利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.08.01】【最終更新日:2024.06.27】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22QS0011

利用課題名 / Title

突合せ溶接配管の底部のひずみマップ測定

利用した実施機関 / Support Institute

量子科学技術研究開発機構 / QST

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

外部利用/External Use

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)加工・デバイスプロセス/Nanofabrication

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)その他/Others(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

溶接,残留応力,原子力,X線応力測定,二重露光法,X線回折/X-ray diffraction,放射光/Synchrotron radiation


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

鈴木 賢治

所属名 / Affiliation

新潟大学教育研究院人文社会科学系

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

三浦靖史,豊川秀訓,佐治超爾

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes

城鮎美

利用形態 / Support Type

(主 / Main)共同研究/Joint Research(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

QS-141:高温高圧プレス装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

 オーステナイト系ステンレス鋼(SUS316)の突合せ溶接配管底部の残留応力を測定した.従来,溶接部の残留応力測定は困難とされていたが,近年,SPring-8で開発された二重露光法(DEM)による測定手法を用いることで,X線応力測定の可能性が見えてきた.本課題でDEMを実施した結果,溶接底部の残留応力マップを得ることに成功した.また,中性子による応力測定と組み合わせて,今まで測定できなかった三軸応力下の残留応力の詳細なマップを得ることができた.

実験 / Experimental

【利用した装置】:高温高圧プレス装置
【実験方法】
 試験片は突合せ溶接配管(SUS316)から溶接線中心にして溶接部を取り出したものであり,板厚5 mm,幅14 mm,長さ30 mm寸法である.
 放射光実験は,SPring-8のQST専用ビームラインBL14B1にて実施した.モノクロメータにより70 keV単色X線を作り,ビームサイズの0.5×0.5 mm2の入射ビームを5 mmの板厚に透過させ回折パターンを測定した.なお,ひずみの測定方位は,配管の半径方向および軸方向の2方向である.
 溶接部のデンドライト組織からの回折角度を精度よく測定するために,BL14B1で開発してきたDEMを利用して回折角を測定した.検出器は,70 keVのX線の計数効率の高いCdTeピクセル検出器を使用した.同検出器は,検出面積は40.2×38.2 mm2,1画素の寸法は0.2×0.2 mm2である.検出面積がCdTeピクセル検出器の閾値電圧は-90 mV,露光時間は400 sとした.
 ひずみ測定にはγ-Feの311回折を使用した(Fig. 1).ひずみ測定に十分な回折パターンを測定するために,検出面積をP2においては2画面で構成し,検出器を自動ステージで移動してそれぞれ露光した.検出位置は試料面からP1位置までのカメラ長510 mmおよびその後方のP2位置までの1010 mmの2箇所で撮影した.P1からP2までの距離Lは500 mmである.

結果と考察 / Results and Discussion

  Fig. 1にP1およびP2位置で測定された回折パターンを示す.対象の回折環の測定領域は,図中で明るく示される領域である.その領域の回折環に注目すると,不連続な回折が重ね合わさり回折パターンを構成していることがわかる.これは,X線ビームの試験片中の透過経路の結晶粒の位置の違いが個々の回折位置に影響するためである.
 ビームセンターを中心としたP1およびP2位置の回折半径r1, r2を測定した結果をFig. 2に示す.図のように回折結晶粒の位置による影響で回折半径r1, r2は大きく変動し,r1, r2からひずみ測定のための回折角2θを得ることは不可能である.しかしながら,DEM で測定されたr1, r2の変動は互いに同期しており,回折半径r (= r2 r1)を使えばひずみ測定の精度が確保できた.このことから,これまで測定困難であった溶接部の残留ひずみをDEMにより十分な精度で測定できることが実証された.
 前述のDEMを利用することで,溶接部の高精度かつ詳細なひずみマップが得られ反面,放電加工で切り出された試験片は,平面応力状態になる.すなわち,周方向の残留応力が解放されているので,放射光により得られる詳細な応力マップは,三軸応力状態の実応力とは異なる.これを解決する手段として,平面ひずみを仮定して,中性子測定で得られた三軸残留応力を分布から周方向の応力σhのマップと放射光の詳細なひずみマップを合わせて,より詳細な三軸応力状態を求める「量子ビームハイブリッド実応力解析」を提案する.
 中性子測定により得られた三軸応力状態での周方向応力σhのマップをFig. 3  (a)に示す.この結果を利用して放射光により測定された軸方向のひずみεaと半径方向のひずみεrから軸方向の応力σaとσrを求めると,Fig. 3 (b), (c)を得ることができる.Fig. (b)を見ると溶接ルート部の近くの内面に大きなσaが発生していることがわかる.本測定結果は,突合せ溶接配管の応力腐食割れ発生位置とよく一致しており,量子ビームハイブリッド実応力解析の有効性が実証できた.本課題により,測定が困難であった溶接部の詳細な応力マップの作成が実現できた.

