利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.04.27】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22UE5271

利用課題名 / Title

スピロビラジカル分子における分子内強磁性的相互作用のスピロ原子依存性

利用した実施機関 / Support Institute

電気通信大学

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies

キーワード / Keywords

ESR,スピントロニクスデバイス/ Spintronics device


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

金友 拓哉

所属名 / Affiliation

東京理科大学理学部第一部化学科

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

小川真一,榎本真哉

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

桑原 大介,北田 昇雄,松橋 千尋,石田 尚之

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術補助/Technical Assistance


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UE-008:電子スピン共鳴装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

複数の不対電子を持つ分子性磁性体において、分子構造の対称性と分子軌道はスピン状態を決定する上で重要な因子である。本研究では、D2d対称性を持つスピロ分子に着目した。本化合物では、2つの環構造に1つずつ不対電子が存在するとき、単一占有軌道(SOMO)の軌道対称性と分子構造の対称性の双方を考慮することで、スピンが平行(強磁性的)もしくは反平行(反強磁性的)と理論的に予測できる。実際、我々は分子内強磁性的相互作用の発現すると予想されるスピロビアクリジン-N,N'-ジオキシル(SBDO-C)が固体・溶液状態でそのような挙動を示すことを観測してきた。このような背景を受けて、本研究では、スピロ化合物における分子内相互作用の大きさを決定する要因の探索を次なる目的とした。具体的には、これまで実験的な議論が乏しいスピロ中心が相互作用に与える影響について調査する。先に紹介したSBDO-Cのスピロ中心をSiおよびGeに置換した化合物を合成し、温度可変電子スピン分光(ESR)測定から分子内相互作用の性質および大きさを評価し、それら相互作用と分子構造および構成元素の相関を明らかにする。

実験 / Experimental

実験は(申請者グループで予め合成した)対象化合物SBDO-Siおよび-Geについて、液体ヘリウム温度(4 Kほど)から100 Kまで温度を変化させたESR測定(X-band)を行った。試料はトルエン溶液(0.1 mM)とし、脱気後に試料管を封緘したものを用いた。

結果と考察 / Results and Discussion

化合物SBDO-SiおよびGeのトルエン溶液を用いたESR測定(10-100 K)を実施した。10 K以下の測定では線形にノイズが多く含まれ解析が困難であった。図1に示す100 Kの測定結果より、両化合物共に、ゼロ磁場分裂構造に由来するスペクトルを観測した。先行研究(Org. Lett., 2019, 21, 3909.)と同様、D2d対称性(E = 0)とD2対称性(E ≠ 0)の和スペクトルであった。また、スペクトル中央にはモノラジカル由来のピークも観測した。得られたスペクトルを元にゼロ磁場分裂構造定数|D|/hcを算出すると、SBDO-SiおよびGeはそれぞれ7.06x10-3と6.12x10-3 cm-1であった。これらの値から点電荷近似を用いてスピン間距離を算出すると、7.2と7.5 Åと求められた。これらの値は事前に実施したDFT計算(ub3lyp/6-3111+g(2d,p)//b3lyp/6-31+g(d,p))の結果から見積もられたラジカル中心間距離を再現した。次に、100 Kから10 Kまで温度を変えてESR測定を行った(図2)。スペクトルが複雑なため、スペクトルのピーク強度の温度依存性から分子内磁気的相互作用の定量的な解析を試みた。その結果、SBDO-Siおよび-Geでは-19.7(5) Kと-25(1) Kと見積もられた。これらは反強磁性的相互作用を示しており、先行研究およびDFT計算の結果と矛盾していた。この結果から2つの可能性が考えられる。1つは、実際に基底1重項であり、理論計算では考慮できていない因子があるのかもしれない。もう1つは、試料溶液の濃度が適切ではなく、分子内ではなく分子間の相互作用が強く働いている可能性である。後者について、ニトロキシド化合物の溶液状態では二量化形成は比較的よく見られることから、十分考慮すべき要因と言える。本要因は、試料溶液を希薄にすることで解消できるため、溶液濃度を複数用意した上で、再度温度可変ESR測定を行う必要がある。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. 化合物SBDO-Si(左)及び-Ge(右)のESRスペクトル(100 K, 脱気トルエン溶液)



図2. 化合物SBDO-Si (左) と-Ge (右) のESRスペクトルの温度依存性


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 小川真一、金友拓哉、榎本真哉, "基底三重項スピロビラジカルのスピロ原子置換効果", 日本化学会第103春季年会, 令和5年3月24日
  2. 小川真一、金友拓哉、榎本真哉, "スピロビラジカルにおける分子内強磁性的相互作用のスピロ原子依存性", 第32回基礎有機化学討論会, 令和4年9月21日
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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