の例.
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 丸山 泰星,小宮 一毅,永田 晃基,楊 明,三好 洋美,“がん細胞の新たな浸潤性評価手法の開発に向けた微細溝構造設計”,日本機械学会第34回バイオフロンティア講演会,2023年12月16日
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件