利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.07.28】【最終更新日:2023.04.24】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22NM0066

利用課題名 / Title

カルシウムシリケート水和物の構造の金属イオンの吸着挙動

利用した実施機関 / Support Institute

物質・材料研究機構

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

核磁気共鳴/Nuclear magnetic resonance,核磁気共鳴/Nuclear magnetic resonance


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

大窪 貴洋

所属名 / Affiliation

千葉大学

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

大木忍,出口健三,染谷昭子

利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub),機器利用/Equipment Utilization


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

NM-103:800MHzナローボア固体高分解能NMRシステム
NM-102:500MHz固体高分解能NMRシステム


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

福島第一原子力発電所の事故により発生した放射性廃棄物処分の安全評価研究では、処分場で用いられるセメント系材料と放射性核種の相互作用の理解が求められている。セシウム等の陽イオン性の放射性核種は、セメントの主要な水和物であるケイ酸カルシウム水和物(C-S-H)に収着すると考えられる。これまで、C-S-Hへのカチオン収着試験やゼータ電位測定により、C-S-Hの化学組成の指標となるCa/Si比や液相のpHがカチオン収着量に影響することが報告されている。しかしながら、Ca/Si比の違いによるC-S-Hの構造変化とそれに関連した吸着現象は不明な点が多く、詳細な吸着機構の解明が求められている。本研究では、Csの吸着現象の解明を目的に、様々なCa/Si比のC-S-Hを単相合成し29Si MAS NMRによる構造解析を行った。さらに、合成したC-S-HへのCs収着実験を行い133Cs MAS NMRによりCs吸着サイトとその選択性の解明を試みた。

実験 / Experimental

C-S-Hの合成は、酸化カルシウム(CaO)と非晶質シリカ(SiO2)を直接水和させることにより合成した。900℃でCaCO3を脱炭酸して得たCaOおよびSiO2をCa/Si=0.83, 1.00, 1.20, 1.40(モル比)となるようにN2雰囲気下で秤量し、固液比が1:40(重量比)となるように原料粉末および超純水をポリエチレン容器内で混合して密閉し、56日間、室温で水和させることでC-S-Hを合成した。沈殿したC-S-Hを含む平衡液を固液分離し、固相を2日間、真空乾燥させ乳鉢で粉砕することでC-S-H粉末を得た。粉末X線回折および29Si MAS NMR測定によりC-S-Hの生成を確認した。 Cs収着実験は、Cs濃度で1,000, 5,000, 10,000 ppmとなるように超純水でCsI水溶液を調製し、固液比が1:100(重量比)となるようにC-S-H粉末を浸漬させて行った。浸漬期間は7日間とした。Cs収着固相を遠心分離し、真空乾燥させてCsを収着したC-S-H試料を得た。収着したCsの定量および収着前後のC-S-Hの組成分析は、試料を溶解後にICP発光または原子吸光分析により行った。29Siおよび133Cs 固体NMR測定は、9.4 Tおよび18.8 Tの磁石を用いて行った。

結果と考察 / Results and Discussion

Figure 1はCa/Si比の異なるC-S-Hの29Si MAS NMRスペクトルである。Ca/Si比の増加に伴い、Q2が減少しQ1が増加していることが確認された。ここでQnのnはSiO4ユニットの架橋酸素数を示す。この結果は、3次元的な鎖状の架橋を形成するSiO4(Q2b)が減少し、二量体Si2O7の割合が多くなり平均鎖長が短くなっていることを示している。これよりCa/Si比の増加によりシリケート鎖の平均鎖長は減少し、C-S-H層間の空間に存在するCaが増えると考えられる。 収着試験の結果、Ca/Si比の低い試料ほどCs収着量が大きい傾向が見られた。Ca/Si比の増加に伴いC-S-H構造内のシラノール基が減少し、カチオンとの親和性が低下したためと考えられる。Figure 2はCs濃度10,000 ppmのCsI水溶液を用いたCs収着実験より得られたCa/Si比の異なる乾燥C-S-H試料の133Cs MAS NMRスペクトルを示す。Ca/Si比の低い試料ではピークAのみが観測され、Ca/Si比の高い試料ではピークAに加えて低磁場側にピークBが見られ、Ca/Siに依存した吸着サイトの存在が示された。 Csの収着を調べた先行研究では、C-S-H層間のCaとCsの交換反応による吸着メカニズムが提案されている[2]。Ca/Si=0.83のC-S-Hでは、層間のCaは2つの二量体を架橋するSiO4(Q2b)に配位しており、Ca/Si比が増加するとともにSiO4(Q2b)が欠落したサイトが生じ、そのサイトにCaが配位することで二量体が連結した構造をとることが提案されている。このようなCaとCsの交換反応によりCsが吸着すると考え、ピークAをシリケート鎖の架橋SiO4(Q2b)のシラノール基(サイトA)に吸着したCs、ピークBを二量体Si2O7のシラノール基(サイトB)に帰属した。Figure 3は、Ca/Si=1.40のC-S-Hに対して得られた133Cs MAS NMRスペクトルのCs濃度依存性を示す。低いCs濃度ではピークAのみが観測され、Cs濃度が高くなるにつれピークBが観測された。これら結果より、2つの吸着サイトの選択性として、サイトAへの吸着が優先的に起こり、サイトAへの吸着が飽和することでサイトBへの吸着が起こると考えた。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Figure 1 29Si MAS NMR spectra of Calcium Silicate Hydrates (Ca/Si=0.83, 1.00, 1.20, 1.40).



Figure 2 133Cs MAS NMR spectra of C-S-H (Ca/Si=0.83, 1.00, 1.20, 1.40) dry samples obtained from Cs adsorption experiments (Cs conc.: 10,000 ppm).



Figure 3 133Cs MAS NMR spectra of C-S-H (Ca/Si=1.40) dry samples obtained from Cs adsorption experiments (Cs conc.:1,000, 5,000, 10,000 ppm).


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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