【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.16】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22UT1082
利用課題名 / Title
非磁性半導体/強磁性半導体ヘテロ接合における新規量子輸送現象の研究
利用した実施機関 / Support Institute
東京大学 / Tokyo Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)量子・電子制御により革新的な機能を発現するマテリアル/Materials using quantum and electronic control to perform innovative functions(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed
キーワード / Keywords
分子線エピタキシャル結晶成長/Molecular beam epitaxial crystal growth,走査プローブ顕微鏡/Scanning probe microscopy,核磁気共鳴/Nuclear magnetic resonance,イオンミリング/Ion milling,集束イオンビーム/Focused ion beam,X線回折/X-ray diffraction,電子回折/Electron diffraction,トポロジカル量子物質/ Topological quantum matter,スピントロニクス/ Spintronics,量子効果/ Quantum effect,スピントロニクスデバイス/ Spintronics device
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
Le Duc Anh
所属名 / Affiliation
東京大学工学系研究科
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
UT-304:極限環境下電磁物性計測装置
UT-151:集束イオン/電子ビーム 複合ビーム加工観察装置
UT-505:レーザー直接描画装置 DWL66+2018
UT-711:LL式高密度汎用スパッタリング装置(2019)
UT-504:光リソグラフィ装置MA-6
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
電子がもつ電荷とスピン自由度を両方活用できる強磁性半導体(Ferromagnetic Semiconductors, 以下FMSと称す)を開発すれば、半導体ベースの超高速不揮発性メモリや再構成可能な論理回路、柔軟な情報処理など、従来にない新しい機能をもつ次世代デバイスの創製が期待できる。FMSは非磁性半導体の一部の原子を磁性原子で置換することにより作製され、既存の半導体技術と極めて高い親和性を持つ。FMS材料では母材半導体の電子状態のエネルギーが大きくスピン分裂することに基づき、様々なスピン機能材料やデバイスが提案されてきた。室温以上の温度領域で強い強磁性状態が実現できるFMSおよびそのヘテロ接合の作製と物性制御が重要な課題であり、次世代のスピントロニクスデバイスへの道を拓けると期待される。
実験 / Experimental
本研究では、我々が分子線エピタキシャル結晶成長装置によって非磁性半導体InAs(膜厚15 nm)/強磁性半導体(Ga,Fe)Sb(膜厚15 nm、Fe濃度20%)からなる二層ヘテロ接合を作製し、その磁気伝導現象を調べた。(Ga,Fe)SbはFeを数%~25%でGaSbへ添加したことによって作製した室温FMSである。通常の物質では磁場を印加したときの電気抵抗の変化は磁場の向きを変えても全く同じであるが、作製した半導体ヘテロ構造では外部磁場(=10 T)の向きを反転させると電気抵抗が27%も変化する巨大な奇関数磁気抵抗効果(Odd-parity Magnetoresistance, OMR)を発見した。また、InAs/(Ga,Fe)Sbをチャネルとした電界効果トランジスタ構造において、ゲート電圧を印加することによってOMRの強度と符号を制御することも実証した。
結果と考察 / Results and Discussion
われわれの実験データ解析および理論モデルによって、この新しいOMRは、非磁性半導体InAs層の側面(エッジ)に形成される一次元伝導チャネルにおいて発生し、①試料端(側面)の表面ポテンシャルによる「空間反転対称性の破れ」と②隣接する強磁性半導体からの磁気近接効果による「時間反転対称性の破れ」が同時に存在することに起因していることが判明した。この現象は、対称性の破れによる巨大電磁気応答がエレクトロニクスに整合性の良い半導体ヘテロ接合で現れたことに意義があり、高感度磁気センサなど次世代のスピントロニクスや量子デバイスに応用可能と考えられる。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1 (左図)本研究で用いたInAs/GaFeSbからなるヘテロ接合。電流を担う電子の波は、InAs層中に存在し二次元電子となるが、量子力学的な効果により隣接するGaFeSb層(強磁性で磁化を持つ)と磁気的に結合し時間反転対称性の破れをもたらす。一方、InAs層の側面(エッジ)では内部電場により電子に外向きの力が働くため、電子による電流を一次元(1D)的に閉じ込め、側面に一次元的なエッジチャネルによる伝導が生じ、InAs層内の二次元的(2D)な電子伝導と共存する。この閉じ込め電場は空間反転対称性を破るので、結果としてInAs/GaFeSbの一次元チャネル中では時間反転対称性と空間反転対称性の両方が破れていることになる。(右図)これによって、このヘテロ接合における電気抵抗は外部磁場の向きを反転させると27%も変化し、巨大な奇関数磁気抵抗効果が発生した。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
本研究は、JST の CREST (JPMJCR1777) およびさきがけ (JPMJPR19LB) プログラム、UTEC-FSIプログラム、村田科学技術振興財団および日本スピントロニクス研究ネットワーク (Spin-RNJ) の支援によって行いました。 .
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
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Kosuke Takiguchi, Giant gate-controlled odd-parity magnetoresistance in one-dimensional channels with a magnetic proximity effect, Nature Communications, 13, (2022).
DOI: https://doi.org/10.1038/s41467-022-34177-w
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件