利用報告書 / User's Reports


【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.13】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22UT0196

利用課題名 / Title

不安定有機金属化合物の構造解析

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学 / Tokyo Univ.

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)マテリアルの高度循環のための技術/Advanced materials recycling technologies(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

水素化触媒,化学選択性,構造解析,X線回折/X-ray diffraction,分離・精製技術/ Separation/purification technology,資源循環技術/ Resource circulation technology


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

岩崎  孝紀

所属名 / Affiliation

東京大学

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes

武政雄大,柘植一輝,萬代遼,Thakun Chen,原正宜

ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-201:無機微小結晶構造解析装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

分子状水素による有機化合物の水素化反応は原子効率に優れた還元プロセスである。しかし、カルボン酸および炭酸のエステルやアミドの触媒的水素化分解は今なお困難な反応様式である。本研究では独自に開発したイリジウム触媒によるウレア類のホルムアミドとアミンへの化学選択的な水素化分解の反応機構を明らかにするため、触媒前駆体および水素雰囲気下で生じる触媒活性種の構造を結晶構造解析装置により明らかにした。

実験 / Experimental

配位子とイリジウム錯体を作用させ、得られた触媒前駆体の単結晶を無機微小結晶構造解析装置 (X-ray Single Crystal Diffractometer)(UT-201)を用いて構造解析を行った。また、触媒活性種のモデル分子として、用いるイリジウム錯体をカチオン性錯体にかえることで、水素分子を活性化して生じる触媒活性種のモデル錯体を調製し、その分子構造を明らかにした。

結果と考察 / Results and Discussion

ピロールとジフェニルホスフィノ基を有する二座配位子をNaHにより脱プロトン化し、ついで[IrCl(cod)]2を作用させることにより、イリジウム錯体を調製した(Scheme 1)。得られた錯体の再結晶により単結晶を調製した。無機微小結晶構造解析装置 (X-ray Single Crystal Diffractometer)(UT-201)を用いて構造解析をおこなった(Fig. 1)。得られた構造はNMRなどの各種分光学測定と矛盾のない構造であった。
本触媒は、ウレア2の水素化分解によってホルムアミド3とアミン4の1:1混合物を与える(Scheme 2)。通常、カルボニル化合物のなかで、ウレアはもっとも反応性が低く、中間体として生じるホルムアミドはさらなる水素化を受けてメタノールとアミンまで水素化されることが知られている。これに対して本触媒系は反応性の低いウレアが選択的に水素化する特徴を有する。
この特異な化学選択性を明らかにするために、触媒活性に関する知見を得るために錯体化学的な検証を行った。 [IrCl(cod)]2に代えて [Ir(cod)2]BArF4(BArF4 = tetrakis[3,5-bis(trifluoromethyl)phenyl]borate)を配位子に作用させた(Scheme 2)。NMR分析の結果、二種類の化学種の平衡混合物の生成が示唆された。再結晶により得られた一方の化学種の構造解析を行ったところ、ピロール環の5位がプロトン化されたカチオン性錯体5であることが明らかとなった(Fig. 2)。また、NMR分析の結果もう一方の化学種はピロールの窒素結合がプロトン化された構造であることを決定した。
これらの結果は、分子状水素との反応により類似の化学種が生成し、ピロール環の比較的酸性度の高いプロトンが塩基性の高いウレアの酸素を選択的にプロトン化することにより、上記の特異な化学選択性が発現することを示唆する結果である。さらに、本触媒をポリウレア樹脂の水素化分解によるケミカルリサイクルにも応用した。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


Scheme 1. Synthesis of Ir/PN complex 1



Scheme 2. Ir-catalyzed Chemoselective hydrogenolysis of urea to formanilide and aniline.



Scheme 3. Synthesis of cationic Ir complexes having PN ligand. 



Fig. 1 ORTEP drawing of Ir complex 1 with thermal ellipsoid at 50% probability level.



Fig. 2 ORTEP drawing of cationic Ir complex 5 with thermal ellipsoid at 50% probability level.


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

・ERATO(JST) Grant Number JPMJER2103「野崎樹脂分解触媒プロジェクト」
・学術変革領域研究(A)デジタル有機合成(MEXT) 22H05340「触媒制御によるカルボニル基の水素化の化学選択性逆転と反応機構の解明」
・官民による若手研究者発掘支援事業(NEDO) JPNP20004「水素を用いたポリウレア樹脂のケミカルリサイクル」
・ENEOS東燃ゼネラル財団「尿素の水素化・脱水素化を利用した安全な不揮発性水素貯蔵媒体の開発」
・住友財団「触媒的水素化分解を利用した難分解性樹脂のケミカルリサイクル」


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
  1. Takanori Iwasaki, Chemoselectivity Change in Catalytic Hydrogenolysis: Ureas to Formamides and Amines, , , (2023).
    DOI: 10.26434/chemrxiv-2023-z49zw
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
  1. 内藤 直樹・柘植 一輝・岩﨑 孝紀・野崎 京子、“イリジウム触媒によるウレア類のホルムアミドとアミンへの水素化分解における配位子の効果の解明”日本化学会第103春季年会 東京理科大学野田キャンパス 千葉 2023年3月22–25日 K502-2vn-14 (口頭)
  2. 齋藤 仁奈・岩﨑 孝紀・野崎 京子、“PN配位子を有するマンガン錯体の合成とカルボニル化合物の水素化反応への応用”日本化学会第103春季年会 東京理科大学野田キャンパス 千葉 2023年3月22–25日 K504-2vn-06 (口頭)
  3. 柘植 一輝・内藤 直樹・岩﨑 孝紀・野崎 京子、“イリジウム触媒を用いたジホルムアミドとジアミンへの選択的水素化分解によるポリウレア樹脂のケミカルリサイクル”日本化学会第103春季年会 東京理科大学野田キャンパス 千葉 2023年3月22–25日 K404-4am-04 (口頭)
  4. 岩﨑 孝紀、“イリジウム触媒によるウレアの化学選択的水素化分解” 学術変革領域 A:デジタル化による高度精密有機合成の新展開 令和4年度 第3回成果報告会 大阪 2023年1月27–28日 O-6 (口頭)
  5. 柘植 一輝・内藤 直樹・岩﨑 孝紀・野崎 京子、“ホスフィンピロリド配位子を有するイリジウム触媒によるウレア類のホルムアミドとアミンヘの選択的水素化分解”第12回CSJ化学フェスタ2022 タワーホール船堀 東京 2022年10月18–20日 P1-062 (ポスター) 優秀ポスター発表賞
  6. 柘植 一輝・内藤 直樹・岩﨑 孝紀・野崎 京子、“イリジウム触媒によるウレア類選択的なホルムアミドとアミンヘの水素化分解 第68回有機金属化学討論会”東京工業大学大岡山キャンパス 東京 2022年9月6–8日 PA-06 (ポスター) ポスター賞
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:1件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

印刷する
PAGE TOP
スマートフォン用ページで見る