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Fig. 1  Diffraction images measured using DEM (double exposure method)



Fig. 2  Diffraction radii at P1 and P2



Fig. 3 Maps of residual stresses in welded part. (a) Hoop residual stress map obtained using neutron. (b) and (c) are detailed residual stress maps obtained using hybrid actual stress analysis with quantum beam. 


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

・共同研究者:三浦靖史(電力中央研究所),豊川秀訓(JASRI),佐治超爾(JASRI)
・外部競争的資金:令和2年度学術研究助成基金助成金基盤研究 (C) 課題番号 20K04156
・他の支援機関:中性子回折の実験は,東京大学工学系研究科原子力専攻,日本原子力研究開発機構・量子科学技術研究開発機構施設利用共同研究のもとで,JAEA研究炉JRR-3を用いて実施された (課題番号21032).
・放射光実験に協力いただいた城鮎美博士(QST)および中性子実験に協力いただいた菖蒲敬久博士(JAEA),諸岡聡博士(JAEA)に感謝します.


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Kenji SUZUKI, A Study on Stress Measurement of Weld Part using Double Exposure Mehtod, Journal of the Society of Materials Science, Japan, 71, 1005-1012(2022).
    DOI: 10.2472/jsms.71.1005
  2. Kenji SUZUKI, Stress Measurements of Quasi-Coarse Grained Material using Double Exposure Method with High-Energy Monochromatic X-Rays, Journal of the Society of Materials Science, Japan, 71, 347-353(2022).
    DOI: 10.2472/jsms.71.347
  3. Kenji SUZUKI, Actual Stress Analysis of Small-Bore Butt-Welded Pipe by Complementary Use of Synchrotron X-Rays and Neutrons, Journal of the Society of Materials Science, Japan, 72, 316-323(2023).
    DOI: 10.2472/jsms.72.316
  4. Kenji Suzuki, Actual Stress Analysis of Welded Part Using a Quantum Beam Hybrid Method, Key Engineering Materials, 968, 3-8(2023).
    DOI: 10.4028/p-nT6rfV
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 鈴木賢治, “量子ビームを利用した実応力解析” 日本鉄鋼協会北海道支部ノースフォーラム「第2回北の耐熱合金セミナー」, 令和4年11月29日.
  2. 鈴木賢治, “放射光を利用した粗大粒、溶接部の応力測定手法の開発” 第18回SPring-8金属材料評価研究会第3回放射光・中性子連携利用研究会,第80回SPring-8 先端利用技術ワークショップ「放射光・中性子を活用した金属材料の分析技術」, 令和4年11月1日.
  3. Kenji Suzuki, “Stress Measurement of Shrink-Fitted Ring using Double-Exposure Method with Hard Synchrotron X-Rays” The 11th International Conference on Residual Stresses, ICRS-11, 令和4年3月30日.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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