【公開日:2023.07.31】【最終更新日:2023.05.16】
課題データ / Project Data
課題番号 / Project Issue Number
22UT0045
利用課題名 / Title
ペロブスカイト型半導体の組成分析
利用した実施機関 / Support Institute
東京大学 / Tokyo Univ.
機関外・機関内の利用 / External or Internal Use
内部利用(ARIM事業参画者以外)/Internal Use (by non ARIM members)
技術領域 / Technology Area
【横断技術領域 / Cross-Technology Area】(主 / Main)物質・材料合成プロセス/Molecule & Material Synthesis(副 / Sub)計測・分析/Advanced Characterization
【重要技術領域 / Important Technology Area】(主 / Main)革新的なエネルギー変換を可能とするマテリアル/Materials enabling innovative energy conversion(副 / Sub)高度なデバイス機能の発現を可能とするマテリアル/Materials allowing high-level device functions to be performed
キーワード / Keywords
再生可能エネルギー材料, ペロブスカイト型半導体, 有機無機ペロブスカイト型半導体, ペロブスカイト太陽電池, X線光電子分光,電子分光,太陽電池/ Solar cell,パワーエレクトロニクス/ Power electronics
利用者と利用形態 / User and Support Type
利用者名(課題申請者)/ User Name (Project Applicant)
五月女 真人
所属名 / Affiliation
東京大学
共同利用者氏名 / Names of Collaborators in Other Institutes Than Hub and Spoke Institutes
近藤高志,笹木廉,劉子豪,Jung Hanbo
ARIM実施機関支援担当者 / Names of Collaborators in The Hub and Spoke Institutes
利用形態 / Support Type
(主 / Main)機器利用/Equipment Utilization(副 / Sub)-
利用した主な設備 / Equipment Used in This Project
UT-301:多機能走査型X線光電子分光分析装置(XPS)
UT-202:高輝度In-plane型X線回折装置
報告書データ / Report
概要(目的・用途・実施内容)/ Abstract (Aim, Use Applications and Contents)
ハロゲン化金属ペロブスカイト型半導体は組成ABX3のペロブスカイト構造からなる半導体で,Aが一価カチオン(Cs+,CH3NH3+など),Bが金属イオン(Pb2+,Sn2+など),Xがハロゲンイオン(I−,Br−など)である。このハロゲン化金属ペロブスカイト型半導体を光吸収層に用いた薄膜太陽電池は,「ペロブスカイト太陽電池」と呼ばれ,ペロブスカイト型半導体の層で光を吸収しキャリアを生成する。発電効率の高い次世代太陽電池として注目を集めている。 ペロブスカイト太陽電池の光吸収層は大半の場合,一様な組成の材料を扱っているが,太陽電池材料のひとつである化合物半導体では,厚み方向で組成が連続的に変化する傾斜組成構造により効率を向上させる技術が確立されている。ペロブスカイト太陽電池に応用することができれば化合物半導体と同様に,開放端電圧の増大,吸収端の長波長化による光電流の増大,電子正孔対の生成・取り出し効率向上などの利点が期待される。CsSnxPb1-xBr3傾斜組成薄膜の安定性を評価するために,厚み方向で組成が0〜100%の範囲で変化する傾斜組成薄膜を作製し,その組成の深さ方向の分布を多機能走査型X線光電子分光分析装置(設備ID UT-301)により評価した。
実験 / Experimental
表面及び厚み方向の化学組成分布を確認するためにArイオンによるスパッタリングをしながらXPSスペクトル測定を行った。PHI 5000 Versa Probe(設備ID UT-301)を使用した。試料は、(Pb/Sn)の組成率が0〜100%で線形に変化する線形傾斜組成を持つ薄膜を作製した(図1)。 加速電圧1 kVでArイオンを加速し,薄膜表面をスパッタリングとXPS のナロースペクトル測定を交互に繰り返し,各層の元素組成を分析した(図2)。詳細な元素分析を行うため,エネルギー範囲を目標とするイオンの電子軌道のエネルギー付近に限定して検出を行った。また,検出器の分解能を改善するため,Pass Energyはサーベイスペクトルと比べて小さい値に設定した。
結果と考察 / Results and Discussion
解析ソフトMulti Pak (version 9.9.3) を用いGauss-Lorentz関数によるフィッティングを行った。Sn 3d軌道,Pb 4f軌道,Cs 3d軌道,Br 3d軌道それぞれのピーク強度とスパッタリング時間の関係を図3に示す(それぞれの元素のピークの最大値で規格化)。XPSスペクトルでは,ピーク強度比が組成比と対応する。すなわち,Snの組成はSn 3d軌道,Pbの組成はPb 4f軌道,Csの組成はCs 3d軌道,Brの組成はBr 3d軌道のピーク強度と対応する。結果より,CsとBrはほとんど一定であり,SnとPbはおおよそ線形に変化していた。このことから,線形傾斜組成薄膜は精度良く作製できており,蒸着レートにより組成を精密に制御可能であることが確認された。蒸着時から1週間程度真空条件下で保管した後にXPS測定を行ったため,真空条件下では少なくとも1週間以上イオン移動が起こらず,安定であると考えられる。 また,表面付近のSnの強度から,Sn2+の表面偏析が確認された。さらに,表面付近でCsの強度が増加しており,BrおよびPbの強度が減少していることから,Cs4SnBr6あるいはCs4PbBr6として積層されたと考えられる。これはSn2+の表面偏析に起因する可能性が考えられるが,そのメカニズム解明については今後の課題である。
図・表・数式 / Figures, Tables and Equations
図1. (a) SnBr2, PbBr2, CsBrの蒸着レートの時間依存性。(b)薄膜の写真。(c)薄膜内の組成分布の模式図。
図2. Arイオンスパッタリングと交互に測定したXPSスペクトル。(a) Sn 3d軌道,(b) Pb 4f軌道,(c) Cs 3d軌道,(d) Br 3d軌道。破線は各元素の電子軌道の典型的ピーク位置。赤線より下はガラス基板。図中のt [min]は各測定前までの合計スパッタリング時間。
図3. XPSスペクトル強度のスパッタリング時間依存性。ただし,それぞれのピーク強度は最大値で規格化している。
その他・特記事項(参考文献・謝辞等) / Remarks(References and Acknowledgements)
大学院工学系研究科附属総合研究機構ナノテクノロジープラットフォームの沖津康平様には、PHI 5000 Versa Probe(設備ID UT-301)の使用方法について詳細にご教授いただきました。深く御礼申し上げます。 本実験データは下記の卒業論文に用いた:笹木廉, 『ハロゲン化金属ペロブスカイト型半導体CsSnxPb1-xBr3傾斜組成薄膜の作製と評価』, 東京大学工学部マテリアル工学科卒業論文 (2023年2月)。
成果発表・成果利用 / Publication and Patents
論文・プロシーディング(DOIのあるもの) / DOI (Publication and Proceedings)
口頭発表、ポスター発表および、その他の論文 / Oral Presentations etc.
特許 / Patents
特許出願件数 / Number of Patent Applications:0件
特許登録件数 / Number of Registered Patents:0件