利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.07.31】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22AE0022

利用課題名 / Title

軟X線分光を用いた強磁性トポロジカル界面状態・磁性ワイル半金属物性の解明

利用した実施機関 / Support Institute

日本原子力研究開発機構 / JAEA

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

Photoemission spectroscopy, topological state, Spintronics


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

小林 正起

所属名 / Affiliation

東京大学 大学院工学系研究科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

関祐一,稲垣洸大,武田崇仁

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

竹田幸治,藤森伸一

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

AE-007:軟X線光電子分光装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

電子の「電荷」と「スピン」を組み合わせるスピントロニクスは、「電荷」の自由度を用いている現在のエレクトロニクスを発展させる、次世代のエレクトロニクスとして期待されている。特に半導体スピントロニクスは、既存の半導体技術つまり半導体結晶成長やプロセス技術との親和性が高く、量子情報技術や量子物性を実用デバイスへ応用するために重要となる。本研究課題では、スピントロニクス物質として注目を集めるトポロジカル絶縁体やワイル半金属の電子状態を調べることにより、それらのデバイス応用へ向けた新奇強磁性物質の基礎物性の解明を目的とする。Weyl 量子輸送特性を示す超高品質SrRuO3薄膜における共鳴光電子分光測定から、膜厚に依存して価電子帯における準粒子ピーク強度が減少する振る舞いが観測された。この結果は、量子輸送特性が膜厚に依存することを示しており、物性理解やデバイスデザインにおいて重要な結果であると考えられる。

実験 / Experimental

測定には、SPring-8重元素科学ビームライン(BL23SU)の光電子分光装置を用いた。測定した試料は、膜厚を制御した超高品質SrRuO3薄膜である(膜厚1–5 nm)。光電子分光測定は、温度T = 30 Kで行い、450~1250 eVの入射光エネルギーを用いた。エネルギー分解能は約140­–300 meVである。

結果と考察 / Results and Discussion

SrRuO3薄膜は垂直磁化を持つ金属強磁性体である。近年、若林らは[Y. K. Wakabayashi et al., APL Materials 7, 101114 (2019).]、機械学習を利用した分子線エピタキシー(MBE)法により超高品質の強磁性酸化物SrRuO3薄膜の作製に成功し、この薄膜においてバンドのトポロジーに起因したWeyl Fermion による量子振動や磁気抵抗などの量子輸送物性を観測した[K. Takiguchi et al., Nat. Comm. 11, 4969 (2020).]。これまでにSrRuO3 を用いた酸化物スピントロニクスデバイスの研究例も報告があり[H. Boschker et al., Phys. Rev. X 9, 011027 (2019).]、SrRuO3は酸化物エレクトロニクスにおいてWeyl 量子輸送特性を利用したデバイスへの候補物質として期待されている。  
図1(a)は膜厚を制御したSrRuO3薄膜における光電子分光測定で観測されたRu 3dおよびSr 3p内殻スペクトルを示す。Sr 3pのスペクトルは膜厚にはほぼ依存していない一方で、Ru 3dスペクトル、特にRu 3d5/2に現れる鋭いピーク構造であるWell-screened (WS)ピーク強度が、膜厚により若干、変化する様子が観測された。WSピークは、電気伝導を担うRu 4d準粒子による遮蔽効果に由来しており、WSピークの強度はSrRuO3の伝導度を反映していると考えられる。60 nmと10 nmではほぼWSピークに変化はないが、5 nmになると強度は減少した。図1(b)は同試料で観測された価電子帯スペクトルを示す。フェルミ準位近傍では、準粒子ピークと呼ばれる鋭いスペクトル形状が観測された。準粒子ピーク強度は伝導を担う電子状態を反映している。内殻スペクトル(図1(a))のWSピークと同様に、準粒子ピーク強度は5 nmになると減少している様子が観測された。この実験結果は、WSピーク強度が電気伝導特性と関係していることを示唆し、膜厚の減少によりSrRuO3の量子輸送特性が抑制されることを示している。この原因としては、基板との界面散乱の影響や、膜厚の極薄化による有効電子相関効果の増大が原因と考えられる。今後はさらに膜厚を薄くすることで、膜厚によりコヒーレント状態が消失する原因を解明する。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. 膜厚を変えたSrRuO3薄膜における光電子分光測定結果.膜厚は5, 10, 60 nm. (a) Ru 3dおよびSr 3p内殻スペクトル.(b) 価電子帯スペクトル.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

BL23SUでの実験に関して、原子力研究機構の竹田幸治氏、藤森伸一氏、にご支援いただいた。本研究の一部は、スピントロニクス学術研究基盤と連携ネットワーク拠点の支援を受けて行われた。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Yuki K. Wakabayashi, Isotropic orbital magnetic moments in magnetically anisotropic SrRuO3 films, Physical Review Materials, 6, (2022).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevMaterials.6.094402
  2. Takahito Takeda, Development of magnetism in Fe-doped magnetic semiconductors: Resonant photoemission and x-ray magnetic circular dichroism studies of (Ga,Fe)As, Physical Review B, 105, (2022).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevB.105.195155
  3. M. Suzuki, Magnetic anisotropy of the van der Waals ferromagnet Cr2Ge2Te6 studied by angular-dependent x-ray magnetic circular dichroism, Physical Review Research, 4, (2022).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevResearch.4.013139
  4. Yuki K. Wakabayashi, Single-domain perpendicular magnetization induced by the coherent O 2p -Ru 4d hybridized state in an ultra-high-quality SrRuO3 film, Physical Review Materials, 5, (2021).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevMaterials.5.124403
  5. Hiroyasu Yamahara, Flexoelectric nanodomains in rare-earth iron garnet thin films under strain gradient, Communications Materials, 2, (2021).
    DOI: https://doi.org/10.1038/s43246-021-00199-y
  6. Le Duc Anh, Ferromagnetism and giant magnetoresistance in zinc-blende FeAs monolayers embedded in semiconductor structures, Nature Communications, 12, (2021).
    DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-021-24190-w
  7. Masaki Kobayashi, Minority-spin impurity band in n -type (In,Fe)As: A materials perspective for ferromagnetic semiconductors, Physical Review B, 103, (2021).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevB.103.115111
  8. K. Yamagami, Itinerant ferromagnetism mediated by giant spin polarization of the metallic ligand band in the van der Waals magnet Fe5GeTe2, Physical Review B, 103, (2021).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevB.103.L060403
  9. Masaki Kobayashi, Alternation of Magnetic Anisotropy Accompanied by Metal-Insulator Transition in Strained Ultrathin Manganite Heterostructures, Physical Review Applied, 15, (2021).
    DOI: https://doi.org/10.1103/PhysRevApplied.15.064019
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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