【公開日:2024.09.04】【最終更新日:2024.09.04】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22KT0034
利用課題名 / Title
有機薄膜太陽電池材料の相分離構造評価
利用した実施機関 / Support Institute
京都大学 / Kyoto Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
外部利用/External Use
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)-
キーワード / Keywords
電子顕微鏡/Electron microscopy,太陽電池/ Solar cell
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
稲元 伸
所属名 / Affiliation
株式会社東レリサーチセンター
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
川崎 直彦,大塚 祐二
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
治田 充貴
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),共同研究/Joint Research
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
KT-403:モノクロメータ搭載低加速原子分解能分析電子顕微鏡
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
近年、有機薄膜太陽電池(OPV)の発電効率が著しく向上しており、カーボンニュートラル社会を見据えた次世代の太陽電池デバイスとして、研究開発が盛んに行われている。OPVの発電性能はバルクヘテロ構造と呼ばれるドナーとアクセプターの相分離構造に強く影響を受けることが知られている。ドナーとアクセプターは数十~数百nmのドメインを形成しているため、このような相分離構造を可視化するためには電子顕微鏡が重要なツールになり得る。しかしながら、共に有機成分であるため、電子散乱コントラストが付きにくく、電子顕微鏡による相分離構造可視化が難しいという課題がある。本研究では、モノクロメータ付走査透過型電子顕微鏡法(STEM)-電子エネルギー損失分光法(EELS)を用いて、最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のギャップ近傍領域の高エネルギー分解能EELSスペクトルイメージを取得し、データを詳細に解析することにより、ドナーとアクセプターの相分離構造の可視化に成功した。
実験 / Experimental
測定用試料としてPM6とY6をそれぞれドナーとアクセプターに用いたOPV発電層薄膜を用いた。PM6とY6を有機溶媒に溶解させ、ガラス基板上にスピンコート法により厚さ100 nm程度の薄膜を作製した。製膜した薄膜をガラス基板から剥離させ、TEM観察用メッシュに担持させたものを測定試料とした。 測定には京都大学が保有するモノクロメータ搭載低加速原子分解能分析電子顕微鏡(日本電子 JEM-ARM200F)を使用した。EELSのエネルギー分解能を向上させるために、加速電圧は60 kVで測定を実施した。
結果と考察 / Results and Discussion
PM6とY6の混合試料の測定の前に、まずはそれぞれの単一膜試料についてEELSスペクトルを取得した。有機材料は電子線照射によって容易に電子状態が変化してしまうので、電子線照射量を低減させた低ドーズ条件で測定を実施した。Fig. 1(a)に取得した各試料のEELSスペクトルを示す。PM6及びY6のHOMO-LUMOギャップである1.81 eV及び1.33 eV近傍から各々ピークが立ち上がっており、試料本来の電子状態を反映したEELSスペクトルが取得できていると考えられる。このような低エネルギー損失領域のピークは、従来EELS装置ではエネルギー分解能が不足しているため捉えることが困難である。一方で、本測定ではモノクロメータ付EELSを用いることによりエネルギー分解能が1桁向上したため、ピークを明瞭に検出できている。これらのスペクトルをを参照スペクトルとして、PM6とY6の混合膜のEELSスペクトルイメージを多重線形最小二乗法(MLLS)フィッテングした結果、Fig. 1(b)に示したようにPM6(黒色部分)とY6(白色部分)の分布をマッピングすることに成功した。本測定解析手法を用いて、製膜条件が異なる2試料を比較することで、各試料の発電効率と矛盾しない相分離構造を可視化することができた。このような評価はより高性能なOPVデバイスの開発に大きく寄与できると考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
Fig. 1(a):PM6とY6の単一膜から取得したモノクロEELSスペクトル、 (b):モノクロEELSスペクトルイメージに対してMLLSフィッティングすることで得られたPM6(黒色)とY6(白色)の混合膜のEELSマップ
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
測定の際にご指導を頂いた、京都大学化学研究所先端ビームナノ科学研究センター 倉田博基教授、治田充貴准教授に感謝申し上げます。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
- 稲元伸, 上原史也, 大塚祐二, "DPC STEMによる有機薄膜太陽電池材料の無染色構造解析",第65回日本顕微鏡学会シンポジウム(2022年11月5~6日)
- 稲元伸, 川崎直彦, 治田充貴, 倉田博基, 大塚祐二, "モノクロメータ付STEM-EELSを用いた有機薄膜太陽電池の相分離構造・化学状態解析", 第79回日本顕微鏡学会学術講演会(2023年6月26日)
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件