利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2023.07.28】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22OS1056

利用課題名 / Title

量子・X線ビーム技術および数理モデルの統合による抗う蝕性イオンの動態解析

利用した実施機関 / Support Institute

大阪大学

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)その他/Others(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

生体材料,歯科材料,赤外・可視・紫外分光/Infrared and UV and visible light spectroscopy


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

内藤  克昭

所属名 / Affiliation

大阪大学

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

岡本 基岐

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),技術補助/Technical Assistance


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

OS-127:レーザーラマン顕微鏡


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

実験 / Experimental

本研究は,大阪大学大学院歯学研究科倫理審査委員会の承認を得て,臨床現場で得られた試料を使用した(H30-E36).患者は65歳,上顎左側犬歯の疼痛を主訴に大阪大学歯学部附属病院保存科を受診.打診,根尖部圧痛などの臨床所見およびX線検査から,歯内‐歯周病変を疑い精査のため根管治療を開始した.ラバーダム防湿下で歯科用マイクロスコープ(OPMI® pico, Carl Zeiss, Germany)を用いて根管内を観察したところ,#80を超える根尖部の開大を認めたため,水酸化カルシウム製剤(Vitapex, ネオ製薬工業)を根管内に貼薬し,Apexificationを実施した.3ヶ月後に根管内所見およびX線検査から根尖部の透過像は消失し、硬組織形成を認めたものの広範囲のセメント質剥離を起因とした歯肉腫脹を認めたため,保存困難と判断し,抜歯に至った.抜去歯を下記分析まで2.5% 次亜塩素酸ナトリウム水溶液で3分浸漬させた後,十分量の生理食塩水で洗浄し、4℃ 下で10 mlの生理食塩水中に浸漬保管した.
抜去歯の硬組織形成を確認するためにマイクロCT(R_mCT, Rigaku)による3次元撮影を行い,根尖部に歯質とは異なる輝度をもつ組織の形成を確認した.この組織を分析するために,抜去歯を70%エタノールから順に100%まで浸漬し,脱水を行った後にエポキシ樹脂に包埋した.樹脂包埋した試料を歯軸方向に沿って精密切断機(Isomet, Buehler, Germany)で切断し,表面を耐水ペーパーおよびバフによる鏡面研磨を行った.この試料の結晶相を解析するためにレーザーラマン分光法(RAMANtouch, nanophoton)を行った.ピークの推定のために,標準試料として炭酸カルシウム,水酸化カルシウム,ハイドロキシアパタイト,貼薬に用いたvitapex,apexificationで使用されるProRoot®MTA (Dentsply Sirona, USA)を測定した.ラマン分光法で得られたデータは,RAMANviewer (nanophoton)を用いて解析した.

結果と考察 / Results and Discussion

ラマン分光法より,歯髄側で形成された組織は449.0 cm-1と964.3 cm-1にピークを認め,ハイドロキシアパタイト様の構造が部分的に存在することが推定された.また根尖側では炭酸カルシウムを特徴とするピーク(282.3cm-1, 1087 cm-1)とZoisiteに特有のピーク(494.2 cm-1)を認めた.またいずれの部位においてもコラーゲン線維のピークを認めた.標準試料と比較すると,ハイドロキシアパタイトと炭酸カルシウムに起因するピークは根尖部硬組織で一致する部位を認めたが,その他に関しては同様のピーク位置を確認することができず,上記の2物質に類似する構造であることが示唆された.周囲の象牙質との比較においても,根尖部硬組織は異なるピーク位置を示した.炭酸カルシウムの合成はCO32-存在下で生じるため,pHの低下を伴うことが知られている1.ハイドロキシアパタイトはpH 10程度であることが知られており2,Vitapex近くでは高いpHが維持されたことでハイドロキシアパタイトが生成されたが,根尖側では根尖孔外の慢性炎症によってpHの低下が生じ,炭酸カルシウムが生成されたことが示唆された.またどの部位でもコラーゲン線維に起因するアミド基のピークが存在することから,硬組織形成において重要な役割を担っている可能性が考えられた.
本研究結果より,生体内での硬組織形成は一様ではなく,非晶質な結晶を含めた不純物に富んだ結晶が生成されたため,さらなる微細領域での結晶構造の探索や,2次元マッピングによる局在の評価によって,硬組織形成メカニズムを解明する予定である.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Fig. 1 ラマンスペクトルおよび根尖部硬組織の光学顕微鏡画像.画像内の+は,ラマンスペクトルを取得した部位を示す.画像左側は,根尖側を示しており,右側は歯髄側を表す.上下に見える構造は,歯根象牙質である.なおコントロールとして,健全象牙質を測定した(Sound dentin).炭酸カルシウムに特徴的なピークである282.3 cm-1, 715.0 cm-1, 1087.2 cm-1は (a), (b) で鋭いピークを認める.(f)においてはハイドロキシアパタイトに特徴的なピーク(449.0 cm-1, 964.3 cm-1)を認めた.



Fig 2. 標準試料のラマンスペクトル


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

1. Mihiro Takasaki, Yuki Kezuka, Masahiko Tajika, Yuya Oaki, and Hiroaki Imai, ACS Omega 2017;2 (12), 8997-9001
2. Manuel CM, Ferraz MP, Monteiro FJ, KEM 2003;240–242:555–8.


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 内藤克昭,岡本基岐,木ノ本喜史,林美加子,”永久歯のApexificationにて形成された根尖部硬組織に対する化学的分析”,第44回日本歯内療法学会学術大会,2023年7月,発表
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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