利用報告書 / User's Report

【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.16】

課題データ / Project Data

課題番号 / Project Issue Number

22UT0076

利用課題名 / Title

水田土壌の窒素供給力を支える鉄還元菌窒素固定の学術的基盤解明と低窒素農業への応用

利用した実施機関 / Support Institute

東京大学

機関外・機関内の利用 / External or Internal Use

内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)

技術領域 / Technology Area

【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)計測・分析/Advanced Characterization(副 / Sub)-

【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)次世代バイオマテリアル/Next-generation biomaterials(副 / Sub)-

キーワード / Keywords

水田土壌, 粘土鉱物, バーミキュライト, XRD,X線回折/X-ray diffraction


利用者と利用形態 / User and Support Type

利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)

小暮 敏博

所属名 / Affiliation

東京大学

共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type

(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-


利用した主な設備 / Equipment Used in This Project

UT-203:粉末X線回折装置


報告書データ / Report

概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)

昨今のSDGs(持続可能な開発目標)において、より環境負荷をかけない農業の実現は重要課題のひとつと言える。本テーマは、水田土壌中の鉄還元菌が大気中の窒素固定の機能を有するという東京大学農学部妹尾研究室による最近の発見を発展させ、鉄還元菌をより活性化する水田土壌の成分とはどのようなものかを探索するものである。これにより水田土壌への施肥量を減少させ、環境負荷の少ない稲作が実現できる可能性がある。ここでは、水田土壌における主要な無機画分として存在し層状珪酸塩の構造を有する微細な粘土鉱物に着目する。粘土鉱物の種の特定には通常粉末X線回折が利用され、特に各種粘土鉱物に特有な底面反射の格子面間隔(d001)で判断するのが最も簡便で一般的な方法である。しかしながら、同じようなd001のため通常の粉末X線回折判別が難しい粘土鉱物種も存在する。そのためにin-situで粘土鉱物を加熱しながら、その脱水プロセスによるX線回折パターンの変化を記録していく昇温XRDが有効と考えられ、本研究では水田土壌の昇温XRDを実施した。

実験 / Experimental

粉末X線回折パターンにおける底面反射を用いた層状珪酸塩の粘土鉱物の同定において、とくに1.4 nm~1.5 nmに対応する底面反射(ピーク)を示す鉱物の同定を昇温XRDで行なった。このような値の底面反射を示す層状珪酸塩あるいは粘土鉱物にはスメクタイト系、緑泥石、3八面体型の通常のバーミキュライト、2八面体型のHIV(hydroxyl-interlayered-vermiculite)などが考えられる。これらの鉱物は加熱脱水により底面間隔が小さくなり、それに対応してピークが高角側に移動するが、その温度依存性は各鉱物によって異なる。今回はつくば市の農研機構 農業環境研究所の水田土壌を調べた。また比較として福島県小野町の風化花崗岩土壌(真砂土)中の黒雲母から変質したバーミキュライトも同様な条件で測定した。水田土壌は約60℃で1日乾燥後、電動式の篩振とう機で約32μm以下の粒子を収集した。 昇温XRD分析には,東京大学微細構造解析プラットフォームのXRD装置(Rigaku SmartLab)とそれに装着した昇温アタッチメント(Anton Paar DHS 900)を使用し,X線源はCu管球(40kV/45mA)、単色化はNiフィルター、X線検出器はRigaku D/tX Ultra2を用いた。粉末試料を白金製の板状ホルダーの凹みに充填し、昇温アタッチメントのグラファイトヒータ-の上に置いた後、試料表面が焦点円に乗るように高さ調整を行なった。すべての測定で昇温スピードは10℃ /minとし、測定温度に達した後に温度を一定にして回折パターンを測定した。発散スリットは1/4°とし、2θ= 5 ~ 15°の範囲を1.5°/minの速度で走査した。

結果と考察 / Results and Discussion

添付した図1の(A)に水田土壌の、(B)に真砂土より採取したバーミキュライトの昇温XRDパターンを示す。ここで着目するのは室温あるいは50℃の回折パターンにおいて、太い青矢印で示した格子間隔が約1.4 nmの比較的ブロードなピークである。このピークは水田土壌とバーミキュライトの両試料で見られ、しかも昇温によるピーク位置の変化も細い赤矢印のようにほぼ同様な傾向を示す。また水田土壌の室温における回折パターンの2θ= 60°付近には3八面体型の層状珪酸塩のd060に対応するピークが確認できることから、水田土壌中のこの約1.4 nmのピークは3八面体型のバーミキュライトであると結論することができた。今後このバーミキュライトが主体の水田土壌において、この鉱物が1年の稲作サイクル中に起こる酸化還元反応にどのように関与するのか、鉄還元菌の活性化にどのような寄与できるかなどを調べて行く予定でいる。

図・表・数式 / Figures, Tables and Equations


図1. (A) 水田土壌、(B)真砂土中のバーミキュライトの昇温によるX線回折パターンの変化。図中太い青矢印が室温におけるバーミキュライトの底面反射で、細い赤矢印はその昇温によるピーク位置の変化を示す。


その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)

装置のセットアップとデータの解析でお手伝いいただいた東京大学工学系研究科総合研究機構ナノ工学研究センター東京大学・(株)リガク産学連携室(兼担)の府川和弘、飯盛桂子両氏に感謝いたします。


成果発表・成果利用 / Publication and Patents

論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents

特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件

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