利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.11】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23UT1003

利用課題名 / Title

超伝導転移端センサの開発

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed

キーワード / Keywords

超伝導, 超伝導転移端センサ, 光子検出器, 近赤外,リソグラフィ/ Lithography,光リソグラフィ/ Photolithgraphy,膜加工・エッチング/ Film processing/etching,ダイシング/ Dicing,超伝導/ Superconductivity,センサ/ Sensor,フォトニクスデバイス/ Nanophotonics device,量子効果デバイス/ Quantum effect device


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

高橋 浩之

所属名 / Affiliation

東京大学工学系研究科総合研究機構

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

三津谷 有貴,佐々木 晴崇,上土井 猛,スミス ライアン,Amin Choghadi,高橋 浩之

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-505:レーザー直接描画装置 DWL66+2018
UT-604:高速シリコン深掘りエッチング装置
UT-711:LL式高密度汎用スパッタリング装置(2019)
UT-800:クリーンドラフト潤沢超純水付
UT-900:ステルスダイサー


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

超伝導転移端センサ(Transition Edge Sensor, TES)は、超伝導薄膜からなり、超伝導状態と常伝導状態の間に存在する有限幅の転移端にバイアスされた状態で動作する、超高感度なマイクロカロリメータである。入射粒子のエネルギーによって生じる薄膜の微弱な温度上昇が、転移端領域において抵抗値の急激な上昇を生じることで、信号を生じる。TESはX線・ガンマ線・粒子線といった放射線の測定のみならず、センササイズを極小化することによって可視光〜赤外に至る領域の単一光子レベルの計測までもが可能である。特に近赤外領域においては、光子数弁別能と高い量子効率を有しており、光量子情報処理における有望な検出器として応用が期待されている。一方で、TESの動作速度には改善の余地があり、今年度はTESの高速化に向けた研究開発を実施した。

実験 / Experimental

TESの信号の立下がり時間は一般的に遅く、光検出用のTESでは典型的な値として数μs程度の時間を要する。TESの有感領域を構成するイリジウム薄膜内においては、イリジウムの電子系とフォノン系との間で温度分離が生じており、この2つの系の間での熱伝導度がTESの熱的な緩和時間を律速することになる。そこで今年度は、TESの立下がり時間の高速化のために、金のヒートシンク構造を有するTESの開発を行った。このTESでは、イリジウムに金のヒートシンクを付与することによって、イリジウムの電子系から、金の電子系とフォノン系を経由して熱浴に到達するパスができるため、熱的な緩和時間が高速化されると考えられる。素子作製では、まず、レーザー直接描画装置DWL66+(UT-505)を用いてフォトレジストにパターニングを行い、そこにスパッタ装置(UT-711)でチタンのレイヤーを作製し、その上にイリジウムのレイヤー(厚さ20 nm程度)を形成した。そして、リフトオフ法によってレジストを除去することで、TES形状を作製した。同様のプロセスで、ニオブ電極、および金ヒートシンク構造を作製した。ヒートシンク構造は、高速化に十分な熱伝導度を得られ、かつ、熱容量の増加によるエネルギー分解能劣化の程度が許容される程度の大きさで設計し作製した。 試作したヒートシンク構造の例を図1に示す。図1は、500μm角の大きさを持つイリジウム薄膜に、金で作られた200μm×50μmのヒートシンクが、上下二箇所に付与されている構造である。このようにして、ヒートシンク構造の作製プロセスをまず確立した。これに基づいて、実際の検出器サイズとして、20μm四方のイリジウムに4μm×8μmや8μm×8μmの金ヒートシンク構造を付与した検出器を測定に供するために作製した。作製した素子は、シリコン深掘エッチング装置(UT-604)を用いて、そのシリコンウェハをラケット形状に加工し、光ファイバの割スリーブに嵌合するようにした。これによって、光ファイバとTESの有感領域を高精度にアライメントすることができる。このようにして作製した素子を、極低温冷凍機を用いて100 mK程度まで冷却し、超伝導転移が見られるか、また、光入射による応答が見られるか、実験を行った。また、ヒートシンク付きデバイスの他にも、超伝導転移温度を高くとることで高速応答をする素子や、有感領域の大きさ・形状に関する最適化によって高速応答・高エネルギー分解能を得られる素子の開発を実施した。

結果と考察 / Results and Discussion

作製した金ヒートシンクを有するTESを極低温冷凍機によって冷却した。これを、四端子法を用いて、R-Tカーブの測定を行った。ここでのイリジウム薄膜は、大きさ20 μm四方、厚さが24 nmで作製しており、またもともとの転移温度が約300 mKであった。そこに、4 μm × 8 μm、厚さ120 nmの金ヒートシンクを2つ付与したTESは、転移温度が190 mKであった。また、8 μm × 8 μmのヒートシンクを2つ付与したTESでは、転移温度が175 mKであった。このようにして、作製した素子の超伝導転移を確認することができた。また、本素子を超伝導量子干渉計(SQUID)と結合し、また光ファイバと結合し、光応答を得られるか実験をおこなったが、この場合には超伝導転移を確認することができなかった。原因としては、素子内で臨界電流を超えた部分が生じた可能性があると考えられ、今後はヒートシンク付き素子の作製プロセスの改善が望まれる。超伝導転移温度を高くとって高速応答を試みた素子や、有感領域の大きさ・形状の最適化を実施した素子についても、極低温冷凍機を用いて測定を行った。その結果、それらの素子においても、超伝導転移を確認することができている。今後も継続して素子作製と試験を行い、高速応答性についての検証を実施する。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. 試作したヒートシンク付き素子


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

本研究は、JST【ムーンショット型研究開発事業】【JPMJMS2064-2】の支援を受けたものです。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Ryan Smith, Development of Transition Edge Sensors for the Detection of Secondary Electrons, IEEE Transactions on Applied Superconductivity, 33, 1-3(2023).
    DOI: https://doi.org/10.1109/TASC.2023.3264501
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. Y. Mitsuya, H. Takahashi, “Optical transition edge sensor for fast count rate operation,” 20th International Workshop on Low Temperature Detector, Daejeon, TP-047, 2023年7月
  2. A. Chogadhi, Y. Mitsuya, T. Jodoi, H. Takahashi, “Fabrication of Split-type Ir-TES by Focused Ion Beam,” 20th International Workshop on Low Temperature Detector, Daejeon, TP-060, 2023年7月
  3. T. Jodoi, Y. Mitsuya, M. Amin. Choghadhi, H. Takahashi, “Fabrication of Transition Edge Sensors with faster response time,” The 11th International Symposium on Radiation Safety and Detection Technology, Seoul, 2023年7月
  4. T. Jodoi, "Evaluation of the rise time about small Ir Transition Edge Sensor," 20th International Workshop on Low Temperature Detector, Daejeon, TP-045, 2023年7月
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

印刷する
PAGE TOP
スマートフォン用ページで見る