利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.07.28】【最終更新日:2023.04.24】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22CT0139

利用課題名 / Title

アルキニルスズの活性化を駆動力とする新規アレニリデン錯体の発生と触媒反応への応用

利用した実施機関 / Support Institute

公立千歳科学技術大学

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者)/Internal Use (by ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

核磁気共鳴装置,液体クロマトグラフ質量分析,核磁気共鳴/Nuclear magnetic resonance,核磁気共鳴/Nuclear magnetic resonance,質量分析/Mass spectrometry,質量分析/Mass spectrometry


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

堀野 良和

所属名 / Affiliation

公立千歳科学技術大学理工学部応用化学生物学科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

森 大翔,平野 晴也,中川 翔太,小田 瑞季,夏堀 歩,武隈 夏鈴,宮﨑 萌美

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

CT-005:核磁気共鳴装置(NMR)
CT-028:液体クロマトグラフィー質量分析計(LC/MS)


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

アルキンの活性化を駆動力とする分子変換反応では,金カルベノイド中間体を経る興味深い反応(不斉シクロプロパン化反応やsp3C–H結合挿入反応)が開発され,金−炭素結合の結合様式やその電子状態に対する理解も深まってきている。これまでに,アルキリデン金(図1a)中間体やビニリデン金中間体(図1b)を経由する触媒的分子変換反応が開発されてきた。一方,アレニリデン金錯体(図1c)の化学的性質の解明,ならびにその合成化学的利用に関する研究は黎明期にある。そのため,アレニリデン金(I)錯体の発生法と化学的性質に関する知見は未だ十分ではない。本研究課題では,官能基許容性の高いアレニリデン金(I)中間体の新規発生法を新規に開発し,触媒的分子変換反応の創出を目的とした。

実験 / Experimental

様々な配位子を有する金クロリド錯体と銀塩を加えることで一価のカチオン性金錯体を発生させ触媒に用いた。一価のカチオン性金錯体存在下,トリブチルスズが置換したプロパルギルアセテートと様々なアルケンとの反応を検討した。

結果と考察 / Results and Discussion

  一価のカチオン性金触媒存在下,トリブチルスズが置換したプロパルギルエステル1aとスチレンとの反応を行ったところ,ビニリデンシクロプロパン誘導体2aがジアステレオマーの混合物として得られた(Table 1, entry 1)。本反応では,金錯体上の配位子の電子的な影響は大きく受けないことがわかった(entries 1–4)。一方,金カチオンの対アニオンの影響は大きく,カチオン性の強い金触媒が適していた(entries 1 and 5)。鋭意検討の末,反応濃度が0.04 Mのときに最も良い収率で2aを与えることがわかった(entries 6–9)。本反応は銀触媒のみでは進行しなかったことから,カチオン性金触媒が真の触媒活性種である(entry 10)。  様々なスチレン誘導体との検討を行った(Scheme 1a)。本反応は,スチレン誘導体の電子的な影響を大きく受けることがわかった。例えば,スチレン誘導体のパラ位に電子求引性基が置換したものでは反応が首尾良く進行し2b2cをそれぞれ与えたが,電子供与性基であるメトキシ基が置換したスチレン誘導体では生成物2dが得られなかった。さらに本反応は,ジェミナル位にフェニル基が置換したスチレン誘導体や内部アルケンを有するスチレン誘導体でも進行し,シクロプロパン化生成物2f2iをそれぞれ与えた。いずれの反応においても生成物はジアステレオマーの混合物として得られ、計算化学の結果からアンチ体が主生成物とわかった。興味深いことに,アルキリデン金中間体を経由するアルケンのシクロプロパン化反応ではスチレン誘導体以外のアルケンでも反応が進行するのに対し,本反応はスチレン誘導体以外のアルケンでは進行しなかった(Scheme 1b)。これは反応機構を考察する上で重要な知見となった。次に,基質の置換基(R1)について検討した(Scheme 1c)。置換基(R1)の芳香族環上に電子供与性基であるメトキシ基が置換した場合には生成物2jが得られなかった。対照的に,電子求引性基が置換した基質ではシクロプロパン化反応が進行し,2kおよび2lがそれぞれ得られた。しかしながら,電子求引性基が強すぎると収率の低下を招く結果となった。置換基(R1)のオルト位にアルケンやアルキンが置換した場合でも首尾良く反応が進行し,所望の生成物2nおよび2oがそれぞれ得られた。一方,置換基(R1)がビニル基やヘテロアリール基の場合には目的生成物2pおよび2qは得られなかった。後述するように(式1,2),アルキル基が置換した基質の場合にはアセトキシ基の代わりにピバロイル基を用いると良いこともわかった。アルキル基が置換した基質の反応については現在,検討を継続している。  反応機構に関する知見を得るために,重水素でラベル化したスチレン誘導体との検討を行った(式1,2)。β-cis -スチレン- d誘導体と3との反応を行ったところアルケンの立体化学を保持した生成物cis-2rのみが得られた(式1)。同様に,β-trans-スチレン- d誘導体との反応を行ったところtrans-2rのみが得られた(式2)。また,反応終了後に回収したβ-cis -スチレン- dβ-trans-スチレン- dはいずれも異性化していなかった。  以上の結果をもとに,現時点で想定している反応機構を以下に示す(Scheme 2)。基質1aのアルキンをカチオン性金触媒が活性化し,ビニルカチオン中間体Aが生じる。次に,金からの逆供与とスタニル基(SnBu3)の分子内1,2−移動が連続的に進行することで金ビニリデン中間体Bが形成される。さらに,中間体Bからスタニル基とアセトキシ基が立体特異的に脱離反応を起こすことでアレニリデン金中間体Cが生成される。ここで生成したアレニリデン金中間体Cは,反応系中のスチレンと協奏的な機構で反応することでシクロプロパン化生成物2aを与える(Schemes 2a and 2b)。しかし,Scheme 2aとScheme 2bに示すようなスチレンの接近で考えると,ジアステレオ選択性を上手く説明することができない。そこで,現在,計算化学を用いてスチレンの接近が正しいか求めている。以上,本研究では,アレニリデン金中間体を経由するアルケンのシクロプロパン化反応を世界に先駆けて開発することができた。また,本シクロプロパン化反応が協奏的な機構で進行する重要な知見も得ることができた。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1



Table. 1



Scheme 1



Eq. (1)



Eq. (2)



Scheme 2


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)



成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 森大翔,中川翔太,是永敏伸,堀野良和,”金触媒を用いたアルケンのシクロプロパン化反応によるビニリデンシクロプロパン誘導体の合成”日本化学会第103春季年会(2023)(千葉),令和5年3月27日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

スマートフォン用ページで見る