利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2024.06.28】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22GA0099

利用課題名 / Title

脂肪酸/界面活性剤分子集合体を介した脂質ナノ粒子の連続作製

利用した実施機関 / Support Institute

香川大学 / Kagawa Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

マイクロ流路,界面活性剤,脂質ナノ粒子


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

田口 翔悟

所属名 / Affiliation

兵庫県立大学

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

GA-002:マスクレス露光装置
GA-003:スピンコータ-
GA-004:デュアルイオンビ-ムスパッタ装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

脂質ナノ粒子(LNP)は、生体適合性および徐放性があることからドラッグデリバリーシステムや農薬への応用が期待されている。従来のLNP作製方法は加熱・冷却プロセスを伴う回分式操作であり、内封する薬剤への熱による影響・冷却過程における粒子間の凝集などの課題がある。本研究では希釈操作による脂肪酸/界面活性剤分子集合体を介したLNP作製に取り組み、LNPの物性評価と形成過程観察を実施した。LNPの連続作製のプラットフォームとしてマイクロ流路の作製を計画し、香川大学ARIMの協力の元、マイクロ流路の鋳型を試作した。鋳型を基にマイクロ流路を作製し、脂肪酸/界面活性剤分子集合体を流路内で希釈し、希釈後の分子集合体の物性評価からLNP形成の可能性を得た。

実験 / Experimental

マスクレス露光装置を用いてフォトマスクを作製し、スピンコータを用いてシリコンウエハー基板上にSU-8を均一に塗布した。マスクアライナとフォトマスクを用いて基板上SU-8を硬化し、基板上の未反応SU-8を洗浄、除去することでマイクロ流路鋳型を得た。デュアルスパッタ装置を用いて基板表面に金をコーティングした。作製した鋳型を基にマイクロ流路原料polydimethylsiloxane (PDMS)およびガラス基板を用いてマイクロ流路を作製した。 
分子集合体の調製には脂肪酸oleic acid (OA)、界面活性剤3-[(3-cholamidopropyl) dimethylammonio]-2-hydroxypropanes-ulfonate (CHAPSO)を用いた。まず、OAベシクル(20 mM)を調製した。OAベシクルとCHAPSO溶液(20 mM)を体積比1:1で混合し、総濃度20 mMのOA/CHAPSO分子集合体を得た。混合比率XOAは以下に定義する(Eq.1)。
事前の検討として、OA/CHAPSO分子集合体の回分式希釈を実施し、脂質分子間のパッキング密度評価および電子顕微鏡観察からパッキング密度の上昇傾向および球状微粒子の確認からLNP形成の可能性が得られている。本検討では、蛍光プローブ分子Laurdanを用いて流路内での希釈前後のOA/CHAPSO分子集合体の物性を評価した。Laurdanは分子周辺の極性環境に応じた蛍光スペクトルを示すため、分子集合体内部の極性環境に基づいた脂質分子間のパッキングが評価できる(Taguchi et al., 2021)。シリンジポンプを用いてマイクロ流路にOA/CHAPSO二分子膜集合体(20 mM, XOA= 0.5)および希釈溶媒として純水をそれぞれ20, 60 μL/minまたは10, 190 μL/minで送液し、それぞれの希釈溶液中の分子集合体のパッキング密度を評価した(Fig.1)。なお、それぞれの最終的な総濃度は5および1 mMである。

結果と考察 / Results and Discussion

マイクロ流路を用いたOA/CHAPSO分子集合体の希釈によるLNPの作製について、希釈前後におけるLaurdan分子の蛍光スペクトルの変化を以下に示す(Fig.2)。総濃度20 mMおよび5 mMにおいて440 nm付近と490 nm付近の両方でピークが検出されたのに対して、1 mM では490 nm付近のピーク強度の減少が確認された。Laurdanはナフタレンの両端に電子供与性のカルボニル基が付加された構造を持ち、その蛍光スペクトルは、分子周辺の溶媒環境に依存し、疎水的な分子集合体中では440 nm付近に極大波長を示し、親水的な分子集合体中では溶媒緩和により490 nm付近に極大波長をシフトさせる(Taguchi et al., 2021)。1 mMに希釈することで極大波長が440 nmにシフトしたことから、分子集合体内のパッキング密度が上昇したと考えられる。この傾向は回分式希釈操作においても確認されており、マイクロ流路による希釈によってLNPの形成が示唆された。 
LNPの作製は加熱、超音波処理、冷却の順序で行う回分式が一般的である(Van Lysebetten et al., 2021; Wijakmatee et al.,2022)。そのため、連続的な生産が難しい、加熱による内封する薬剤やペプチド等の変性が懸念される、冷却過程における粒子間の凝集が起こるなどの課題を持つ。脂肪酸/界面活性剤分子集合体を介したLNP作製は加熱冷却を伴わないため、LNPに封入するペプチドの熱変性の抑制が期待できる。本手法によるLNP作製には希釈過程における界面活性剤の挙動が重要であり、希釈後のLNPにも含まれていることが予想されるため、LNP間の凝集を抑制する効果も期待できる。また、脂肪酸/界面活性剤分子集合体のサイズはその組成に依存し、希釈後の分子集合体はある程度希釈前のサイズの影響を受けている。本研究では希釈倍率の影響を検討したが、先行研究において、流速・流量を操作することでマイクロ流路内に形成される分子集合体のサイズを制御する取り組みがなされており(Kong et al., 2014; Choi et al., 2021)、将来的には単分散LNPの連続作製が期待できる。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Eq.1  OA/CHAPSO混合比率XOA  



Fig. 1 マイクロ流路による脂肪酸/界面活性剤二分子膜集合体の希釈



Fig. 2 OA/CHAPSO分子集合体中Laurdan分子の蛍光スペクトル


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

参考文献
・S. Choi et al., Langmuir 37(42),12255–12262 (2021)
・F. Kong et al., Langmuir 30(13) 3905–3912 (2014)
・S. Taguchi et al., Crystals 11(9), 1023 (8 pages) (2021)
・D. van Lysebetten et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 13(5), 6011–6022 (2021)
・T. Wijakmatee et al., Ind. Eng. Chem. Res. 61, 9274–9282 (2022)
謝辞
 本研究を進めるにあたってマイクロ流路作製にご助力頂きました香川大学創造工学部准教授・寺尾京平先生、支援員の皆様に感謝申し上げます。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 立花泰明,田口翔悟,山本拓司,前田光治,“脂肪酸/界面活性剤分子集合体を用いた固体脂質ナノ粒子の作製” 化学工学会第88年会(ポスター),2023年3月15日
  2. 田口 翔悟,山本 拓司,前田 光治, “脂質ナノ粒子形成過程における界面活性剤分子の分散挙動観察(PA231)” 化学工学会 第54回秋季大会,2023年9月12日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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