利用報告書 / User's Reports


【公開日:2024.07.25】【最終更新日:2024.06.25】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

23WS0063

利用課題名 / Title

高密度、高配向なダイヤモンド中のNVアンサンブルの作製

利用した実施機関 / Support Institute

早稲田大学 / Waseda Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

カーボン系材料/ Carbon related materials,センサ/ Sensor,電子顕微鏡/ Electronic microscope,X線回折/ X-ray diffraction


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

川原田 洋

所属名 / Affiliation

早稲田大学 基幹理工学部 電子物理システム学科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

上田真由,淺野雄大,阿部和実

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

WS-011:電界放出型 走査電子顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

NVセンターはダイヤモンド結晶中の置換型窒素(Nitrogen)とそれに隣接する原子空孔(Vacancy)から構成される結晶欠陥のことである.負電荷を持つNVセンターは,工学的に検出可能なスピン特性と長いコヒーレンス時間から,量子コンピューターや磁気センシングのプラットフォームとして期待される.
ダイヤモンドの作製方法には大きく分けて,高温高圧(HPHT)法と化学気相成長(CVD)法の2種類がある.これまで我々は,CVD法の中でもマイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)法を用いて高濃度かつ高品質な窒素ドープダイヤモンドを作製し,NVセンターの評価を行ってきた.その結果,世界最高濃度のNVアンサンブルの作製に成功している[1].そこで,さらに高密度なNVセンターを作製するために,他のCVD法の検討を行った.本研究ではCVD法の1つである燃焼炎法をさらに改良したチャンバーフレーム法により窒素ドープダイヤモンドを作製し,その評価を行った.

実験 / Experimental

燃焼炎法は1988年に広瀬によって考案された酸素とアセチレンを用いたダイヤモンドの合成方法である[2].ダイヤモンドの合成時に電力を必要とせず,大気開放中での合成が可能であるという特徴を持つ.しかしながら,大気開放下での合成には不純物制御が困難であるという課題があった.そこで,竹内が燃焼炎法を改良し,大気を遮断したチャンバー内(図1)で合成することで不純物制御を可能にした.この方法をチャンバーフレーム法と呼ぶ[3].チャンバーフレーム法最大の特徴は,結晶性の良いダイヤモンドを合成できる点である.チャンバーフレーム法でホモエピタキシャル成長させたアンドープダイヤモンドのF/A比は625であり,他の合成方法で作製したダイヤモンドと比較しても極めて高い値となっている[4].これまでチャンバーフレーム法をもちいて窒素ドープダイヤモンドを作製し,NVセンターの評価を行った例はない.
窒素ドープダイヤモンドの合成条件を表1に示す.原料ガスには酸素,アセチレン,窒素を使用し,窒素の流量を25 [sccm],50 [sccm],100 [sccm]の3条件に設定し合成を行った.なお,基板の合成は日本工業大学の竹内貞雄教授と佐藤勇斗氏によって行われた.基板には(001)配向のHPHTダイヤモンドを用いた.WS-011のSEM,XRD装置,共焦点レーザー顕微鏡を用いて合成したダイヤモンドの測定を行った.

結果と考察 / Results and Discussion

図2に各基板のSEM画像を図3に単結晶領域のX線回折測定結果を示す.SEM画像より,基板の外郭部分には単結晶ダイヤモンドが成膜されている一方で,中央部分は多結晶ダイヤモンドとなっている.また,X線回折測定からも,外郭部分は単結晶であると裏付けられた.この部分的な膜質の低下は成膜時の窒素の供給が原因であると考えている.
次に(113)面非対称逆格子マップ測定を行い,結晶の成長面垂直方向と平行方向の結晶格子伸長を評価した(図4).これまで,我々が合成した窒素ドープダイヤモンドでは面平行方向の伸長と,面垂直方向の収縮を確認していた.しかし,本研究で窒素を100 [sccm]流して成膜した基板では,逆に1.56 [%]の面平行方向への収縮と0.32 [%]の面垂直方向への伸長を確認した.なお,この原因については現在検討中である.
また,共焦点レーザー顕微鏡を用いて各基板のNV濃度を測定した.その結果,50 [sccm]の基板では4×1016 [cm-3] ,25 [sccm]と100 [sccm]の基板では2×1016 [cm-3] であった.これらの値はas grown基板としては極めて高い値であり,チャンバーフレーム法はNVセンターの形成に有用であると言える.
最後に本研究のまとめと今後の展望を述べる.本研究ではチャンバーフレーム法を用いて窒素ドープダイヤモンドを合成し,1016 [cm-3] オーダーの高濃度なNVアンサンブルの作製に成功した.今後は,合成した基板に対する電子線照射,合成条件の最適化,より不純物をドープしやすい(111)ダイヤモンド上への成膜の3方向からのアプローチによりNVアンサンブルの高濃度化に取り組む.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


表1 合成条件



図1 燃焼炎法とチャンバーフレーム法



図2 SEM画像



図3 X線回折測定(単結晶領域)



図4 (113)面非対称逆格子マップ測定と結晶格子伸長率


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

[謝辞]本研究は文部科学省・量子飛躍フラグシッププログラム(Q-REAP)JPMXS0118068379の助成を受けたものである.
[1]K.Hayasaka, H. Kawarada et al.,PREPRINT (Version 1) https://assets.researchsquare.com/files/rs-2744565/v1/fdbf4ea2-f266-4334-91ef-aadce9842155.pdf?c=1680890519,(2023).
[2]広瀬洋一,表面技術, 42,p.1212-1216(1991). 
[3]竹内貞雄,村川正夫,精密工学会誌,59,2, p.263-268 (1993).
[4]T. Tsutsumi, S. Takeuchi, M. Murakawa, H.Kawarada, Japan New Diamond Forum, pp. 363-366 (1994).


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. M. Ueda, Y. Asano, K. Abe, Y. Sato, S. Takeuchi, H. Kawarada,” Fabrication of NV Center by Chamber Flame Synthesis,” 3rd International Symposium on Design & Engineering by Joint Inverse Innovation for Materials Architecture(DEJl²MA 2023), International Conference Center – Waseda University, Tokyo, Japan, Oct. 20, 2023 (Poster)
  2. 阿部和実, 上田真由, 淺野雄大, 谷井孝至, 佐藤勇斗, 竹内貞雄, 小野田忍, 川原田洋,”チャンバーフレーム法で合成したダイヤモンドへのNVセンターの作製”, 第37回ダイヤモンドシンポジウム, 東海大学 湘南キャンパス(神奈川県), 2023年11月14日-16日 (ポスター, 2023年11月14日)
  3. 阿部 和実, 上田 真由, 淺野 雄大, 臼井 俊太郎, 谷井 孝至, 佐藤 勇斗, 竹内 貞雄, 川原田 洋, "チェンバーフレーム法によるダイヤモンドへのNVセンターの作製", 第84回応用物理学会秋季学術講演会, ハイブリッド開催(熊本城ホール・熊本市民会館・熊本市国際交流会館・TKP熊本カンファレンスセンター(熊本)+ オンライン), 2023年9月19日-23日(口頭, 2023年9月21日)
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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