利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.07.28】【最終更新日:2023.10.23】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22NM0080

利用課題名 / Title

反強誘電体Pb(Mg,W)O3系物質の結晶構造解析

利用した実施機関 / Support Institute

物質・材料研究機構 / NIMS

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

X線回折/X-ray diffraction,セラミックスデバイス/ Ceramic device


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

廣瀬 左京

所属名 / Affiliation

株式会社村田製作所

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)技術代行/Technology Substitution(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NM-204:多目的X線回折装置_Cu_SSL


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

近年、HFC等の冷媒(温室効果ガス)を使用しない高効率冷却技術として固体熱量効果が注目されている[1]。我々は固体熱量効果の中でも強誘電体に見られる電気熱量効果に着目し、材料、素子そしてシステムの研究開発を行っており、これまでに強誘電体であるPbSc0.5Ta0.5O3 (PST)において5.5 Kにも達する巨大な熱量効果を実現し報告してきた[2]。また最近、反強誘電体であるPbMg0.5W0.5O3(PMW)[3]に着目し、PMWにおいても強電界を印加することでPSTと同等の熱量効果を示すことを明らかにした。そこで本研究ではPMWとPMWとPSTの固溶体物質において、その結晶構造がどの様に変化するのかについて調べるため、相転移前後の温度で粉末X線回折(XRD)測定を行った。

実験 / Experimental

本研究では、以下の4つの試料を準備し測定した。(1-x)PMW-xPST
・PMW (x=0)
・0.9PMW-0.1PST (x=0.1)
・0.8PMW-0.2PST (x=0.2)
・0.6PMW-0.4PST (x=0.4)
原料として高純度のPb3O4、Sc2O3、Ta2O5、MgWO4を使用し、所望の組成になるように秤量した後、部分安定化ジルコニアボール(PSZ)を用いて粉砕混合を行った。その後、乾燥、整粒した後に850℃で仮焼し、シート成形用の原料とした。仮焼粉と有機溶剤、バインダーを混合し、シート成形用のスラリーを作成し、ドクターブレード法によりグリーンシートを作成した。グリーンシートを約0.6mmの厚みになるように積層、圧着し、12x12mm角にカットしてグリーンチップを作成した。その後、500℃の温度で脱バインダー処理を行い、Pb雰囲気で950℃-1050℃で4時間焼成してXRD測定用試料とした。測定は物質・材料研究機構が保有するHyPix-3000検出器とTTK 600温度可変チャンバーが備え付けられたSmartlabを用いた。

結果と考察 / Results and Discussion

図1に示すようにPMWとPSTの比率を変えることにより誘電率の温度依存性が変化し、(1-x)PMW-xPSTの組成式で示した場合、強誘電体であるPST (x=1)からPMW比率が増える(xが小さくなる)に従って誘電率のピークが低温にシフトし、x=0.4から0.2、0となるに従って、再度高温度側にシフトする。そのプロファイル形状に着目するとxが0.4から1までは誘電率が比較的大きく、強誘電体によく見られる温度プロファイルとなっているが、x=0.2とx=0 (PMW)では誘電率が小さく、プロファイルが異なっている。ここでは示さないが電気分極特性を評価した結果、x=0.2とx=0 (PMW)は反強誘電体に特徴的なダブルヒステリシスループが見られ、x=0.4からx=1 (PST)では強誘電体(リラクサー)に特徴的なヒステリシスループが見られた。しかし、境界であるx=0.4周辺は結晶構造解析などの検証が不可欠であると考える。次に、温度を変えながら測定したXRDプロファイルを図2、図3に示す。図2からすべての組成においてほぼ単相であること、測定した最低温度では図3に示すようにx=0, 0.2, 0.2 の試料ではOrthorhombic相に帰属できる明瞭な回折を確認することができた。つまりOrthorhombic相への転移が確認できたx=0(PMW)、0.1、0.2はPMWの反強誘電相と同じ構造となっており、反強誘電体であると結論付けられる。しかしx=0.4の組成では図3からは明瞭なOrthorhombic相への転移を示唆する回折が確認できなかった。したがって、本結果からx=0.4の組成は反強誘電体ではなくリラクサー強誘電体の可能性が示され、x=0.3~0.4の間に反強誘電体と強誘電体相の相境界が存在していることが明らかになった。今後は細かな温度ステップでの温度依存測定や相境界周辺の組成を有する試料を作成し、詳細な相図を作成して電気熱量効果との相関を検証していく予定である。 

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1 (1-x)PMW-xPSTの誘電率の温度依存性(1 kHz)



図2 (1-x)PMW-xPSTのXRDプロファイル(広範囲) (a) x=0 (PMW), (b) x=0.1, (c) x=0.2, (d) x=0.4.



図3 (1-x)PMW-xPSTのXRDプロファイル (a) x=0 (PMW), (b) x=0.1, (c) x=0.2, (d) x=0.4. 矢印はOrthorhombic相由来の回折を示す。


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

謝辞:
本研究のXRD測定およびその解析におきまして、物質・材料研究機構 材料分析ステーションの廣戸 孝信 博士に大変お世話になりました。ここに感謝の意を表します。
参考文献:
[1] S. Crossley, N. D. Mathur and X. Moya, AIP Adv. 5 067153 (2015).
[2] B. Nair, T. Usui, S. Crossley, S. Kurdi, G. G. Guzmán-Verri, X. Moya, S. Hirose and N. D. Mathur, Nature 575 468 (2019).
[3] J. Li, H. Wu, J. Li, X. Su, R. Yin, S. Qin, D. Guo, Y. Su, L. Qiao, T. Lookman and Y. Bai, Adv. Funct. Mater. 31(33) 2101176 (2021).


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Sakyo Hirose, Large conventional and inverse electrocaloric effects in PbMg0.5W0.5O3 multilayer capacitors above and below the Néel temperature, Journal of Physics: Energy, 5, 035009(2023).
    DOI: 10.1088/2515-7655/acdc53
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 廣瀬 左京・薄井 智靖・ 廣戸 孝信・ Bhasi Nair・Xavier Moya・Neil D Mathur, 反強誘電体PbMg0.5W0.5O3における巨大な正逆電気熱量効果, 公益社団法人日本セラミックス協会 第36回秋季シンポジウム
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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